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7 心を込めたプレゼント

彼女のその答えを聞いた殿下はハァーと1つ大きなため息を落とすと、呆れた様にメラニアにゆっくりと問い掛けた。


「へぇ、そうなんですか? だったら因みに教えて頂けますか? それには何の宝石が使われているのですか?」


「えっ……」


 またしてもメラニアは言葉に詰まる。


「あれ? もしかして貴方はそれが何の石かも知らないで買ったのですか? まさか、そんなわけありませんよね? 」


 セフィール殿下は嘲る様な視線をメラニアに送りながら、どんどん彼女を追い詰めていく。


 だが殿下がそう言うのも当たり前のこと。当然の事だが、ジュエリーは何の石が使われているかによってその価値や希少性が全く違ってくる。


 メラニアが本当に自分で買ったと言うのなら、それに何の宝石が使われているか位知っているのは当前の事だ。


「……アメジスト……です……」


 自分で買ったと答えてしまった以上、彼女は答えない訳にはいかない。追い詰められたメラニアは震える声で辿々しくそう答えた。


 彼女からしてみれば、苦し紛れに知っている紫の宝石の名前を答えただけだろう。だが、そんな事をしても後の答えは見えていた。


「ほら、やっぱりまた貴方は嘘を吐いた。貴方は本当に嘘つきですね。違いますよ。それはね、ヴァイオレットサファイアと言う宝石です。そうですよ。お察しの通りそれもまた、母からアリア様に贈られた物だ。自分の名を冠した宝石を、母は親友である彼女に贈った。夜会で貴方は、それを堂々と母の目の前で着けていたんですよ。アイリスから無理やり奪い取ったそれをね。母は夜会のあと言っていましたよ。『ゾールマン伯爵は屋敷に泥棒を飼っているのかしら』ってね」


「……嘘……泥棒……」


 ほらね。やっぱりこうなる。嘘を吐けばそれはいずれ必ず自分の首を絞めるのだ。


 嘘つきの泥棒……。


 さっき私がメラニアとラデッシュに言った言葉だ。


 でも王妃様の言葉は、私が言ったものとは明らかに言葉の重みが違う。王妃様がその言葉を口にした以上、恐らくこれ以降メラニアはもう、貴族社会で一生そう言うレッテルを貼られ続ける事になるのだ。


 彼女はただ呆然と瞬きもせず、震える声で呟いた。


 メラニアの顔が絶望で歪む。


「だってそうでしょう? 後ろ暗い事がなければ買ったなんて嘘を吐く必要は無かったはずです。つまりそれは貴方がアイリスから無理やり奪い取った物だと言う事ですよ!!」


 セフィール殿下の穏やかだった声音がどんどんと鋭いものへと変わっていく。メラニアは既にもう黙って殿下の言葉を受け入れるしかなかった。


「先程、そのネックレスは自分のものだと訴えたアイリスに、貴方の娘は言いました。例えそれが事実だとしてもそんな証拠はない。石に名前でも書いているのかとね。ですがね、思いを込めて贈ったプレゼントを贈り主は何年経ってもちゃんと覚えているんですよ。そしてその周りの人間もね。アリア様が亡くなった時、私はまだ11の子供だった。けれどそれをアリア様が身につけていた事はしっかりと覚えている。それは貴方が買ったものなんかじゃ無い。間違いなくアリア様の物だ!」


 そして、殿下はまた父を鋭い視線で射抜いた。


「ねぇ、伯爵。当時はまだ子供だった私でさえ覚えていたのです。アリア様の夫だった貴方が覚えていないなんて信じられない。貴方は本当は全て知っていた。夫人がアイリスをどんな風に扱い、それによって彼女が毎日どれだけ辛い目に遭っていたのかを……。知っていて、敢えて知らない振りをして見過ごしていたんだ。違いますか!?」


 父はセフィール殿下からのこの問いに、目を大きく見開いた。


「その顔……やはり図星のようですね。貴方、それでも彼女の父親ですか!?」


 セフィール殿下はもう怒りを隠そうともしなかった。


「伯爵、貴方には失望しましたよ。冷静になって考えてみて下さい。アイリスは侯爵家の血縁なんですよ? 彼女はいつだって助けを求める事は出来た。でも、彼女は今日までそれをしなかった。何故だと思いますか? それは家でのいざこざが表面化すれば、宰相補佐官としての貴方の立場が悪くなると思ったからですよ! 彼女はね、最後まで貴方の立場を守ろうとした。だが貴方はどうだ? 彼女が何も言わないのを良い事に、家の中で彼女だけを悪者にし、虐げ、そして歯向かえば暴力を振るってでも彼女に言う事を聞かせようとした! 彼女の言う様にそれが一番楽な方法だったから……」


「ち……違う。違う! 違うんだ……。私は知らなかったんだ! 殿下の仰る通り、それがアリアの物だという事は勿論気付いていた……。だが、アイリスに借りたのだと……メラニアがそう……そう言ったんだ……」


「……っ! 貴方ねぇ……。まだそんな言い訳が通じると思っているんですか! 少し考えれば分かったことでしょう。二人の関係性から考えて、アイリスが大切な母親の遺品を夫人に貸すなんてこと、あるわけないでしょう!?」


 殿下が怒りで声を荒げる。


 私はそんな殿下の袖を掴んだ。


「殿下、もういいのです。きっぱりと諦めが付きましたから……」


 そう……もういい……。充分だ。


 それでもこの人は私のたった一人の父……。


 だから私はもうこれ以上、この人に失望したくはなかった……。


 

宝石の鑑定書などが一般的に普及し出したのは19世紀GIA(米国宝石学会)が設立され、科学的な分析方法が確立されてからだそうです。それまでは色や外観を見て経験を積んだ専門家によって判別されていたみたいです。


 ネットで調べた情報なので間違えていたらすみません。ただ、このお話は鑑別書がない…宝石は人間の目ききのみで鑑定していた。そんな時代の世界観で書いているお話です。

 

 

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