第10話 関所の防衛
ヴァスク城で戦っているリズの兵たちに、兵糧などの物資を届ける補給部隊。
彼らはヴァスク城とリスク城の間にある関所を通る。
迂回することもできるのだが、そうする理由がない。
関所は制圧しているのだから。
「第五軍所属の補給部隊だ。今より前線に物資を届けに行く」
補給部隊の隊長が、関所を通過する前に門番に伝える。
ここまで敵が来ることはまず無いので、関所の門は開けっ放しなのだが、規則は規則だった。
門番は頷き、通行許可を下ろす。
そしてリズの補給部隊は、何も疑うことなく関所内に入った。
しかし、関所内にいたのは友軍ではなく、グロリアの兵士たちだ。
門番も剣を抜き、補給部隊の隊長の首元へと運んだ。
「ど、どういうことだ!?」
補給部隊は全員、混乱で固まっている。
そんな彼らに、一人の子供が呼びかけた。
「全員、おとなしく剣を下ろしてください。そうすれば危害は加えません」
◇◇◇◇
関所内にいた兵士たちで、外部に逃れた者は一人もいない。
よって、リスク城の敵部隊には、関所が陥落した情報が伝わっていなかった。
さらに、兄たちに実行してもらった策により、ヴァスク城方面の敵が今すぐ来ることもない。
俺はこれを利用し、この関所を通る敵の補給部隊を、次々と捕獲していたのだ。
「す、すごいぞ!俺らだけで敵を数千人も捕えているではないか!」
「そうですね。ですが、捕虜の数が増えると反逆する可能性も出てくるので、注意しましょう」
浮かれ気味のルフィタに、一応忠告をしておいた。
ここで俺らが気を抜いてしまうと、計画が破綻する恐れがある。それは絶対にダメだ。
さて。補給部隊が帰還しないことから、リスク城の敵はようやく異変が起こっていることに気付くだろう。
そこそこな規模の討伐隊が来るはずだ。
作戦を成功させるためには、ここで耐えなければならない。
「北の方向に敵兵!数は5000!大部分は歩兵のようです!」
数時間後、報告がきた。
予想通りではあるのだが、この程度の兵力で俺を倒せるとでも?
確かに、俺たちの部隊は騎馬隊。平地での機動力が特徴だ。
よって、普通ならば関所に籠っての防衛線には向かない。
だが、使い方を工夫すれば強力な防衛戦力となる!
「打合せ通りに行きましょう。ここは、私たちの踏ん張りどころです!」
そう宣言して、俺は城壁を上り、敵軍の様子を眺めた。
なるほど。
弓兵500人、歩兵4000人といったところか。騎兵も少し混じっている。
俺らの部隊の規模や兵科から考えれば、悪くない組み合わせだ ー 普通ならば。
「関所を奪還せよ!突撃だ!」
大声で叫びながら突撃してくるリズの兵士たち。
「門を開けてください!」
関所の門は突然開いた。
俺の指示だ。
すると敵将が、嘲笑しながら歩いてきた。
「ハハハ!戦力差を見て、怖気づいたか!だが降伏しても命を助けることは出来ないぞ。上官の命令だからな!」
そうではない。
俺らはしっかり、戦うつもりだ。
「これで、貴様らには抵抗することすらできない!ハハハ、せめて門を開けなかったら、マシだったのにな!ーー全軍突撃!」
しかし、敵軍が関所内に入ることはなかった。
なぜならば ー
「な、なんなんだ、この騎兵たちは?!」
「お、おい、気を付けろ、次のやつが‥‥‥ぎゃああ!!」
騎兵が3列で、門をくぐってきた敵軍に向かって突撃し、そのまま走り去っていく。
その後ろには無数の騎兵が続いており、突撃は永遠に続くように見える ー 反対側に抜けた騎兵が関所内を一周し、そのまま同じ勢いで門まで戻ってきているからだ。
これはつまり、平原での戦いと同じ状況!
さらに、門にいる騎兵が常に変わり続けることにより、一人に攻撃が集中することがない!
この規模の敵軍を相手するときには、ピッタリの作戦だ。
ちなみに騎兵の突撃を突破してきた者は、ルフィタが弱音を吐きながらも斬り続ける。
「弓兵、城壁の上で指示を出しているヤツを狙え!」
みるみる兵士が削られていく中、敵将は俺に目を付けたようだ。
問題ない。
むしろ、防衛線を崩す要因になりかねない弓兵を、引きつけることができて超ラッキー!
「死ねー!」
俺は即座に城壁から降り、念のため空中に向かって盾を構えた。
周りの地面には矢がどんどん刺さっていく。
かなりゾクッとしたが、兵士たちが頑張っているのだから、俺も頑張らなければ。
一通り危機が過ぎ去ると、また城壁に上って指示を出した。
「クソっ!舐めやがって!」
相手の指揮官が無能すぎて、殲滅にもそう長くかからなさそうだ。
敵軍の数が、既に2000人にまで減っているからだ。
ここまでくれば、兵科の有利性で正面戦闘が可能。
我が軍の被害はほとんど無かったので、既に勝利は確定しているようなもの。
「外周の騎兵は北門から出て、相手の後ろに回り込んでください!残りは正面から戦います!」
定番の挟み撃ち戦法だ。
こうして、関所を守るとともに、5000の兵を全滅させることに成功した。