第15話 反乱
グロリア王国軍の総大将。
それは、王国内の全兵力を動かすことができる役職!
「まず、軍の大部分をヴァスク城に集結させましょう。リスク城の奪還に向かいます」
あのクロイドというやつが計画していた"決戦"とやらは、煩雑なものだった。
農民を5万人ほど集め、あのリズの大軍を迎え撃つなんて無駄に等しい。
その兵力は、今すぐにでも前線へ投入するべきだ。
「リスク城の奪還‥‥‥?そんなことが可能なのですか!?」
俺の発言に、作戦本部にいた指揮官たちは驚いた。
「私の策に従えば、勝利は確実です」
嘘ではない。
だから明言しておいたまでだ。
「僕の弟の才能は本物だよ!」
兄も付け加える。
しかし、指揮官たちは難色を示した。
元々はクロイドが仕切っていた作戦本部だ ー 俺の悪い噂が広がっていてもおかしくはない。
まあ、周りからの評価はどうでもいい。
戦争が終われば逆転する。
「作戦は現地に辿り着いてから決めます。5000人の別働隊を作った後、ヴァスク城まで進軍してください。ルフィタ様と合流し、リスク城を叩きます」
ヴァスク城までの進軍は、兄に任せるつもりだ。
俺も早急に出発したいのだが、今日までは王都に残らなければならない。
前総大将:クロイドの領地軍の動きが、どうしても怪しく見えてしまうのだ。
クロイドは、自分の兵だけは前線に投入せずにいた。
単なる優遇措置だとは思うが、反乱を起こすのに丁度良い状態が整っている。
加えて、総大将の座を俺と交代させられるという屈辱的な事態。
偶然とはいえ、クーデターの理由も勢力も揃っているのだ。
無論、半信半疑ではある。
思い込みの可能性が高いだろう。
だが、背に腹は変えられない。
仮に王が討たれることがあれば、グロリアはおしまいだ。
そのため、5000人の別働隊を編成した。
ひとまず全軍を王都から出し、警備が薄くなったと見せかける。
そして、別働隊は王都を少し離れたところで待機させておき、俺からの合図で反乱軍を叩く。
クーデターが起きなかったら、それはそれで良い。
俺もヴァスク城に向かうだけだ。
◇◇◇◇
深夜。
街灯もない時代なので、松明で得られる光が唯一の頼りだ。
そんな夜陰に乗じて、クロイドは一人、王宮に侵入した。
尋常ではない芸当だ。
小国であれども、王宮は堅く守られている。
その中に易々と入れるクロイドは、まさに潜入の天才と言っていい。
「今のくだらぬ王では、この私の才能を正しく評価できない。よって今日よりは、私が新しい王となる!」
王の寝室に入るなり、クロイドは高らかと宣言した。
「何事だ!?」
もちろん、王は目を覚ました。
近くにいた親衛隊も、すぐに駆けつけてくる。
「だ、誰だ?」
「分からんのか?フッ、どうせ私の名など覚えているまい」
別に彼らがクロイドの名を忘れている訳ではない。
ただ暗くて、見えづらいのだ ー が、今のクロイドは非常に自虐的で、深く考えようとはしない。
自分を解任した祖国を恨むのみだった。
彼は起き上がった王に向かって叫ぶ。
「愚か者め。この私を下に見たことを後悔するが良い!」
「ふざけたことを言うな、侵入者め!」
親衛隊は剣を構えた。
彼らは10人。
もうじき、異変に気づいた他の隊員もやってくるだろう。
誰がどう見ても、クロイドの敗北は確実だった。
「どこから入ってきたかは知らないが、陛下に手を加えることは許さん」
親衛隊長:スキタは、松明を持って侵入者に一歩近づいた。
そして、薄暗く照らされたその顔を見て、初めて敵の正体を認識した。
「クロイド侯爵‥‥‥?な、なぜーー」
「黙れ」
クロイドの武器:ストリングは、剣身が糸のように細い短剣だ。
よって、暗闇の中では非常に見えづらい。
松明が照らせる範囲には限りはあり、クロイドはその死角からスキタを刺した。
「グハッ‥‥‥」
「どうした、スキタ!?」
「スキタ隊長!?」
「フッ、フハハハ!この剣も便利なものだな」
返り血が飛び散り、狂気に満ちた顔で笑う男。
あたりには不気味さが漂った。
「な、なんなんだ、今のは?」
「クロイド侯爵が強いとは聞いていないぞ!?」
だが、スキタはまだ死んでいない。
クロイドもそれは分かっているため、倒れたスキタにトドメを刺そうとしゃがみ込んだ。
「っ、隊長をお守りしろ!」
親衛隊もバカではない。
あまりにも突然の出来事に固まっていたが、我に返った隊員たちはスキタの援護に動いた。
「フッ、無駄なことを」
「グハーッ!?」
一人目の兵士に剣を刺したかと思えば、二人目の後ろに移動して喉を正確に刺していて、それを止めようと動いた3人目の兵士も、気づけば腕を斬り落とされていた。
斬撃自体はさほど強くないのに、致命傷となりうる箇所を正確に狙ってくる。
これがクロイドの恐ろしさだった。
「貴様らも邪魔だ。どけ」
彼は扉の前に立っていた8、9人目の兵士の足を素早く斬り、扉に近づいて鍵を掛ける。
最初から計算されていたかのような立ち回りだ。
「閉じ込められた!?」
「フッ、これで援護が来るには時間が掛かりそうだな」
残っていた4人の兵士も流れるような動作で行動不能にしたクロイドは、再び王の方を向き直した。
ことの始まりから数分、王は腰を抜かして、動けないでいた。
臆病な王、というわけではないのだ。
子供は子供で、命の危機に陥れば、畏縮するのも当然なだけだ。
「フッ、王ともあろう者が、このざまとは。己の愚かさを後悔するが良い!」
「や、やめろ!」
クロイドは王に剣を突き刺した。
突き刺した、はずだった。
「な‥‥‥に‥‥‥?」
なぜか、クロイドの剣は弾き飛ばされたのだ。
目の前には、剣を構えた誰かが立っている。
ストリングの剣筋を見切った‥‥‥?
あの王が!?
さっきまでこの部屋には王とその親衛隊しかいなかったため、クロイドは途轍もない勘違いをしていた。
「あの陛下が‥‥‥?」
親衛隊もまた、勘違いをしている。
すると、立っていた人物が、横に一歩ずれた。
背後からは、隠れていた王の姿が見えてくる。
王でないのなら、あれは誰だ?
クロイドは益々理解できなくなった。
「クロイド様、なぜこのような反乱を?」
その声を聞いて、クロイドはようやく気づいた。
「貴様か!」