第14話 昇格
「私は世界を統一し、平定しようと考えています。これには、あなた方の嫌いな戦争が必要ですし、リズ王国の滅亡も欠かせません。それでも、私の臣下で良いのですか?」
俺はネティンたちに問うた。
彼らの望みは、戦争のない世界を作ること。
確かに俺と一致している。
しかし、自らの祖国と戦うことになると、躊躇ってしまうかもしれない。
だから、ここでハッキリとさせておきたいのだ。
『はい、それで構いません!』
二人は同時に答えた。
威勢のいい声だ。
ネティンは付け加える。
「あなた様なら、勝利した暁には、国民に今よりずっと豊かな暮らしをもたらせると俺は確信しています!」
隣のゼダックも深く頷いた。
「俺も同感ですぜ。戦争はいやですが、戦争なしに世界を統一など、できるはずもありません。最後の仕事だと思って、頑張りますよ」
これほどの信念があれば、きっと問題ないだろう。
この二人は当てにできる。
人柄も良さそうなので、占領した街で略奪行為が起こる心配もなさそうだ。
「わかりました。あなた方の申し入れは、私の方からお願いしたいくらいです。
力を貸してください。私もできるだけ早く、平和な世界をつくります」
この日より、俺には頼れる家臣が二人できた。
◇◇◇◇
「リスト、陛下から書状が来てるよ。王都に来てくれ、だって」
ネティンとゼダックが家臣になってから2日。
予想通り、国王からの召集命令を受けた。
「そうですか。では王都に迎える準備を整えましょうーーっていうか、お兄様が直接伝えに来る必要はないんですよ?ネティンさんがゼダックさんに託してもらえれば‥‥‥」
「えっ!?」
なぜか兄はその場に倒れ込んだ。
俺、何か問題発言でもしたか?
「‥‥‥もしかして‥‥‥僕‥‥‥もう‥‥‥いらない?」
兄は沈痛な表情をしていた。
なんか寂しそう!?
「いや!?そういう訳じゃありませんから!ほら、起き上がってください!!」
俺は、兄をなんとかなだめようとした。
イマイチ状況が分からない。
ただ、兄が泣きそうになっているということだけ。
「ああ‥‥‥そうだよね‥‥‥リストも、もうそれくらいの歳だよね‥‥‥今まで僕を慕ってくれていた方が、おかしかったんだよね‥‥‥」
「そんな訳ありませんから!お願いします、いつものお兄様に戻ってください!ーーあっ、ゼダックさん!ちょっとお兄様をどうにかしてください!」
「んなこと言われても‥‥‥なあ?」
俺は部屋の前を通り掛かったゼダックに助けを求めたが、無謀だった。
ならば、仕方がない。
奥の手だ。
「お兄様!」
「う‥‥‥うっー‥‥‥」
「ケーキでも食べましょう!ネティンさんがすごく上手く作るんですよ!」
「ケーキ‥‥‥?えっ、ケーキがあるの!?」
よし、効いた!
なんとかなったぞ!
「食べようよ!」
グイッ、と兄が顔を近づけてきた。
「王都から帰ってからにしましょう」
「え〜!?」
と、いうことで、状況をまったく把握できていないネティンにケーキ作りを頼み、俺は王都へ向かった。
「良くやったぞ、リスト!朕はそなたに感動した。よって、現総大将:クロイド侯爵は解任し、新たにリストを任命しようと思う!」
「なっ!?」
王の発言に、周りの貴族たちは愕然とした。
気に留めることなく、強気な王は続ける。
「ではリスト、これより作戦本部の全権限をそなたに託す。あの忌々しいリズ王国軍を打ち破ってくれ!」
初めて王に会った時に受けた印象は、合理的で優秀、というものだった。
よって、こうなることは容易に想像できた。
計画通りと言っていい。
「はっ!」
俺はそう答えると、場を立ち去ろうとした。
しかし、貴族たちが許さない。
「お、お待ちを!陛下、この者はーー」
中央貴族の目的は、権力を持つことだ。
よって、俺みたいな部外者が成果を出してしまっては、立場が脅かされる。
俺を止めたいのは普通のことだ。
だが、グロリアの王は意見を曲げなかった。
「何か異論でもあるのか?既にリストは、何度も国家の危機を救っているのだぞ?」
前回と同じように、貴族の反対をつっぱねたのだ。
「しかし‥‥‥!」
貴族は気色ばんで筋の通らない抗議を継続したが、王は俺に顎で合図をした。
「行ってこい」
という合図だ。
俺も頷き、王宮を出た。
「おい、待てー!」
背後から聞こえた声は、無視だ。
◇◇◇◇
「なんだと!?この私が、総大将から解任される‥‥‥!?」
「はい。今日中に変われ、とのことです」
家臣から報告を受け取った時、クロイドは絶句した。
こんなに優秀な自分が、総大将の座から解任されるだと!?
さらに、その後継者があの無能な田舎領主だと!?
クロイドは許せなかった。
自分を降格に追い込んだリストを。
決定した国王を。
そして、それを許した王国を。
すぐさま、クロイドは作戦を練った。
グロリア王国のためではない、自分のプライドを守るためだけの復讐計画だ。
「こんな国、滅んで当然だ。この私の力を正しく評価できないのだからな」
「クロイド様‥‥‥?」
そもそも勝ち目のない戦争だ。
どう足掻こうが、国を救うことはできない。
だからこそ、今までも、これからも、プライドのために戦うのだ ー これがクロイドの臆見だった。