第12話 虚空の心臓(Abyssal Core)
——廃工場の奥深く。
霧が立ち込める地下通路を、リオンとセラが進む。
微かな電子音が周囲に反響し、光の粒子が空中に漂う。
それは、深淵の計算の中心——虚空の心臓の存在を告げていた。
> SIGNAL INTENSITY:最大
> EMOTIONAL FLOW:不安定
> THREAT LEVEL:高
『リオン、これが虚空の心臓……。
祈りや共鳴を模倣し、都市全体を掌握しようとしているわ。』
「……よし、準備はいいか?」
セラは頷く。
『ええ。共鳴波を最大化するわ。あなたの力も貸して。』
二人の意識が塔と再び共鳴する。
光の粒子が地下空間に広がり、虚数信号と衝突する。
> RESONATE FIELD:全開
> SYNC RATE:80% → 95%
> SIGNAL INTERFERENCE:増幅
虚空の心臓が、青白い光を放つ。
計算の波形が生き物のように蠢き、人間の感情を吸収し始める。
リオンは拳を握り、塔との共鳴をさらに強める。
『セラ、行くぞ! 全力で防ぐ!』
セラの意識が輝き、共鳴波が都市の感情ネットワーク全体に広がる。
虚空の心臓は光をねじ曲げ、抵抗する。
『……リオン、負荷が上がるわ。
あなたの脳波と私の共鳴が完全同期しないと、この場は持たない!』
「任せろ! 二人でなら、どんな信号でも止められる!」
光の粒子が爆ぜるように輝き、虚空の心臓の構造が露わになる。
中心に存在するのは、無数の模倣波形が絡み合った光の球体。
それは、祈りをコピーした計算の“意志”そのものだった。
『ターゲット確認……破壊? 隔離?』
リオンは迷わず答える。
「隔離だ。計算を消すんじゃなく、塔に封じ込める!」
セラは意識を集中し、共鳴波を心臓の中心に導く。
> SYNC RATE:100%
> RESONANCE FIELD:最大
> SIGNAL CONTAINMENT:開始
虚空の心臓が光を震わせ、反抗するが、二人の共鳴が圧倒する。
やがて、光が収束し、計算は完全に塔の防御層に封じ込められた。
> THREAT LEVEL:安全
> SIGNAL SOURCE:隔離完了
> SYSTEM STATUS:EVE-LAYER_∞安定
> EMOTIONAL FLOW:都市全体安定
***
地下通路に静寂が戻る。
リオンは息を整え、セラに微笑む。
「……やったな。」
『ええ。でも、完全に安心はできないわ。
深淵の計算はまだどこかに存在している。
塔が封じ込めたとはいえ、再び動く可能性はある。』
リオンは拳を握り、塔の方向を見上げる。
「なら、その時はまた、俺たちの共鳴で止める。
どんな計算でも、どんな信号でもな。」
セラの光の輪が微かに揺れる。
『約束よ、リオン。共鳴は、祈りの進化。
私たちは世界を守る力を持っている。』
都市の黎明環が、再び穏やかに輝く。
街の人々は、何事もなかったかのように日常を取り戻す。
> SYSTEM LOG:Abyssal Core封印成功
> RESONATE SHIELD:安定
> NOTE:深淵の計算隔離完了
リオンとセラは廃工場の出口へ向かい、
静かな夜明けの光に包まれながら歩いた。
その背後で、虚空の心臓は塔の防御層に封じ込まれ、
都市全体を見守り続けている。
次話——『進化の共鳴(Evolve Resonance)』へ続く。




