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『【サイド】悪役令嬢とお友達になりたい。~エリザベート学園交流録~』  作者: ゆう
エリザベートの事件簿

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第3話 “誤解の講義”と新聞部包囲網

本日も学園は平穏……とは限りませんわ。

わたくしが何もしていなくても、なぜか勝手に事件が発生して、

さらに勝手にわたくしの功績になりますの。

理不尽ですわよね?


黒薔薇会の皆さまも今日も絶好調に暴走しているようですし、

どうぞ肩の力を抜いてご覧くださいませ。


――では、エリザベートの学園事件簿、開幕ですわ。

第3話 “誤解の講義”と新聞部包囲網


授業が終わった直後、エリザベートはふうっと小さく息を吐きながら廊下を歩いていた。

黒薔薇会室――黒薔薇会専用に割り当てられた小会議室へ向かう途中、

いやな気配がすうっと背筋を撫でた。


(この……空気……記者の気配ですわ)


次の瞬間、机の陰・ロッカーの裏・植木の影から、

新聞部が音もなく飛び出してきた。


「ローゼンクロイツ様ッ!!」

「今日の“恋文事件”の続報を!!」

「『黒薔薇の慈悲』シリーズ第2弾として掲載を!!」


「……ストップなさいませ」


エリザベートは優雅に手を上げた。

その仕草に新聞部がひざまずきかける。


「その尊い手が……!」

「威厳のある制止……!!」


(わたくしはただ“やめて”と言っただけですのに……)


新聞部の筆が一斉に走り始めるのを見て、エリザベートは即座に距離を取った。


「取材はお断りですわ。黒薔薇会の内情は公開しておりませんのよ」


「内情……!」

「つまり裏ではもっと深い活動が……!?」


「………………」


(わたくしの言葉……全て誤解の材料になっていきますわ)


記者たちのテンションが爆上がりしていく様子にため息をつきながら、

どうにか彼らを撒いて黒薔薇会室へ滑り込んだ。


ドアを閉めると同時に――


「エリザベート様ぁぁ、無事ですかぁ!?」

「新聞部に囲まれたって聞いて……!」

フローラが涙目で飛びついてきた。


マルグリットもおろおろしながらハンカチを差し出す。


「ご無事で……何よりでして……!」


セシリアは窓から外を見て鼻で笑った。


「まだ外に群がってるわね。まるでエリザベートの出待ち」


「出待ちなどいりませんわ!!」


クレアが机の前に立ち、全員を見回す。


「新聞部が騒ぐ前に、“悪役令嬢の本質”を確認しておきましょう」


リリアが興奮気味に叫ぶ。


「きたーっ!! エリザベート様の悪役講義!!」


「講義と言うほどたいしたものでは――」


「ううん、重要ですぅ! わたしたち黒薔薇の未来がかかってますぅ!」


フローラが両手を握って真剣に見てくる。


(……ここまで期待されると、断れませんわね)


エリザベートは仕方なく椅子に腰を下ろし、

黒薔薇会の面々が列になって座る。


こうして“黒薔薇会特別講義・悪役編”が始まった。



「まず、悪役令嬢とは“悪役を演じる淑女”ではなく――」


エリザベートが語り始めた瞬間、全員が背筋を伸ばした。


「“正しい目的のために悪名を背負う覚悟を持つ者”ですわ」


クレアが唸るようにつぶやく。


「深い……」


マルグリットが震えながらメモを取る。


「覚悟……そんな強さを……わたくしも……!」


フローラがキラキラした目で聞いている。


「エリザベート様、かっこいいですぅ……!」


リリアは胸を叩いて叫ぶ。


「わかりました!! 悪役とは!!

 ヒーローより強い決意のことですね!!」


「ちがいますの!!」


どこからどう曲げればそうなるのか、

エリザベートには理解できなかった。


だが、リリアが爆走し始める前に釘を刺す。


「よろしい? 悪役とは、わたくしたち自身が“正しい”と思った行動をすること。

 罠にも、陰謀にも流されず……自分の意志で立つことですわ」


セシリアがふっと目を細めた。


「つまり……自分の人生に、覚悟を持つってことね」


「そうですわ」


その言葉が教室に満ちると、空気がいつもより落ち着いた。


(あら……皆、こんなに真剣に……)


エリザベートは少しだけ胸が熱くなるのを感じた。


だが――


次の瞬間、バンッ!! と黒薔薇会室の扉が開いた。


「エリザベートォォォ!!」


(またですの?)


王太子アルフォンスが息を切らして突入してきた。


「今日の“講義”が学園中に広まっている!!

 皆が“悪役令嬢の道標”と称えているぞ!!」


「………………誰がそんなことを?」


「新聞部だ!! もう校内号外が出ている!!」


(早すぎますわ!!)


セシリアが窓の外を指差す。


「ほら、例の黒薔薇クッキーと一緒に貼られてる」


エリザベートは頭を抱えそうになる。


(どうして……どうしてわたくしの何気ない言葉が……“名言”扱いになりますの……!?)


クレアが冷静に状況を分析する。


「エリザベート様の言葉は“誤解される前提”で世に放たれるのです。

 もはや防ぎようはありません」


「いやですわそんな前提!!」


フローラは涙目でハンカチを握りしめている。


「エリザベート様が……また称賛されちゃって……」


リリアは拳を握って叫ぶ。


「エリザベート様!! いっそ校庭で公開講義しましょう!! 学園支配できますよ!!」


「支配などいたしませんの!!」


そんな騒動の中、扉の隙間からひょこっと新聞部が顔を覗かせた。


「エリザベート様、次は“悪役令嬢の恋愛論”について取材を――」


「出ていきなさいませ!!」


新聞部はキャーッと嬉しそうに逃げていった。


(嬉しそうに逃げましたわね……?)


アルフォンスがそっと近づき、

まるで厳粛な儀式のように膝をついた。


「エリザベート……君は……本当に……」


(嫌な予感しかしませんわ)


「……ヒロインを導く存在なのか……?」


「なっておりませんわ!!」


「しかし皆が君を“導き手”と呼んでいる!!」


クレアが淡々と言う。


「殿下、エリザベート様に関わると誤解が増えます。離れてください」


「なぜだ!!」


「あなたが燃料だからです」


「燃料!? 私は燃えてなどいない!!」


「殿下……もはや殿下を見るだけで火種を感じますぅ……」

フローラが小声でつぶやく。


リリアがうなずいた。


「わかります!! 殿下がいるだけで事件が起きそう!!」


「そんなにか!?」


エリザベートは、そっと深呼吸した。


(……これ以上この場に殿下を置いておくと、本当に事件が起きますわ)


「殿下、今日はもうお帰りくださいませ。

 わたくしはこれより黒薔薇会の活動に戻ります」


「くっ……しかし私は……!」


「お帰りなさいませ」


スパッと言い切ると、アルフォンスはしゅんとしながら退室した。



静けさが戻り、エリザベートは椅子に戻った。


だが――黒薔薇会の視線が温かすぎた。


「エリザベート様……素敵でしたぁ……」

「悪役の覚悟……心に沁みました……」

「さすがエリザベート様!! 先生よりわかりやすいです!!」


「……………………」


(なぜ……ただの思いつきを言っただけですのに……)


フローラがそっとエリザベートの袖を引いた。


「エリザベート様……

 わたしたちを……導いてくださって、ありがとうございますぅ……」


その笑顔は、誤解ですら温かい。


エリザベートは胸の奥がふっと熱くなるのを感じた。


「……わたくしは導いてなどおりませんわよ。

 ただ……皆と一緒に学んでいるだけですの」


そう呟くと、黒薔薇会の面々が一斉に顔を赤らめた。


クレアが静かに微笑む。


「それが、あなたが“導く者”になってしまう理由ですよ、エリザベート様」


(……そんなつもりはありませんわ……)


だが――もしかすると。

黒薔薇会という居場所の中でだけは、

“誤解される自分”を少しだけ誇ってもいいのかもしれない。


そんな気持ちが芽生える第3話の夕暮れだった。

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