第13話 戦力増強
戦闘中は何も感じずに残酷な策を実行できるが、いざ終わってみると苦しいものだ。
飢餓状態に追い込まれた敵軍は、どれほど辛かっただろうか。
だが、これは世界を変えるための第一歩でもあった。
俺はこの大陸を統一し、国民が平和に暮らせる国を作る。
絶対に、だ。
リズ王国軍は多くの兵を失った。
しかし、全員が死んだというわけではない。
疲労で倒れた者や、俺が行った各個撃破で降伏した者もいる。
彼らは捕虜にする。
無駄な殺しは必要ない。
「生き残った敵兵を、全員捕虜にする!?」
ルフィタに意思を伝えると、耳が裂けるほどの大声で驚かれた。
「それだけの捕虜を養う食糧はどこに‥‥‥いや、なくはないが、そんなことをしてどんな意味が‥‥‥?」
俺を、心配する目で見てくる。
狂ったかと思われているようだ。
しかし、俺からしてみれば、戦闘中に狂っているのであって、今こそが平常なのだ。
そもそもは誰も殺したくない。
殺戮なんてもってのほかだ。
「相手も同じ人間です。彼らに戦う意思がない以上、殺し合う必要はありません」
俺はルフィタを凝視した。
引き下がるつもりは、全くない。
「そこまで言うのなら‥‥‥分かった。俺も確かに殺し合いは嫌いだ‥‥‥シニタクナイカラナ」
最後の方に本音が漏れているような気がしたが、これで俺の心は伝わった。
「では、各地の捕虜をヴァスク城の地下に集めてください。食料を配ろうと思います」
この時の俺は、自分の行動がとんでもないことに繋がるとなど、思いもしなかった。
◇◇◇◇
「う‥‥‥ここは?‥‥‥」
リズの指揮官:ネティンは見知らぬところで目を覚ました。
大きな部屋の中に、多数のリズ王国兵がいる。
確かさっきまでは、とめどなく攻撃を仕掛けてくるグロリア王国軍と戦っていたはず。
それが、なぜ城の中に‥‥‥?
「お、オメェーも起きたか」
隣にいた、戦友のゼダックに声をかけられた。
「ここは何処なんだ?グロリアの奴らと戦ってたと思うんだが‥‥‥」
「そりゃ、俺にも分からねえ。だけどよ、味方の場所じゃねえと思うぜ。実際、外へと通じそうなあの門は、閉ざされてるしな」
ゼダックは広い部屋の、一番奥の門を指差した。
そして、自嘲するかのように続ける。
「俺らは捕虜として囚われてるんだろーな。情報を搾り取られて、殺されるってところだろうぜ。そんな重要なもん、持ってねーのにな‥‥‥ハハッ」
ゼダックの目は死んでいた。
この先に希望などない、と思っていたのだ。
ネティンはそんな彼を励まそうとしたが、言葉に詰まった。
確かに、目の前は地獄なのだ。
自分も含めて、飢えた兵たちが大量に監禁されている。
死んでこそいないが、それはさらに苦しみが続くことを意味していた。
これが地獄でなければ、何を地獄と呼べようか。
すると、門が開いた。
『え?』
驚いて、ネティンとゼダックはその方向を見る。
一人の少女と、一人の少年が立っているようだ。
無論、レイとリストである。
そして、レイは少女ではない。
「皆さん、今からパンを配給します。ゆっくり、取りに来てください」
囚われていた兵の一部は、「パン」という言葉に釣られて動いた。
「パンだ‥‥‥パンがあるってよ!」
「はやく、はやく何か食わせてくれえ‥‥‥」
ぞろぞろと、門の前に人が集まっていく。
一方で、ゼダックは嘲笑った。
「ハハハッ、情報さえとれば用済みな俺らに、食事を摂らせるだけ無駄だろ。あーやって与えた希望を、次の瞬間に叩き潰すに違いねえよ」
ネティンも思わず同調してしまった。
「本当に、いい趣味してるよな」
彼らはベテランの兵士だ。
戦場とはどういうものか、熟知している。
敵国の兵士に情けをかけることなど、この世界ではありえないのだ。
だからこそ、次に起こることは予想外だった。
「あなたも、これを食べてください。他の皆さんには、既に配り終わりましたから」
「‥‥‥!?」
さっきの少年が、本当にパンを持って歩いてきたのだ。
さらに、パン以外にも、温かいスープだったりと、色々なものがあった。
ゼダックは目を見張った。
「ま、マジかよ!?マジでこれをくれるのか!?」
ネティンもそれに続く。
「な、なぜ敵兵に貴重な食料を分けてくれるんだ?」
戦争で、物資はかなり重要だ。
それを敵兵に渡すなんて‥‥‥!?
少年は小さく微笑んだ。
「私は、無駄な殺しはいらないと思います。戦いは既に終わりました。もうあなた方は敵ではありません。困っている仲間です。困っている人を助けるのは、普通の行動でしょう?」
ネティンには到底理解できなかった。
俺は敵なんだぞ?
助けてなんの意味がある?
ネティンは訳のわからない偽善を断ろうとしたが、彼の体は正直だった。
グー、っと、腹が鳴る音がする。
何日間も食べていないのだから、当然だ。
「じゃ、じゃあ、いただこう‥‥‥」
「はい!」
ゼダックもしばらくは固まったが、後に ー
「ハ、ハッハッハ!頭のイカれたガキだぜ。でも、ありがとうよ。お前さんの上司には、感謝してるって伝えといてくれ」
と礼を言って、貰ったパンに齧り付いたのだった。
しかし、ここでもう一つ、彼らにとって驚くべきことが起こった。
「命令を出したのは、私ですよ?」
「え?」
「は?」
もちろん、意味不明である。
こんな子供が軍を指揮するなど、リズ王国 ー いや、大陸のどの王国でも、ありえない。
「じょ、冗談はよくないぞ‥‥‥?」
「そ、そうだぜ。お前さんの上司に見つかったら、怒られちまうだろ?」
信じようとはしなかったが、少年 ー リストの言っていることは、紛れのない真実である。
「冗談ではありません。今回の食料配布も、さらに言えば前回の補給路封鎖も、私が命令したものです。ーーだから、ある意味、これは私の自作自演なのかもしれませんね」
ネティンとゼダックは、目を見開いて仰天するだけだった。
◇◇◇◇
リズ王国の兵士を捕虜とした翌日。
思いもしなかったことが起きた。
「あの少年にあわせてくれ!」
門に前でうるさくする二人組がいて、どうやら俺に会いたいらしいのだ。
面倒だが、敵意があるわけでもなさそうだったので、興味本位で門を開けた。
すると、昨日、食料配布を後方で眺めていた二人が姿を現した。
コイツらが、俺に何を言いたいのだろう?
「別に応じなくてもいいんだよ?」
兄にはそう言われていたが、いずれ大陸全土の住民が仲間となるんだ。
ここで交流を断ってどうする。
そんな思いで、
「どうしましたか?」
と目的を聞いた。
すると、彼らは急に跪いた。
『俺らを、部下にしてくれませんか!』
「えっ!?」
急にどうしたんだ!? ー と驚く暇もなく、二人のうち、背の高い方が早口で喋り出した。
「俺たちは、あなた様のお考えに感動しました!決して有利とは言えない状況でも、敵兵をまるで自分の兵かのように大切にするーーそんな将軍には初めて会いました!
俺たちは戦争が嫌いです。しかし、あなた様には希望を感じました!
平和を心の底から願う気持ちが、伝わってきました!だからこそ、協力させてください。あなた様の理想に!」
長い熱弁だった。
簡単に言うと、俺の行動が彼らの忠誠心を勝ち取ったらしい。
しかし、言ってもいないのに、俺が理想の世界を持っていることに気づくとは。
ただただ偶然かもしれないが、勘が鋭そうだ。
ステータス ー 人が多いところでは自分が念じることで表示される仕組みらしい ー を確認する。
そこには、目を疑う光景があった。
【ネティン・アックス】(34歳)
・武力:69
・体力:69
・知力:53
・統率力:73
・政治力:34
・地位:平民
【ゼダック・メルサーツ】(35歳)
・武力:72
・体力:57
・知力:43
・統率力:82
・政治力:22
・地位:平民
二人とも、統率力が異常に高い!
ゼダック ー 背の低い方の人に関しては、統率力があのルフィタより高いんだが!?
武力や体力に関しても、相当上位の方だ!
これは、俺の方からも是非とも仲間になってもらいたい!