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5 親を脅す気か

この時、私の心は決まった。


 もう遠慮はしない。


 私は母のロザリオをまた握り締めた。


「何だと……」


 父は怒りに震えながら手を振り上げる。


「なに? ()つの? ()つなら()てば良いわ! でもその代わり、覚悟はしておいてね! もうすぐお祖父様とお祖母様がこの屋敷にやって来るのよ? 私はもう遠慮なんてしない! 今日が最後だもの。二人に今までの事を洗いざらいぶち撒けてやる! 私に暴力を振るったなんて知られたら、お父様、王宮での立場を失う事になるわよ!! その覚悟があるのならやれば良いわ!!」


 私は父にそう啖呵を切った。侯爵家当主である祖父の王宮での発言力は強い。父が宰相の筆頭補佐官と言う重職に就けたのも父自身の努力は勿論だが、実際には祖父と言う強力な後ろ盾があったからに他ならない。


「お前……。親を脅す気か! そんな脅しに私が怯むとでも思っているのか!? もう一度だけ言う。二人に直ぐに謝りなさい!!」


 今まで大人しく従順だった私が自分に歯向かった事に余程腹が立ったのか、父は怒りに目を血走らせながら私を威嚇するかの様に更に高く手を振り上げた。


 その時だ。


「でも、アイリスが言った事は事実でしょう? 男性の貴方が娘を思い切り()つ。恐らくアイリスの顔は腫れ上がるでしょうね。それを侯爵夫妻が許すと伯爵、貴方本気でそう思われているのですか?」


 一人の男性が歩み出て父にそう問いかけた。


 実は柱の影に隠れていたのは私一人ではなかった。その男性は先程プレゼントを運んで来た侯爵家からの使いの中に紛れ込んでいた。そして、それからずっと私を守るためにこの屋敷に留まってくれていたのだ。


 何と言ってもあちらは3人、こちらは1人だ。私だってたった1人で父達3人に喧嘩を売る様な馬鹿な事はしない。行動を起こすと決めた以上、味方は必要。


 それもその味方には力が有ればある程良い。


 そう考えた時、真っ先に頭に思い浮かんだのが彼だった。


 今回の誕生日会、祖父母はデビュタントで身に付ける物一式を私に贈ると言い、父はそれを渋々ながらも了承した。


 だが、ドレスを贈るとなると採寸が必要だ。その為祖父は今日に先立ち、我が家に侯爵家御用達の商人を寄越してくれた。私はその商人にこっそりと祖父への言伝を頼み、彼へ宛てた私からの手紙を届けてくれるよう託した。祖父を通じて私からの手紙を受け取った彼は、侯爵家からの使いに紛れ込み、屋敷まで来てくれたと言う訳だ。


 その男性の顔を見た父とメラニアが瞬時に顔色を変える。


 父が声を震わせながら問い掛けた。


「セフィール殿下……何故……此処に……?」


「え? 殿下?」


 父の言葉を聞いたラデッシュが、その場に漂う空気も読まずに目をキラキラさせ、父に嬉しそうに問い掛けた。 


 その顔から既に涙は消えていた。


 さっきのが嘘泣きだった事がバレバレだ。


 そんなラデッシュに父は慌てて、咎めるような荒い口調で答えた。


「第二王子殿下だ!」


 父とラデッシュのこのやり取りを側で見ていたセフィール殿下が苦笑いを浮かべる。


 そして彼もまた、先程の父からの問いに答えた。


「何故……ですか? 実はアイリスから誕生会への招待を受けたからですよ。貴方も知っているでしょう? 母とアリア様は親友同士。そして私とアイリスは幼馴染だ。今日はそのアイリスが成人を迎える記念すべき日です。彼女が誕生日会に私を招待してくれていても不思議ではないでしょう?」


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