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第11話 死神

 リズ王国軍は遂に、関所を通らない補給路を選んだ。

 時間が掛かる上に、大量の物資を運ぶのには不向きだが、そうするしかなかった。


 ラスク城やリスク城に残った兵の大部分は、周辺の村々や街の占領で出払っており、既に5000の兵を失った以上、彼らが戻るまで関所の奪還に踏み出せないのだ。


 無論、俺はそれを分かっていた。

 だから、関所には捕虜を見張るための最低限の兵だけを残して、ほぼ全軍で外に出たのだ。

 

 関所を迂回してくる補給部隊を見逃すつもりはない。

 彼らの運ぶ物資が届いてしまえば、俺の作戦の意味がなくなる。


「隊長、前方に敵です!リズの補給部隊ーー数は3000人のようです!」


 念の為、ルフィタは関所に残っている。

 つまり今回は、全てが俺の指揮にかかっているのだ。

 

 兄も、ルフィタも、まともな量の兵士もいない。

 緊張するし、怖い。

 ゲーム内とは訳が違う。

 だが、初日の絶望と比べれば‥‥‥大したことじゃない!

 

 前方には3000人の敵補給部隊。

 殲滅は可能だろうが、そうすると我が軍も多少の被害を受ける。

 

 だから、燃やすのだ。


「皆さん、松明は持っていますか?突撃しますよ!」

「はっ!」


 別に相手を全滅させなくとも、物資だけを使えなくすれば良い。


「なっ!?奇襲だあっ!」

「アイツら、松明を持ってるぞ?」


 連れてきた騎兵800人のうち、200人が松明を持っている。

 我が軍は彼らを中心に、密集陣形を組んでいた。


「狙うのは荷車のみです!火をつけたらすぐに離脱しますよ!」


 グロリアの騎馬隊により、荷車周辺の敵兵はあっという間に斬り倒された。


「や、やめろ!!」


 俺は一番近い荷車の中に、松明を投げ込んだ。

 他の荷車の中にも、他の兵たちが同じように松明を投げ込む。

 この間に近づこうとしてきた敵兵は、容赦なく首を刎ねられた。


「目的は達成しました!逃げましょう!」


 そして俺らはその場を走り去っていった。

 残ったのは、火の手が上がる荷車と、狼狽える敵兵だけ。


 しかし、ここで終わりではない。

 敵の補給物資を全て燃やす。

 使えそうな補給経路は調査済みだ。

 

 俺らは次々と敵の補給部隊を発見し、攻撃していった。


◇◇◇◇


 補給経路が遮断され、3日。

 ヴァスク城を占領したリズの兵たちは、飢えていた。


「クソ!なぜ関所を取り戻せていないんだ!腹が減って仕方がない!」


 総大将:アウスの机を叩く音が響き渡る。

 補給部隊が連日奇襲に遭っていたのだ。


 補給がない以上、王都への進撃は不可能。

 なので、いち早く関所を奪還する必要があった。


「おい!もう一度、関所を奪還する部隊を編成しろ!」

「はっ!‥‥‥指揮官には、誰を選ぶおつもりで?皆、嫌がっていますが‥‥‥」


 副官は、どこか怖気づいた様子だった。

 

 なにせ、ヴァスク城内では、不可解な事件が起こっていたのだ。

 関所の奪還に動こうとすると、数分後にはその隊長の首が斬り落とされている。

 さらに、護衛も惨殺されているため、目撃者が一人もいない。

 神出鬼没の暗殺者 ー 死神の仕業ではないか、と一般の兵の中では騒がれていた。


「指揮官はレイドにする。今回は護衛を増やすと言って安心させておけ!まったく、我が軍にここまで多くの裏切り者がいたとはな」


 無論、アウスは死神の存在を断じて信じず、疑わしき兵を処刑していた。

 

 ある意味、アウスは間違っていない。

 確かに死神はいないのだ。

 しかし、限りなく死神に近い人間はいた。


「ごめん、少しお邪魔するよ?」


 アウスたちがいた部屋に、突然、聞き覚えの無い声が響く。

 酷く、冷たい声だ。


「だ、誰だ!?どこから入ってきた!?‥‥‥おい、この無礼者の首を刎ねろ!」


 アウスが言葉を発した頃には、周りにいた副官たちは皆死んでいた。

 唯一立っているのは、美しい少女 ー のような見た目の男。

 紛れもなく、レイ・レスタールだ。

 

 リズ側は知らなかったが、ヴァスク城には秘密通路がある。

 レイはそれを利用し、敵の関所奪還の動きを足止めしつつ、城内に入ってきた総大将とその側近たちをまとめて排除するタイミングを探っていたのだ。

 しかし、流石のレイでも、周りの警備が固いアウスに近づくのは困難を極め、この部屋に侵入するのに3日も掛かってしまった。


「本当になんなんだ!?衛兵たちよ、早く入ってこい!」


 アウスは外に向かって怒鳴ったが、彼の言葉が届くことはなかった。

 近くにいた兵士も皆、既に斬られているからだ。


 指揮の中枢を全て失えば、敵軍は混乱する。

 これがリストの狙っていることだった。

 

 つまり、アウスは死ななければならない。


「く、来るな!」


 アウスは下がろうとしたが、後ろには壁しかない。

 アウスは仕方なく剣を抜いた。


 カキィィン!


 金属がぶつかり合う音と共に、彼の剣は一瞬で跳ね飛ばされる。

 

 アウスはこの一撃で格の違いを理解した。

 

「た、頼む!助けてくれ!俺はただ命令されてここにいるんだ!」


 全てのプライドを捨てての命乞い。

 レイから見ると、本当に惨めな姿だった。


 そんなことにはお構いなく、アウスは続ける。


「こ、この場所から全兵力を撤退させよう!ど、どうだ、悪くない話だろう!?」


 グロリアを滅ぼし、さらに先まで進出しようとしているリズが、そう簡単に撤退するだろうか?

 いや、それはありえない。


「本当にそれでも総大将?」


 呆れたレイは、眉を細めて剣を振った。

 空振りだ。

 

 アウスは尻もちをつく。


「い、嫌だ!お、俺は死にたくない!‥‥‥そうだ!俺を捕虜とするがいい!俺は将来、リズ王国の公爵となる者ーー身代金は高く付くぞ!」


 無様な姿になれ果ててもなお、なんとか助かろうとするリズ王国軍の総大将。

 最後まで愚かであり、身勝手な将だった。


 ザシュッ。


 レイは、アウスの首を綺麗に斬り落とした。


「俺は‥‥‥うわ‥‥‥あ‥‥‥」


 その首は床を転がり、残った体の周りには、血の海ができる。


「さて、衛兵が来る前にここを脱出しよう!」


 恐ろしい風景とは真逆な元気さで、レイは任務を完遂できたことを喜んだ。

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