第5話 対戦
「まずい、突破されたぞ!」
防衛線は崩され、グロリア王国軍が流れ込んでくる。リズの兵士たちは蹂躙され始めた。
「な、なんなんだあの化け物はっ!!」
その場にいた全ての指揮官はそう思った。
この言葉は、他の誰でも無い、レイ・レスタールに向かってのものだ。
破壊された柵付近に兵力を集中させたところで、レイに瞬殺される。
そう思ったマルスは、エイレントに次ぐ優秀な部下を呼んだ。
「トリニル、レストリス、あの騎兵を止めろ」
「御意!」
2人はレイに飛びかかる。残りの兵は破壊された柵あたりに集中する。
「ロラシアンは1万の兵を連れて後方を守れ。相手の兵力が少なすぎる。おそらく挟み撃ちだろう」
「承知しました」
兵力はリズ王国側が圧倒的に多い。
マルスの知能を加えると、敗北はあり得ないはずだった。
◇◇◇◇
正面突撃隊1万人を率いてきたレイ・レスタール。
本来ならば、昨日の戦いで自分は死んでいたはずだ。
レスタ―ル家を後世に残すため、自分と父が奮闘している間にリストを逃がす。こうして死ぬつもりだった。
しかし、弟の作戦で、全ては覆った。
不可能だと思っていたことを、可能にしたのだ。
レイは弟に命を救われた。だから彼は、弟の作戦を成功させるために、全てを捧げる覚悟だった。
「アイツを止めろーっ!」
そう言って向かってくる敵兵の首は、次々と宙を舞う。
百人、千人とその数は増していく。
そんな彼の前に、さっきまでとは格が違いそうな男が二人現れた。
レイには見えなかったが、彼らの武力は60後半 ー 平均的な兵士と比べ、十分強い方だった。
「止まれい!ここからは我らが相手だ」
「柵を破壊しよって!許されると思うなよ!」
マルスに仕える、トリニルとレストリスだ。
彼らが来たならば安心だ、と思い、リズの兵士たちは、他のグロリア兵の撃退に集中し始めた。
だが、トリニルらが「強い」のは、あくまでもリズ王国軍の中での話だ。
「悪いけど、僕には時間が無いんだ」
武力:156の剣撃がトリニルに向かう。
トリニルはそれを直ぐに剣で受け止めようとしたが、間に合うことなく斬られた。
「トリニル!!」
レストリスが悲鳴を上げた。
「貴様よくも・・・・・!」
トリニルの仇を討とうと斬りかかってくるレストリスであったが、それをレイは簡単に受け止め、彼の首も刎ねた。
「うっ、嘘だろ!」
「あの二人がやられた?!」
レイはすぐさま敵兵の蹂躙に戻った。
「全軍に告ぐ!僕たちが恐れるものは何も無い!密集隊形で進めーっ!」
「おおおおお!!」
グロリア王国軍1万人の士気は爆上がりした。
人数差に怯むことなく、前線へ飛び込んでいく。
そのあまりにも自信に満ちた攻撃に、リズ王国軍はただ後退するしか無かった。
「兵の数では我らが上手だ。押されるな!」
後方で体勢を立て直したリズの弓兵が、再びグロリア王国軍に矢の雨を降らせる。
「ぎゃあああ?!」
最前線のグロリア兵たちは倒れていった。
「一瞬の隙ができた、攻めろ!」
名将:マルスの指示で、さっきまで後退を続けていたリズ王国軍は攻勢に出る。
慌てることなく、レイは
「先に弓兵を倒す!リアスの騎馬隊は僕について来て!残りの部隊はそのまま進軍!」
と、敵の隊列に突撃して穴を作った。数百人の騎馬隊が彼の後を追う。
「おいおい、突破されてるぞ!」
「嘘だろ?!」
グロリアの騎馬隊がリズの弓兵とぶつかる。弓兵はなす術もなく斬られていった。
その直ぐ後ろに控えていた敵将:ロラシアンの部隊は、本来の命令を無視して騎馬隊を止めに入った。
だが背後に、挟み撃ち部隊が現れる!
「相手の挟み撃ちだ!そちらの撃退に集中・・・・・」
ロラシアンの言葉を聴いているものはほぼいなかった。
このままだと挟み撃ちを迎え撃つどころか、騎馬隊にやられてしまうからだ。
3000人の部隊二つで構成される、挟み撃ち部隊。
それぞれセイツとグスタフによって指揮されていた。グスタフは、長年レスタール家に仕えてきた家臣だ。
彼らは兵を率い、リズ王国軍の隙を突く。
更なる混乱に陥る敵軍。
元々4万人いた敵兵は、2万人まで減っていた。
「撤退だ!散開して街道から離れて逃げろ!」
マルスから撤退命令が出る。
「深追いはしないで!計画通りに行動!」
撤退していくリズの兵を、グロリア王国軍は追撃しなかった。
◇◇◇◇
レスタール領の関所。
撤退してきた兵たちは安堵した。
念の為、ここには5000人のリズ王国軍が待機していたのだ。いや、待機していたはずだった。
「侵略者ども!レスタール領に足を踏み入れたこと、十分に後悔するが良い!」
実際にそこにいたのは、領主 ー レイン・レスタールと5000のグロリア王国兵たちであった。
城壁の上から、大量の弓矢が降り注ぐ。
特に、レスタール軍の射撃は凄まじかった。
「ぎゃああ?!」
「そんな・・・・・バカな」
あっという間に数千の兵が倒れた。
「リズの本土へ撤退する!急げ!」
その指令は、もう遅かった。
「隊長・・・・・囲まれています!」
レイが率いる部隊が、俺たちに合流したのだ。
混乱しているうちに、リズの兵数はどんどん減っていく。
マルスがやっと軍の体勢を立て直し、密集陣形で包囲を突破した頃には、リズ王国軍はほぼ壊滅状態だった。
「お兄様、彼らを国境まで追い払ってください!」
「了解!」
最後に俺は、撤退していくマルスの姿を見た。
【マルス・レーエイ】(52歳)
・武力:80
・体力:72
・知力:85
・統率力:90
・政治力:62
・地位:リズ王国の公爵
やはり、優れた武将だ。
本来ならばここで殺すつもりだったんだが、彼はかなり仲間に慕われているのか、リズの兵士たちが次々と肉壁になり続けるせいで、とうとう倒せなかった。
何はともあれ、こうしてグロリア王国は約2万の軍で敵兵5万を破った。損害は、敵軍が受けた被害の約7分の1 ー 6000人であった。
◇◇◇◇
レイとマルスの部隊が交戦するしばらく前のこと。
慎重なマルスならば、最悪の場合に備えて、陥落させた関所付近にも陣を引いているはずだ。
俺はそう考えた。
だから父:レインとレスタール軍1000人に加え、グロリア王国軍4000人を合わせた計5000人の別働隊を編成したのだった。
「お、おい、誰か来るぞ!」
「ひ、一人?!」
奪われた関所の前。
相手もこちらも5000人。関所に立て篭もられると我が軍が圧倒的に不利になる訳だが、それは父に解決してもらうことにした。
【月光剣】
・武力が10上昇(新月以外の夜は、20上昇)
・レスタール家の家宝
父の武器だ。要するにこの剣を抜いた瞬間、父の65の武力は75となる。
ふざけてんのか?!
武力が上がる剣なんて滅多に手に入る代物じゃないぞ?!
疑問ばかりだ。しかし、今は関係なかった。
「アイツ、門に近づいてくるぞ!何がしたいんだ?」
「軍服を着ている!確保して情報を聞き出すぞ!」
門が開き、20人ほどの兵が出てきた。
相手が1人だからと油断したのだろう。
「グハッ!」
先頭の敵兵は斬られた。
「攻撃してきやがった!!」
怒ったリズ王国の兵たちは、父に剣を振り下ろす。
見たところ、たかが武力:40程度のやつらだ。いくら武力がただの目安だとはいえ、差が大きすぎる上に経験の差もある。
父は相手を返り討ちにし、高速で、開いた関所の門まで走って行った。
「げっ、こっちに来る?!」
「ダメだ止めろ!」
もう遅かった。父は関所の内部へ入り込み、門の開け閉めを封じた。
「今です!一気に攻めましょう!」
隠れ潜んでいた我が軍は、開いた関所へ突入した。
父の奮闘もあり、僅かな被害で関所を奪還したのだった。
マルス無きリズ王国軍は、弱いのだ。
取り戻した関所付近にマルスの兵を誘導し、こちらが有利な状況で包囲、殲滅する。
我ながら上出来だ。