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13 ヨーゼフ④ 嘘つきの泥棒

 ならば、こんな悠長な事をしている場合ではない。早く彼女達からアイリスのものを取り戻さなければ大変な事になる。


 私はメラニアとラデッシュに命じた、


「メラニア、ラデッシュ! アイリスから取り上げた物を今すぐ持って来い! 話しぶりからあの子は知らなかった様だが、侯爵はアリアが亡くなった時、彼女の残した物は全て態々鑑定に出し、遺品として公正証書に残していた。1つでも欠けていれば大変な事になるぞ!」


 そう……。私は最初からその事を知っていたのだ。だからメラニアにアリアの遺品は必ずアイリスに返す様にと告げていた。


 高位貴族は甘くはない。


 恐らく侯爵夫妻は、最初からこうなる可能性も見据えていたのかも知れない。


 すると私のこの言葉を聞いたメラニアが、怯えるように口を開いた。


「どうしましょう……。いくつかはもうないの……」


「はぁ? ないとはどう言う事だ!? 私は必ず返せと言ったはずだ!」


「だから、その……気に入った物以外は全て売ってしまったの」


 メラニアは消えいる様な声で辿々しく告げた。


「何だと? お前、私に言ったではないか? 借りているだけだと。必要がなくなったら直ぐにアイリスに返すと! お前は人から借りた物を勝手に売るのか!!」


 嘘つきの泥棒。


 この時、彼女たちに向かってそう叫んだアイリスの顔が思い浮かんだ。


『大切な物だから一つでも欠けていたり、キズでもついていたら、どんな事をしてでも必ず償って貰うからそのつもりでいてね』


  アイリスは去り際、そんな言葉を残してそしてメラニアに向かって……笑った。私はその笑顔の意味を漸く悟った。


 恐らくアイリスは、メラニアがアリアの遺品を売っていた事を知っていたのだ。


 私は身震いした。


 そんなこと、侯爵夫妻は絶対に許しはしない。買い戻さなければ……。咄嗟にそう思った。


「その金は……。売った金はどうした!?」


 絶望した私は問いかける。


 だが……。


「……使ってしまってもうないわ」


 メラニアはそれだけ答えると、どれだけその使い道を聞いてもはぐらかして何も答えなかった。


 だが、彼女が必死に隠したかったその答えは直ぐに意外なところから齎される。


 それから数日後、私は王妃に執務室へと呼び出された。


「貴方、何故此処に呼ばれたか、分かっているかしら?」


 王妃は冷たい笑みを浮かべながら、そう話を切り出した。


 この笑顔を私は最近見た事があった。


 そうだ。あの日、最後にアイリスが私に向けた笑顔と同じだった。


 その笑顔の裏に隠された失望を感じ取った私は、声を震わせながら答えた。


「……異動……でしょうか?」


「そう……。貴方、もう覚悟は出来ているのね。でもね、異動だけならば紙一枚渡せば済む話よ。今日、私が貴方を此処に呼んだのはね、侯爵から貴方への言伝を頼まれたからなの」


「侯爵様からの言伝……」


 遂に来たかと思った。


 アイリスの誕生日の次の日、侯爵家から早速公正証書に則り、アイリスがアリアから受け継いだ遺品の返還を求める申請書が届いた。


 その申請書には丁寧にアリアの遺品のリストもきちんと添えられていた。つまりそのリストに記載されているものは全て返せと言う事だ。


 そのリストと、あれからメラニア達に命じて持って来させた今屋敷に残っているアリアの遺品を突き合わせして調べた結果、約半分もの遺品が既に売り払われていた事が分かった。


 それを知った私は絶望した。


 本来なら直ぐに買い戻さなければいけないのは分かっていたが、その金もメラニアは使ってしまってもうないと言う。


 そもそも、売られた宝石が今どこにあるのかなんてもう分からない。


 それらを全て買い戻す事なんて不可能なのだ。


 それに加え、侯爵夫妻は既にアイリスからメラニアが嫁いで来てからの一部始終を聞いていることだろう。


 私には彼らが私達を許すはずなどない事は分かっていた。


「ええ、そうよ」


 王妃が頷く。


 だがこの後、彼女は意外な事を言い出した。


「侯爵夫妻からアイリスの身に何が起きていたかは聞いたわ。はっきり言って許せないと思った。でもね、貴方は不思議に思わなかった? 何故メラニアはアイリスに対してあれ程の悪意を向けたのかと……。少なくとも侯爵夫妻はそこに疑問を持ったの。だから彼らは徹底的にメラニアの周辺を調べた。そうしたら意外な事が分かったわ」


 侯爵が疑問を抱くのも当然だと思った。


 何故ならそれは、私もメラニアから感じていたことだったから。


 嫉妬と言う言葉ですませるには余りにも度が過ぎた悪意……。

 

 王妃が私に書類の束を手渡す。


「その結果がこれよ。目を通してみて」


 王妃からそう即され、私はその書類を受け取り読み始めた。


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