第16話 表彰
クロイド・レグス。
ゲーム内でこのキャラを見たことは一度もない。
だが、似たステータスのキャラは、いたような気もした。
ゲーム終盤に、「影の帝国」という組織が登場する。
戦争に疲れた平民や兵士、将軍たちが集まった革命組織だ。
彼らは、全てが精密に計算された一斉蜂起を起こし、瞬く間に大陸諸国を追い込んでいく。
熟練のプレイヤーでも手こずる相手だ。
そんな「影の帝国」は、誰が指導し、どのようにして各国の情報を集めていたのか。
これは、カーシット戦記最大の謎の一つだ。
しかし、「影の帝国」に多くの密偵や内通者が所属していることは、プレイヤー間でよく知られている。
その中で、腕のたつ密偵の一人として、"クレ"という人物がいた。
武力が高い方ではなかったが、持ち前の潜入スキルで、任務をこなしていた。
確か、武力:49で、知力:62。
限りなく、クロイドに近いのだ。
時間の経過と共に、ステータスは変動する。
武力が多少上がっていてもおかしくはない。
"クレ"という名前が、クロイドの名前の頭文字なのも気になる。
クロイド・レグスは何かしらの理由で「影の帝国」に入り、グロリア滅亡後も生きていたのではないか。
憶測かもしれないが、納得できる点はある。
そして、仮にクロイドが"クレ"であれば、彼は王宮に直接侵入する作戦を取るだろう。
軍を動かすのは、王を討った後だ。
これを止めるにはどうすれば良いのか。
簡単だ。
俺も王宮にいればいい。
よって、あまり取りたくない策ではあったが、王宮の侍女や親衛隊を数人買収し、なんとか王の寝室に忍び込んだ。
この国は腐っている。
なんで親衛隊が買収されるんだ。
改めて認識した瞬間であった。
ちなみに費用は、総大将が使える公費から出た。
俺も腐っているらしい。
しかしこの行動により、俺は無事、王を守ることができた。
親衛隊が斬られるのも止めたかったが、さっきまでベッドの下に隠れていたので、出るのに時間が掛かった。
「貴様如きが、この私の剣筋を見切った‥‥‥?」
「で、でかしたぞ、リスト!」
王は安堵し、攻撃を弾かれたクロイドは、唖然としていた。
まあ、普通はそうだ。
どう見ても、俺 ー リストは弱い。
実際、武力がたったの10しかないのだ。
今回に関しては、クレの技をゲームの外伝で散々見てきたため、なんとか対応できたまで。
俺が"カーシット戦記"の世界にのめり込んでいなかったら、確実に負けていただろう。
九死に一生を遂げた、と言っても過言ではない。
しかし、俺の評価のためにも、ここは見栄を張ろう。
バレることは‥‥‥ないはずだ。
「剣筋が単調過ぎます。こんなもので私は倒せません」
俺はクロイドに向かって、余裕の表情を見せた。
内心は、嘘がバレないか心配していたが。
「ふ、ふざけるな!この私の攻撃だぞ!?た、ただの紛れだ!」
「もう終わりだ、クロイド侯爵」
再び斬りかかろうとしたクロイドは、親衛隊に確保され、引きずられていった。
「この私を、よくも‥‥‥!」
ゲームに出てくる"クレ"もかなりの自信家だったはず。
やはり似てるな。
仲間にすることができる、といいが‥‥‥難しそうだ。
「本当に助かった!感謝するぞ、リスト。そなたは剣の腕まで兼ね備えていたのだな!」
王が目を輝かせながら言ってきた。
いい具合に勘違いしてくれているようだ。
「陛下が無事で何よりです」
主犯が既に捕まったことにより、クロイドの領地軍が動くことはない。
5000人の別働隊は、必要なかったようだ。
◇◇◇◇
「この者 ー リスト・レスタールは、朕の命を救った。前線で我が軍を率い、敵を打ち破ってもいる。
朕はこれらの功績を称え、このリストに勲章を授ける!」
次の日、俺は王から勲章を授かった。
多くの国民の前で授与式が行われたので、当然、俺のことが平民にも知れ渡る。
「あんなガキが王様を?」
「あたしらがまだリズ王国に占領されていないのも、あのリストっていう子供のお陰らしいよ」
「おいバカ、大声で言うな!あれは子供でも貴族ーー下手したら不敬罪で吊るされるぞ!」
様々な意見が飛び交っているようだが、概ねプラスの方だとみて良いだろう。
さらに、国王は勲章に加えて、多額の報奨金も渡してくれた。
勲章はどちらでも良いが、金はありがたい。
今後の活動に充てれるからな。
「陛下、このように表彰されることは、とてつもなく名誉なことです。誠にありがとうございます」
「気にするでない。朕は今後のそなたにも期待している!ーー長くかかっても良い。だから、リズ王国から朕の領土を奪還してくれ!」
「もちろんです。あと一ヶ月も経たないうちに、この戦争は終わらせてみせます」
俺は強く宣言した。
若い王は満足したように頷く。
「一ヶ月‥‥‥か。そなたには毎回驚かされる。そなたが敵軍を撃退したその時には、今よりさらに多くの褒美を進ぜよう‥‥‥!」
国家規模からして、グロリアにそこまでの財力があるのか不明だが‥‥‥貯蓄でもあるのか?
グロリアについての謎は深まるばかりだ ー が、今は気にしている暇がない。