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『【サイド】悪役令嬢とお友達になりたい。~エリザベート学園交流録~』  作者: ゆう
黒薔薇会

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黒薔薇の会 ― 悪役令嬢なのに尊敬されるサロン ― 第6話「殿下、偶然通りかかる ― 黒薔薇空間が凍結します」

黒薔薇の会 ― 悪役令嬢なのに尊敬されるサロン ―


第6話「殿下、偶然通りかかる ― 黒薔薇空間が凍結します」


その日、黒薔薇の会はいつもよりも“静か”だった。


正確には、

「決して穏やかではない」という意味での静寂である。


「……すでに嫌な予感がいたしますわ」


エリザベートは扇をくるりと回しながら、鋭く告げた。


すると――


庭園の入り口から、聞き覚えのある声が響いた。


「ここが……噂の“黒薔薇の会”か」


空気が、凍った。


現れたのは王太子。

しかも、部下も側近も連れぬ、ひとり視察という最悪のパターン。


「お花畑視察か何かとお間違えではなくて?」


エリザベートの声は氷点下だった。


「違う。純粋な興味だ」


「それが一番困りますわ」


六人の令嬢は、なぜか背筋を正し、姿勢を整えた。


まるで

“悪役令嬢の試験官”が来たかのように。


マルグリットが小さく囁く。


「……殿下……」


「安心なさい。噛みつきませんわよ。

……たぶん」


「その“たぶん”が怖いです……」


殿下は一歩近づき、感心したように辺りを見渡した。


「これが黒薔薇の会……

噂通り、非常に落ち着いた空間だな」


「落ち着かせる場ではございませんのよ?」


「精神鍛錬の場なのだろう?」


「悪役養成所でございます」


「なるほど。女性たちが自立するための」


「悪役養成でございます」


「王宮としても、こうした志は尊い」


「尊くないですわ!!!」


クレアが静かに口を開く。


「殿下、誤解なさっております」


「何がだ?」


「我々は“嫌われる訓練”をしているのです」


リリアが拳を握る。


「でも、かっこいい嫌われ方ですよね!」


「黙ってなさい!」


殿下は興味深そうに尋ねた。


「実際、何をしているのだ?」


エリザベートはふっと笑う。


「よろしいですわ、お見せいたしましょう」


そして、扇を閉じて宣言した。


「今この場で、殿下を対象に“模範的な悪役対応”を行います」


空気が凍結した。


「私を……?」


「ええ。

わたくしの“目に障る存在”として扱わせていただきますわ」


「それは光栄だな」


「光栄に思わないでくださいませ」


すっと近づき、

冷酷な微笑を浮かべる。


「殿下……そのご発言、少々、無神経ではなくて?」


王太子の目がわずかに見開かれた。


「貴方様は常に“善意”という名の直球で物を仰いますけれど……

それが、どれほど周囲を追い詰めているか――

ご理解なさっておりますかしら?」


しん、と静まり返る空間。


……だが。


王太子は深く息を吐いた。


「なるほど……正直だな」


「そういうことではございません」


「君は常に、物事の本質を突く」


「突いても褒めないでくださいませ」


マルグリットは緊張しながら呟く。


「エリザベート様……すごい……」


「怖いくらい凛とされている……」とフローラ。


クレアが冷静に分析する。


「これは“王族教育における革命”ですね」


「革命ではなく罵倒ですわ」


殿下は苦笑した。


「だが……それでも、君の言葉に偽りはない」


「だから嫌味でございますの」


「耳の痛い真実ほど、価値があるものだ」


「価値を感じないでください!」


リリアが横からぼそり。


「でも、殿下、ちょっと嬉しそうですよね」


「嬉しくないぞ」


「照れてます?」


「違う」


「図星ですわね」


「違うと言っているだろう!」


空気が一瞬、和んだ。


だがエリザベートはすぐに扇を掲げ直す。


「では次。

“冷笑による圧”」


王太子を見下ろすように視線を落とし、静かに言い放つ。


「……殿下は、きっと優しすぎるのでしょうね」


「どういう意味だ?」


「誰かの心を想う一方で、

ご自身の立場がもたらす重みに、気づかぬまま」


その声は柔らかく、しかし鋭かった。


一瞬、王太子は言葉を失った。


マルグリットが小さく息を呑む。


「……刺さってます……」


「これはもはや政治的助言では?」


とクレア。


「だから悪役ですのよ!」


だが場の空気は、確実に変わっていた。


王太子は静かに頭を下げた。


「……感謝する。君の言葉は、私に必要だった」


「感謝される想定ではございません」


「だが、受け取る者がいれば、言葉は意味を持つ」


(……最悪の誤解ですわ)


エリザベートは天を仰いだ。


「わたくしは殿下を反省させるためにここにいるわけではございませんのよ……」


「だが、この会は素晴らしい」


「だから違いますのよ!!」


外で見ていた令嬢たちがざわめく。


「王太子にあの態度……!」

「なんて勇敢……」

「これぞ女性の理想……」


「理想化しないでくださいませ!!!」


そのとき、セシリアが静かに告げた。


「……殿下。ここは、“変わることを望んだ女たち”の場所です」


「ほう」


「口を出すのではなく、見守ってくださるとありがたいですわ」


王太子は一瞬黙り、やがて頷いた。


「理解した。

今日はここまでにしよう」


そして去り際、エリザベートへ視線を向ける。


「エリザベート」


「何でしょう」


「……君の存在は、この王都に必要だ」


沈黙。


エリザベートはにこりと微笑んだ。


「――だから嫌われたいと申しておりますのに」


黒薔薇の会は、

今日もまた王都を揺らしつつ、

誰一人傷つけぬまま、心を動かしていた。


そしてひとつの新たな噂が生まれる。


――王太子でさえ、黒薔薇には口出しできない。


それはすなわち、

“エリザベートという女の絶対領域”が完成しつつあるということだった。



次回予告


第7話

「令嬢たちの覚醒 ― 私たちは悪役になると決めました」


決意と誇りの芽生え。

でも方向は相変わらず誤っている。

本日も事件に巻き込まれ、勝手に称賛され、

たいへん理不尽でしたわ。


……ところで皆さま。

最近、わたくしが気になっております異世界物語がございますの。

『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』

という作品ですわ。


どうやら、努力の果てに愛を勝ち取る“真面目な男主人公”のお話だそうで……

ええ、わたくしの世界にはいないタイプですわね!?


王太子にも見習わせたいものですわ。


ご興味がございましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。

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