第18話 リスク城
2日前のリスク城。
アウスの死後、リズ王国軍の総大将は、マルス・レーエイとなっていた。
「マルス様。また敵の斥候を発見しました」
副総大将に昇格した部下のロラシアンが報告する。
「放っておけ。追撃部隊を編成するだけ無駄だ」
マルスは動じることなく言った。
リスク城から誘き出される可能性を考慮しての判断だ。
そして、続ける。
「レバン方面に動きはないか」
「はい。それは確実です」
「ならば、警備にあたっていた兵を補給に回せ。戦前にできるだけ食料を備蓄しておきたい」
リズ王国軍はリズ王国軍で、敵地に斥候を送っていた。
特に、船での移動を可能とするレバンを警戒していたのだ。
しかし、そのレバンに動きがないことを知り、マルスはラスク城や海路の警備をしていた兵を、補給に当てる決断をした。
レバンからリスク城、ラスク城、いずれに向かうとしても、1日はかかる。
リスク城は全方位からの襲撃に備えており、ラスク城に関しては比較的海に近いので、連絡さえ行けば敵が到着する前に対応ができる、というのがマルスの考えだった。
◇◇◇◇
リスク城での戦闘が開始した。
「前方の敵を一掃します!突撃してください!」
城外に出ている敵兵は、そう多くなかった。
殲滅は可能に思える。
敵の将は何を考えているんだ?
この程度の兵力しか前線に出さないのなら、いっそ全兵力で城内に立て篭もった方が良いだろうに ー まあそれをされると俺が困るんだが。
「敵襲!矢を放て!」
城に近づくと、城壁から弓の雨が降り注いできた。
弓兵をを主戦力とするつもりなのか?
「盾を構えてそのまま進んでください!」
視認できる敵の弓兵は、約2万ほど。
確かに凄まじい量だが、まともに受けなければ大打撃にはならない。
用意周到なこちらにとっては、そこまでの懸念ではなかった。
「行けー!!」
「押されるな!」
双方の前列がぶつかり合う。
敵1万に対して我が軍が3万。
敵は援護射撃があるものの、俺らの有利は変わらなかった。
「うわああ!?」
敵兵はどんどん減っていった。
「すまないが、リスト様のためだ!」
ネティンやゼダックも良い活躍をしていて、何十人も斬り倒している。
だが、そうしていると、
「あれが敵の大将だ!狙え!」
「おおお!」
敵が俺の存在に気付いた。
1000人ほどの敵兵が、一気に俺を目掛けて突撃してくる。
嘘だろ?
こちらが優勢なのに、隊列を突破してくるだと?
「あ、アイツらを止めろ!」
我が軍も止めに動いたが、敵の勢いは崩せなかった。
「リスト様を守れ!」
「クソッ、なんだこの勢いは!?」
ネティンとゼダックもこちらの援護に向かったが、敵の勢いに押されて、なかなか進めない。
数百人の兵を失いながらも、敵は俺の方に迫ってきた。
そして、いよいよ最前列の敵兵が、目がハッキリと見える位置まで来る。
【ロラシアン・ローレンス】(38歳)
・武力:68
・体力:60
・知力:72
・統率力:77
・政治力:59
・地位:リズ王国の伯爵
俺は無意識に剣を抜いていた。
しかし、クロイドの時のように敵の技を知っている訳でもなければ、敵を超える武力を持っている訳でもない。
「私の剣を受けてみよ!」
「っ‥‥‥!」
ロラシアンという男の剣が飛んできた。
間一髪で避けたが、俺はバランスを崩し、落馬した。
痛みが全身を走る。
「リスト様!」
遠くからネティンらの声が聞こえた。
だが、彼らがここに到達するまでには、もうしばらく時間がかかるだろう。
「総大将を守るのだ!」
「邪魔だ!」
味方の兵士が数人、敵の前に飛び込んだが、すぐに斬られる。
目の前が真っ白になった。
俺はここで死ぬのか?
そんな予感がした。
ここで敵を殲滅させ、残りの敵の出方を伺うつもりだったのに!
どこで選択を間違えた!?
いや、待て。
敵の数は減っていない。
むしろ、減っているのは我が軍の方!
しかし、何故だ?
明らかに我が軍が有利だったはずだ!
「まさか‥‥‥」
とある考えが頭に浮かんだ。
しかし、もう遅かった。
ロラシアン・ローレンス。
この男が俺を殺すのか。
二度目の人生は短かったな。
転生直後の状態に似た絶望感に満たされた、その時。
「リストー!」
横から割り込んできた男により、ロラシアンは吹き飛ばされた。
【レイン・レスタール】(42歳)
・武力:65
・体力:51
・知力:60
・統率力:68
・政治力:50
・地位:グロリア王国の伯爵
「お、お父様!?」
あろうことか、父が助けに来てくれたのだ。
「な、なぜですか?この戦いのことは、まだ連絡されていないはずです!」
「息子たちが命懸けで戦っているのに、参戦しない父親がどこにいる!さあ、一度引くぞ!」
詳しいことを聞きたいが、そんな時間はない。
敵の作戦は理解した。
俺の推測が正しければ、ここからの戦いで戦局を変えることができる!
「お父様、撤退の必要はありません!敵の計画が分かりました。今ならば、絶対に勝てます!」
「だが‥‥‥」
「お願いします!」
「‥‥‥分かった。行くぞ、皆の者!」
父か連れてきたレスタール兵500人が、我が軍に加わった。
「ゼダックさん、後方で控えている補給部隊に、前線に出るように伝えてください!‥‥‥一人で向かうのはかなり危険ですが、任せられますか?」
「もちろんでっせ!任せてくだせえ!」
ゼダックは馬を飛ばして後方へ向かった。
俺は父の方に振り向き直し、作戦を告げる。
「敵に私たちの動きに気付かれては困ります。さっき補給部隊へ向かった兵士 ー ゼダックさん ー が戻ってくるまで、苦戦している演技をしましょう!」
「分かった。やるぞ、皆の衆!」