表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『【サイド】悪役令嬢とお友達になりたい。~エリザベート学園交流録~』  作者: ゆう
黒薔薇会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/26

黒薔薇の会 ― 悪役令嬢なのに尊敬されるサロン ― 第3話「嫌味講座 ― なぜか品格が爆上がりします」

黒薔薇の会 ― 悪役令嬢なのに尊敬されるサロン ―


第3話「嫌味講座 ― なぜか品格が爆上がりします」


「本日は“嫌味”の実践講座でございますわ」


その宣言と同時に、黒薔薇の会にぴんと緊張が走った。


東屋には紅茶と菓子、そして何より

“悪役としての覚悟”を胸に集った六人の令嬢たち。


その中心に、堂々と立つエリザベート。


「嫌味とは、ただ意地悪を言うことではありませんの。

相手の心を、じわりじわりと侵食し、優雅に心を折る……それが真なる悪役の技ですわ」


どこかうっとりした声音だった。


「まずは基礎から参りましょう。


ターゲット役は――マルグリット」


「ひゃっ……!」


名を呼ばれ、背筋をぴんと伸ばすマルグリット。


「よろしいですわ。では実演いたします」


エリザベートは一歩近づき、穏やかに笑った。


「マルグリット。

あなたのその髪色……影に咲く花のようで、控えめでよろしいですわね」


優しい口調だった。


だが続けて、すっと細めた眼差しで言う。


「……ですが、陽の下に立つ勇気は、まだお持ちでないようですわ」


一瞬、空気が凍る。


……はずだった。


マルグリットの目に、きらりと光が宿る。


「……エリザベート様……私の弱さを、見抜いてくださって……」


「違いますわ!!今のは傷つけるところですのよ!?」


「私……勇気を出してみます……!」


「なぜ前向きになるんですの……!?」


横で見ていたフローラが息を呑む。


「あんなふうに……相手の痛みに触れつつも、否定しないなんて……」


「否定しておりますわよ!?」


クレアは腕を組み、分析を始めた。


「精神に配慮しながら、的確に核心を突く……これは高度な心理誘導です」


「誘導ではなく嫌味ですわ!!!」


リリアは感動で拳を握る。


「なるほど!悪役って、相手の人生を変える言葉を投げるんですね!」


「変えようとしていませんのよ!!」


セシリアが静かにため息をついた。


「……誇り高き言葉って、こういうのを言うのね」


もう全滅である。


エリザベートはこめかみを押さえた。


「いいですか、皆様。

嫌味とは、尊敬ではなく“不快感”を与えるものなのですわ」


「はい!」


全員がなぜか元気よく返事をした。


嫌な予感しかしない。


「次は実践ですわ。

クレア、あなたからマルグリットへ」


「承知しました」


クレアはすっと背筋を伸ばし、氷のような表情で言う。


「マルグリット様……

あなたの優しさは素晴らしいですが、それは時に“責任を負う覚悟”から逃げる言い訳にもなります」


沈黙。


だがマルグリットは目を潤ませた。


「そんなふうに言ってもらえたの、初めてです……」


「……想定外の反応です」


フローラが恐る恐る続く。


「マルグリット様……その笑顔、とても素敵です……でも……

もう少し、自信を持たれるべきだと思います」


「フローラ……あなた……」


二人の間に、友情という光が生まれかけた。


「ちがいますわ!!!

それは friendship ですわ!!!」


リリアがはしゃいで言う。


「じゃあ私も!

えっと……セシリア様、その知的な雰囲気、ちょっと怖いですけど……でも超かっこいいです!!」


ドン。


「……褒めてどうしますの……」


セシリアは笑いをこらえつつ口を開く。


「リリア、あなたの行動力は凄まじいわね……

普通なら浮くところだけど、あなたは場を明るくしてしまう」


「えへへ!」


「……完全に賞賛大会ですわね……」


エリザベートは深く息を吐いた。


「では最後。

本当に悪役らしい例をお見せいたします」


扇を持ち直す。


「フローラ」


「は、はい」


「あなたのような方は……きっと誰かの光になるのでしょうね」


柔らかな微笑。


そして、冷たい声。


「……ただし、その光はご自身を燃やし尽くしてしまうかもしれませんけれど」


しん、と場が静まる。


フローラは一度目を伏せ、やがて小さく頷いた。


「……気をつけます」


「そこは、傷ついて泣く流れでは……」


マルグリットがそっと言った。


「エリザベート様は……

私たちを傷つけたいのではなく、“向き合ってくださっている”のですね」


「……違いますと何度申せばよろしいのですか」


だが、誰もがその姿に真剣な尊敬を宿していた。


そして東屋の外では、またしてもひそひそ声。


「あれが黒薔薇の会……」

「なんて上品な会話……」

「人格教育ですわね……」


エリザベートはそっと扇を閉じる。


「最後に一つ申し上げますわ」


全員が息を呑む。


「明日からは、もっと純度の高い嫌味をぶつけてまいります」


誇らしげに宣言した。


「それでも、泣かないでくださいませね?」


「はい!!」


なぜか全員、とても嬉しそうだった。


(……間違っていますわ……間違っているはずなのに……)


しかしエリザベートは、

その中心に立つ自分の姿を鏡で見たとき、思ってしまう。


――これはこれで、悪くないかもしれませんわね。


黒薔薇の会は今日も順調に勘違いを積み重ね、

王都の品格を底上げしていた。



次回予告


第4話

「悪役発声練習 ― なぜか演説力が異常成長」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ