お兄様、ステータス間違ってません?
ここは何処だ?
俺は見知らぬ場所にいた。さっきまでは、駅の近くを歩いていたはずなのに。
周囲を確認する。そこそこ豪華な部屋だ。だが、作りが古い ー まるで中世ヨーロッパの家・・・・・いや、城のようだ。
「起きたか、リスト」
声がした。
振り向くと、見知らぬ男が立っていた。
誰だろう、と考える前に、その男の横に透明なパネルのようなものが出てきた。
【レイン・レスタール】(42歳)
・武力:65
・体力:51
・知力:60
・統率力:68
・政治力:50
・地位:グロリア王国の伯爵
「な、なんだこれええ?!」
混乱しすぎて、思わず声に出してしまった。俺の前の男 ー レインは、驚いた表情でこちらを見ている。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「いや、そうじゃなくて・・・・・?本当にどうなってんだ?!」
◇◇◇◇
それから一時間後。俺はやっと、自分の置かれている状況に気付いた。
どうやら俺は、異世界の人間に転生してしまったらしい。しかも、小領主"レスタール家"の人間 ー リスト・レスタ―ルとしてだ。
ステータスは以下の通り
【リスト・レスタ―ル】(12歳)
・武力:10
・体力:21
・知力:判定不能
・統率力:判定不能
・政治力:判定不能
・地位:レスタ―ル家の次男
分かる情報だけでもカス中のカスだ。幸いなことに、このゲームでのステータスは目安に過ぎず、時と場合によって武力が低い者が高い者に勝利することもあるが。
父はレイン・レスタール。母はセーネという人らしいが、一年前に病気で他界。あと、まだ会っていないが兄が1人いる。
さて、ここからが大問題だ。俺はこの世界を知っている。知りすぎている。なにせ、ここは"カーシット戦記"という俺がプレイしていた戦略ゲームの世界なのだ。
"カーシット戦記"はそれぞれのプレイヤーが自分の使いたい国を選び、大陸の統一を目指すゲームだ。操作できる国は8つあり、できない国は5つある。操作できない国はCPUが動かすわけだが、その行動には一定の規則性がある。
そして、その一定の規則性で毎回必ず滅ぼされる操作不能の国がある。ここ、レスタール領が位置する、グロリア王国だ。
この領地は近い将来戦場になる。そして恐らく、今のままだと滅ぼされる。
並の人間ならば絶望しているところだ。元来た世界へ帰りたいと思うだろう。だが、俺は違う。
俺は"カーシット戦記"で「戦略の鬼」と呼ばれていた。使用可能な8カ国なんて、どれも簡単すぎる!俺はもっと、難しい攻略がしたいんだ! ー そんな俺にとって、この挑戦はうってつけだった。
「お父様、兵舎のほうを見に行きたいのですが?」
俺は領主城の広場で父と訓練をしていた。無論、人生で一度も剣を握ったことがない俺はダメダメだった。
だが、それはどうでも良いこと。現在の勢力を把握することのほうが重要だ。
「?!!」
父 ー レインは驚愕したようだった。俺はそんなにおかしい事を言っただろうか?
「そうか・・・・・遂にリストが兵に興味を持つようになった・・・・・感無量だな・・・・・」
彼は泣きながらそう言った。どうやら、俺 ー リスト・レスタールは、戦争にあまり興味が無かったらしい。戦乱の世の中では致命傷になりうる要素だ。
「さっそく連れて行ってやろう。ついて来い」
父は歩き出した。
レスタール領北部の街、レスタルブルク。領主城が位置する街でもある。
レスタルブルクはグロリア王国の中で、北のリズ王国に最も近い街だ。
それはつまり、関所さえ突破されてしまえば、領主城は落ちるということ。最悪すぎる位置だ。加えて、兵士の総数は・・・・・
「ついたぞ」
俺が案内されたのは、兵士が1000人ほどいる兵営だった。まさか、城下町だというのにこの人数なのか?というかそもそも、この人数で兵営と呼べるのか?
レスタ―ル領の総人口は5万人。レスタルブルクに1万人、南部のレルンに5000人、そして各地の村々と小都市を合わせて3万5000人といったところだ。
平和な時代なら十分わかる。だがゲームの設定から考えると、大陸は既に平和とは言えない状況だ。何故ここまで兵士が少ないのだ?
「徴兵といっても、なかなか上手くいかなくてな。民からの支持が下がる」
俺の脳内を見透かしたかのように父は言ってくる。
「しかしお父様、大陸の今の情勢は非常に不安定なのではないですか?」
「そうだな。だが、レスタ―ル領の兵士は強い。数倍の軍が攻め込んできた程度で負けることは無い」
少数精鋭という訳か。まあ、最悪の場合は農民を徴兵できる。初期兵数が少ないのは、そこまでの問題ではない。
「あっ、父上、そこにいたのですね!」
1人の少女?が歩いてきた。
レインを"父上"と呼んだからには、俺の姉なのだろう。だが、姉がいるなんて聞いていないぞ?
【レイ・レスタール】(19歳)
・武力:156
・体力:50
・知力:92
・統率力:100
・政治力:95
・地位:レスタール家の長男
男?!嘘だろ?!
ラブコメとかに出てくるヒロインじゃなくて?
マジで、男?
と、そんな風に彼の容姿に驚いたが、よく考えるとそれは序の口だった。
ステータスがおかしいのだ。
武力:156?!上限って100じゃなかったのか?!
知力:92って天才かよ?!
統率力:100なんて見たことねえよ!!
政治力:95?!お前はもう王になれ!
体力だけは普通だったが、ここまで高いステータスを見せられては、もはやどうでも良いことだった。
「リスト、そんなに僕を見つめてどうしたの?」
声もめちゃくちゃ高いな!!本当に男か? ー って原点に戻ってきたわ!
自分は落ち着いている人間だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「な、なんでもないですっ!」
少しは頭を休めさせてくれ!
意味分からん状況に困惑してんだよ!
「それよりレイ、何かあったのか?」
父が指摘すると、兄 ー レイは思い出したかのように答えた。
「あっ、それが、国境を警備してる兵たちから、リズ王国側の動きが怪しいって報告がきたんですよ。念のため、伝えておこうかな、と思いまして」
ちょっと待て。
リズ王国の動きが怪しい??
「お父様!今日はカーシット歴何年何月何日ですか?!」
「328年4月19日だ。まさか今日が何日か忘れていたのか?」
4月19にちぃー?!
19日だと??
ゲームが開始するときはカーシット歴328年4月18日。つまり戦いは、既に始まっている?!