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第23話 初の海戦

 方針を決定してからの日々は早かった。

 大型帆船の借用、ルフィタ公爵との会談、そして王との交渉…… 本当に、死ぬかと思った。これが社畜になった気分か。


 業者から船を借りることはそこまで手こずる作業ではなかった。しかし、レスタ―ル領は中央湖に面しておらず、船を出すにはヴァスク領か南部の貴族たちの領土経由で進む必要がある。

 これはルフィタとの話し合いでなんとかなったが、面倒事を避けるためにオルド王国の発見はあくまでも”偶然”にしたい。

 そこで、王にリズ王国が海路で次の侵攻をしてくる可能性を訴えて、「視察」という形で出航させてもらうことにした。

 ついでに資金も出た。国王陛下は素晴らしい。


 ようやく全ての準備が整った時、カーシット歴8月、つまり夏になっていた。

 俺が連れて行くのは、3隻の船と150人の乗組員だ。マゼランの世界一周が260人くらいだったと考えると十分な数にも見えるが、ヴェネツィアは時折1000人以上を船に乗せていたので、やはり心もとない。

 だが、大量の兵士を輸送するのは怪しすぎる。これくらいで手を打つとしよう。


 一人で千人以上の価値がある人物もついてきてくれるので、そこまで困りはしないと期待したい。


 甲板に上る前に、俺は連れていく兵士たちを見渡して演説をした。


「皆さん、準備は出来ましたか? 私たちはこれから、()()に向かいます。しかし、恐ろしいことに、嵐に巻き込まれてどこか未発見の島に漂着してしまうかもしれません。その時は慌てずに、私の指示にしたがってくださいね!」


 冗談じみた口調に、兵士たちは大声で笑う。

 彼らの目には、恐怖や動揺が少しも見受けられない。

 

 それもそのはず、彼らは選りすぐられた150人だ。武力を平均すると、55になる。

 確かに最強のレイがいるおかげで武力が余計に釣りあがっているのは間違いではないが、少数精鋭という名前がとてつもなく似合う集団である。


 ネティンとゼダックには、俺たちのいない間捕虜たちを含むレスタ―ル侯爵家の軍を鍛えてもらう。

 父上にも、いつに増して兵の訓練を念入りに行ってほしいと頼んでおいた。


 これぞ準備万端 ― リズ戦争のときとは大違いだ。

 

「では、視察と銘打った領土獲得の旅へ、向かいましょう!」


「おおおおおお!!」


 港にはルフィタがわざわざ見送りに来てくれ、俺以外の兵たちはさらに盛り上がった。

 別に強いことは否定しないが、少し臆病な奴だろう?


◇◇◇◇


 航海の前半は、順調に進んだ。

 激務の領地から離れ、潮風を感じ、最高に気楽な時を過ごせたといっても過言ではない。


 初めて他の船団に遭遇したのは、出港から三日後のことだった。


「前方に船影あり!」


 見張の兵士からの報告に、それほど驚きはしなかった。

 この付近は、常に多くの漁船や商船で混み合っていて、他国の船との遭遇はそう珍しくはない。

 問題は、その船がどこの国の船か、である。

 

 海賊船なら早急に迎撃体制に入るべきであり、また友好国なら情報交換が期待できる。

 

 俺は目を細めて船を確認するが、かなりの大型船で、海賊という線は薄そうだ。


「恐らくセルコリス王朝の船ですね。敵対も友好もないので、そのまま通過してください!」


 俺の船の乗組員たちは、太鼓の音で残りの船に方針を伝える。

 セルコリス王朝の船も、進行方向を変えてこちらの船と十分な間隔を空ける。

 

 通り過ぎる際、向こうの乗組員たちが手を振っていたので、俺たちも返すことにした。


◇◇◇◇


 出港から一週間、ようやく事は動いた。


「敵襲! 敵襲! 間違いなくあれは海賊船です!」

「分かりました! 皆さん、手筈通りに準備してください!」


 他の船に情報を伝えると同時に、迎撃を始めた。


 海賊たちはロープなどを用いるが、我が大型帆船の舷側は高く、登るのは一筋縄ではいかない。

 登ってくるところを槍で突き落とし、また下に群がる船を圧倒的な高さから石弓で狙い撃つ。

 しかし、海賊は30隻を軽く超える船団で構成されていて、倒しても倒しても次が湧いて出てくる。


 乗組員が最も多い俺の船は善戦していたが、残り2隻は押され気味だった。

 特に、一つの船に何隻も群がり、人海戦術で何人か登ることに成功している。


 死者はまだ出ていなさそうだが、負傷者は確実に増えている。

 元々、海の民と陸軍の戦いなのだから、武が悪すぎるのも当然のことだ。

 

 そこで、俺は練っていた策を実行に移した。


「船を一つの場所に固めます! 全軍に指示を!」


 3隻の大型帆船をロープで結びつけ、一箇所に固める。

 すると突然、平原であったはずの海上に頑固な要塞が現れた。


「これで守るべきは三面だけです! 端に兵力を回してください!」


 城壁がある以上、これは海という大地における籠城戦だ。

 陸軍の精鋭たる我が軍が、相手に劣るはずがない。


 形勢は一気に、我が軍のほうに傾いた。

 レイが一つの面を丸ごと抑えているというのも、その大きな要因ではあるが。


「クソッ、撤退だア、撤退イ!」


 首長らしき男が荒い声で叫び、海賊は呆気なく去っていった。

 激戦だったが、15隻もの敵船を沈めた我が軍の顔は、矜持に満ち溢れている。


「オルド王国を手に入れたら、私たちも海軍を組織しなくてはなりませんね」


 俺が一人で呟いていると、


「そン時は俺らを呼んでくださいよ!」


 と声をかけてくれる兵士たち。

 俺は笑って、


「それはいけません。陸の巨人を失ってどうするというのですか」


 と答える。


「ちっ、海軍なら日頃は楽にできるってのに」

「そう思えますか? 私の奇策に付き合わされるかもしれませんよ? ー 艦隊の山越えとか」

「それは堪りませんね! ですが、リスト様なら陸でも『海を越えろ』と言いかねない!」

「リストが言うなら、僕は空でも飛んでみせるよ!」

「……お兄様は本当にできそうなので怖いです」


 その日の甲板は、兵士たちの笑い声と、自身の武勇伝を交換し合いながら乾杯する音に包まれていた。


 オルド王国到達は、目前に迫っている。

何ヶ月ぶりでしょうか。久しぶりの1話です。今回の「海上に城を作ろう!」っていう戦術は、実際に1453年のコンスタンティノープル防衛で使われたものです。気になる方は調べてみてください!

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