第4話 無敵の騎兵
「さすが我が息子だ!」
「兄として嬉しいよ!」
領主城。リズ王国軍を追い返した日の夜。援軍が到着したので、再びレスタルブルクが侵攻されることは無かった。
俺は父と兄に褒められっぱなしだった。
まあこれはゲームの知識を元にしているから、俺的には微妙な策なんだが。
「あ、それにしてもリスト、君はなんでリズ王国が兵を分けてくると思ったの?」
答えれねえ?!
"これは俺の知ってるゲームの世界だから相手の将軍が誰で、その戦略がどんなもんか分かりました〜"なんて口が裂けても言えるわけないだろう!
「えーと・・・・・まあ、なんとなく・・・・・?」
目をそらす。兄の尊敬の眼差しが痛い。
「アハハ、そっかー!それでも凄いよ!」
頼む、辞めてくれ!
そのどう見てもヒロインがしそうな笑顔で俺を見つめないでくれ!
「だが、この戦争は勝ったとはまだ言えぬ。ヴァスク領も侵攻されている。25万の大軍にな。できればこっちに来た援軍もヴァスク領に向かって欲しいのが・・・・・相手との睨み合いが続いている中だと、難しいな」
でた。
リズ王国名将:マルス・レーエイが大好きな戦術。
戦線を膠着させることで、双方の軍が動けなくなる。全体として数が有利であれば、良い策だ。
だから、俺らは彼の軍を完全に滅ぼす必要がある。
「あの・・・・・お父様、お兄様。援軍の方々の力を借りて、敵軍を破ることはできないでしょうか?」
父と兄の顔をまじまじと見る。
父は険しい表情でしばらく悩んだ。
「うーむ。それは難しいだろうな。レスタルブルクへ来た援軍は2万人だ。守るには十分だが攻めるのには心細い」
これが一般的な発想だ。
「ま、いけるんじゃない?正しい戦略さえ使えば」
これは楽観的な発想だ。
しかし、今回は相手を叩く以外の選択肢が残っていない。
「お父様、私もお兄様の言うとおりだと思うのです!考えは既にあります。どうか、私を信じていただけないでしょうか!!」
兄はうんうんと頷いていたが、父はやはり首を横に振る。
「いいか、そもそも援軍の指揮を執っているのはセイツ殿だ。我々が勝手に動かすことはできないのだよ」
グロリア王国のセイツ・グラナル伯爵。彼のステータスはこうだ。
【セイツ・グラナル】(43歳)
・武力:55
・体力:72
・知力:52
・統率力:58
・政治力:42
・地位:グロリア王国の伯爵
なんでコイツが2万の軍勢を率いてるんだ?!
歴としたグロリア王国第二軍の大将だよな?グロリア王国にはこの程度のやつしかいないのか?
初めて見た時は、そう思った。というか今もそうだ。
彼を説得するにはどうすれば良いか・・・・・
「では、そのセイツ殿を説得すれば良いのですね。行って参ります!」
「え、おい、レイ?!」
突然兄が動き出した。
慌てて父が止める中、兄はニコリと笑った。
「父上、ご安心を。僕は交渉が上手い ー と思うので!!」
「お前、交渉なんてしたこと・・・・・」
「大丈夫ですよ、僕は割と良い顔をしてるので」
心なしか、少し寒気がした。
◇◇◇◇
翌日、俺はグロリア王国第二軍に指示を出していた。
何故か兄の説得が上手くいったらしい。何をしでかしたのだろうか。
「君の戦略の素晴らしさを伝えたんだよ!彼は必ず我が軍を勝利に導ける、ってね!」と聞いている。普段の行動からは信じ難いが、兄の知力は92だ。それほどの知力があれば、説得は容易だったかもしれない。
艶のある黒髪に澄んだ青色の瞳。兄はまさに、物語のヒロインのような姿をしている。
美しすぎる容姿に加え、勝利の可能性まで提示されれば、自分たちに不利な状況で膠着している戦場で士気が落ちている人にとっては、女神に見えるはずだ(違うけど)。
相手の心が傾くのもしょうがない。というか傾け!
「皆さんには敵軍を引きつけてもらいます。とにかく暴れてください。その間に小規模な部隊が相手の後ろに回り込み、挟み撃ちにします。十分な被害を与えれば、敵は分散して撤退しようと考えるでしょう。撤退する敵を止めないでください ー これが重要です」
指揮官たちには説明を終えているので、兵たちの前ではざっくりとしたことだけを伝えた。
説明を終えると、それまでずっと横に立っていた兄が俺の肩をポンと叩き、
「良くやったね。大勢への演説は緊張したでしょ?」
と褒めてきた。
コイツ兄だよな?姉じゃないよな?少し分からなくなったので一応確認だ。
それはそうと、準備は整った。
「では、作戦を開始したいと思います」
◇◇◇◇
マルスは関所とレスタルブルクを結ぶ街道の、中間あたりに陣を築いていた。その兵の数は4万。
用意周到な彼は、持ってきた木材で柵を築いている。
しかし、それは本望では無かった。
本来ならば、既にレスタール領は陥落し、その先のカルミア領を攻撃しているはずだったからだ。
「我の作戦が完全に潰されるとは。相手にはよほど頭の切れるやつがいるのだろうな」
マルスは敵将に興味を持つと同時に、エイレントを失ったことを悔やんでいた。
「援軍があれど、相手は約2万。勝利することなど容易だと思うのですが?」
そんな彼に、副大将のロラシアンは疑問をぶつける。兵力差は明白なのに、何故攻撃に出ないのか?
マルスは簡潔に答える。
「二万という兵力を甘く見てはならん。現状のレスタルブルクを攻略には、多くの犠牲を払うことになるだろう。であれば、被害を出さずに相手の軍を釘付けにする方が得策だ」
計画とはズレてしまうが、この場所で待機し、リズ王国軍本隊がヴァスク領を落とすのを待つべきだ。
大領地であるヴァスク領が陥落すれば、グロリアの王都はすぐ目の前。さらに、レスタール領とカルミア領は孤立する。
あとは、相手が焦って撤退し、空いた城を獲れば良いだけのこと。
もちろん、この状況の危険性に気付いた敵将が、反撃に打って出る可能性だってある。
しかし、マルスは北部の20年にも及んだ戦争で、優れた防衛戦術を幾つも見せた。
敵将が如何に優秀だろうと、得意分野で負けるはずが無い ー 彼はそう考えたのだった。
「なるほど。では、私はマルス様を信じます」
ロラシアンはマルスと長い付き合いだ。
毎回、彼の戦略には疑問を持つのだが、信じていないという訳では無い。
マルスもまた、ロラシアンを重宝している。名将に怖けず意見できる人材など、なかなかいないからだ。
「そういえば、少し前方が騒がしいですね」
ロラシアンは陣のレスタルブルク側を指差した。
マルスは頷く。
確かに騒ついている。
報告は、すぐにきた。
「大将、グロリア王国軍が向かってきております!」
「そうか。この我が指揮を執ろう」
まさか敵がこちらに向かってくるとは。
意外なことではあるが、戦いを早く終わらせるには好都合だ ー とマルスは考える。
こちらが防衛する側なのだから、被害は少ないだろう。
エイレントの仇は取る ー マルスはそう決意し、前線へ向かった。
街道上に建てた柵の隙間からは、突撃してくるグロリアの兵士たちの姿が見える。
「弓兵よ、矢を放て!奴らを一歩も近づけさせるな!」
マルスの指示で、5000人の弓兵が敵に矢の雨を降らせた。
グロリアの歩兵隊は盾を駆使しつつも、500人の兵を失う。
だがそれに怯むことなく、1人の騎兵が先陣を切った。何発か弓を受けても、止まらない。
「騎兵を優先で狙え!柵を突破されるな!」
次は1人の騎兵に射撃が集中する。
普通の兵なら、呆気なく死ぬ。
しかし、その騎兵はただの騎兵ではない。
「あの量の矢を切っただと・・・・・?そもそも矢とは切れるものなのか?」
自分どころか、馬まで守りながら突進してくる騎兵。
マルスには信じ難い光景だった。
そして1人に弓兵が集中してしまったために、グロリア王国軍の本隊も柵に近づいてきていた。
マルスは急いで兵を交代させる。
「弓兵は槍兵と代われ!」
騎兵は柵まで到達した。
何人もの槍兵たちが、槍を突き出す。
それでもって、その一騎は倒せなかった。
寧ろ騎兵の一撃で柵もろとも槍兵数十人が吹き飛ばされた。
「よし、第一関門突破だね!」
元気な少女らしい(だが違う)声が鳴り響いた。




