あの日、僕は復讐を誓った
目の前で母親を殺された。僕たちは、ただ散歩をしていただけなのに。
その日、僕と母は森を歩いていた。偶には日差しを浴びた方が良い、と母が提案したからだ。僕は内気な性格で、いつも引き籠っていた。そんな僕を見かねた母に散歩へと連れ出された。僕は嫌だったけど、母が熱心に誘ってくるので根負けした。
森の中を歩いていると、木の実を見つけた。それを母が取ってくれた。僕は甘酸っぱい味を夢中で堪能する。そんなとき、音もなく三人の男が現れた。僕は戸惑い、母は慌てた。しかしすぐに母は落ち着きを取り戻し、気丈に振る舞う。男三人の注意を引き付け、僕を逃がしたのだ。
懸命に駆ける僕の背後で大きな声がした。断末魔の叫び、とでも言おうか。思わず足を止め、振り返る。すると僕の視界が、倒れる母を捉えた。どうやら斬りつけられたらしい。倒れた母に一人の男が伸し掛かる。そうして剣を突き立てた。
その瞬間、僕は母の死を悟った。更には、次の標的が自分であることも。よって再び逃げ出した。とにかく必死で足を動かした。結果、僕は逃げ切った。
そんな出来事から随分と時が経った。僕は知り合いの家族に育てられ、もう大人になっている。今でも、あのときの光景は覚えている。忘れる筈などない。母の最期も、あいつらの顔も。だから復讐することにした。
武器は棍棒しか手に入らなかった。集落内では剣はそうそう入手できず、刃物すら珍しい。貴重な刃物は木工のために使われる。僕の棍棒もそうして作られた物だ。鎧の類いはない。貧相な腰巻きと棍棒。それが僕の持ち物だ。
「本当に行くのか?」
集落の長が心配そうに僕の顔を見た。彼は以前、『復讐などしたところで母親は還ってこんぞ』と言ったが、その言葉が僕の心を変えることはなかった。母が還るかどうかではない。とにかく、あいつらは許せない。僕たちは、ただ森を歩いていただけなのに。
「はい。絶対にあの三人を殺してきます。それまで、ここには戻りません」
「そうか・・・」
僕の強い決意に、長は目を伏せた。
待ってろよ、冒険者ども。僕がお前らを殺してやる。ゴブリンをなめるなよ。