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入学式から早くも一週間が過ぎた。サッカー部の練習は月曜オフの平日16時から18時が原則となっている。だが、中には授業と被っているため参加できない人がいるためグラウンドは19時まで利用できるようになっている。普段利用している運動場はサッカーコート一面分しかないので半分がトップチーム、もう片方がセカンドチームが利用している。練習内容は基本的にどちらも同じだが、大学から本格的にサッカーを始めた者もいるため、質が全く異なる。だが、それ以前にこちらには大きな問題点がある。それは、セカンドにいる先輩たちだ。彼らは、真面目に練習するというよりもおふざけというか俺とは違ったベクトルで練習に取り組んでいる。特に、
「ウェーイ後輩ちゃーん。今日も楽しくやっていきましょう。」
この増田峻希という先輩は自分だけならまだしも、そのノリを他人に強制してくる厄介な人だ。
「え~い、ゆうちゃん。いつもどうりバカ真面目だね。今監督にバレずにコーラどれだけ飲めるか選手権やってるんだけどやる?」
「今練習中ですよ。普通にやりましょうよ。」
「だから~これが[普通]だってw」
サッカーの練習中に監督にバレずにどれだけコーラを飲めるか隙見てうかがう先輩たち、そしてそれを囃し立てる先輩たち、その先輩を見て乗っかってしまう1年生たち。今までのサッカー人生においてこんな酷い光景は生まれて初めて見るため、怒りよりも呆れるの方が勝ってしまう。入部してからずっとこの調子のためまともな練習が全くできたいないし、本当にバレていないのか監督やキャプテンもなんにも注意しないから一番タチが悪い。こんな感じで今日も練習が終わり、俺はすぐに監督の方に向かった。
「監督!今日も増田さんたちふざけてましたよ。いい加減怒るなりなんなりしてください!」
「そうしてやりたいんだが、前にも言っただろ。今怒って辞められたりしたら部の存続が危ぶまれるって」
その、この大学で部活動として活動が許されるにはある程度の条件がある。その一つにサッカー部では所属人数が最低50人以上居なければならないというのがある。俺たちが入る前に部活動になれたのは来年度に50人はいくだろうという見込みをキャプテンが無理やり承認させたらしく、今50人を切ってしまうと最悪の場合、再び同好会に戻されてしまう可能性があるのだ。
「だからと言ってもいくら何でも酷すぎます。これじゃあ県リーグまともに戦えませんよ。」
現在、赤城大学サッカー部は2チーム体制で行っている。トップチームは本年度から正式に大学サッカー部として承認されたため、一番下の北関東大学サッカーリーグ2部に所属している。そして、セカンドは去年まで実質トップが戦っていた、群馬サッカーリーグを引き継ぐ形となった。このリーグは社会人チームのリーグのため大学名が使えない。そのため、「赤城FC」という名前で活動している。去年までの積み重ねがあり現在1部に所属しているので、下手したらトップのリーグよりも過酷かもしれない。
「まあ、安心しろ試合となればあいつらも真面目にやるから」
そうして運命の週末、群馬県サッカーリーグ1部第1節vs群馬中央FCの試合日になった。
俺と典太は実の運転する車で会場へ向かう。その道中典太が欠伸をしながら問いかける。
「にしても今日の試合大丈夫なんか?まじでちゃんと練習してないし、俺ら出るとなったら体力持たなくね?」
「でも、とりあえず三人ともメンバーに入れて良かったじゃん。場外メンバーは出る可能性なかったんだし。」
「そうだな、まあって言っても1年で現状まともに動けるの10人もいないからな。」
不安と試合に出る期待を胸に車は会場に到着した。今回監督はトップチームのリーグがあるため帯同していない。そのため、セカンドの橋本コーチだけが来ているが平日は仕事があるため週末しか顔を出せないらしく、1年生は今日が初の顔合わせとなる。
「えぇとおはよう。2年生は相変わらずだが、1年生は今日が初めてだね。早速だけど小森さんからスタメンの表を貰っているから発表していくね。」
終始穏やかそうな橋本コーチはスマホに移るメンバーを淡々と読み上げていく。スタメンは基本2年生が中心となっているが、たった一人1年生の名前が呼ばれた。
「ボランチは蛭田君と1年生のそうはた?君」
「それ双畑って読みます」
ボランチの双畑蓮。東京の中堅高校でプレーしていて、高校のサッカーリーグが終わるまで試合に出ていたため1年の誰よりも体力がある。さらに、中学はJ下部にいたため宮城友悟という存在がいなければ一番の注目株となっていただろう。
「とりあえずスタメンはこれで適宜1年生も出すようにと小森さんから言われてるのでサブもしっかり準備するように」
その後アップを行い、間もなく試合が始まる。整列する直前キャプテンマークを巻いた増田さんがこちらに近づいてきた。
「あれ~、一番練習頑張ってたバカ真面目君がベンチですか?w」
「仕方ないでしょ。俺はブランクあるんだから」
「ちょっと増田先輩。僕たちはチームメイトなんだから煽らないでください」
ちょっかい出しにきた増田さんの間に双畑が割って入りフォローしてきた。不服だったのか増田さんは軽く舌打ちして整列しにいった。
「蓮ありがとう。」
「いや、大丈夫だ。それよりも早く試合に出て来いよ。」
そうして試合が開始した。序盤から案の定相手にペースを握られる時間が多く、ほとんど攻撃を出せずにいる。しかし、監督の言う通り試合になると普段ちょけている先輩たちも真剣にプレーしていて、特にセンターバックの増田さんはディフェンスリーダーとしてラインコントロールや連携の声だけでなく競り合いや1対1も社会人の引けを取らなかった。普段の様子と全然違う姿に驚いている1年を見て、橋本コーチが苦笑いをしながら言う。
「あいつはな、普段はダメダメだが試合となると目の色を変えてプレーするんだよ。こちらとしては、扱いづらくて困ったものだよ。」
「でも、このままじゃ無理ですよ」
俺の言葉聞き、橋本コーチも頷く。その後も一向にペースは変わらず、セットプレーから2失点しまい前半が終わる。エンド変わって後半、メンバーは変わらず試合に繰り出すが、以前状況は変わらず再び失点してしまいこれで0対3となってしまった。後半15分、橋本コーチが立ち、こちらを見る。
「天笠君、宮城君、準備は出来ていますか」
「もちろんです」
「しゃー!こっから捲っていくぞ!!!」
靴ひもを結び、レガースを付けて4審の元へ。ひさしぶりの試合に胸のバクバクが抑えられない。それを深呼吸して落ち着かせ、試合の状況を見ながら典太に話す。
「いいか、作戦どうり[俺たち]で逆転すんぞ」
「当たり前だ。負けるのは性に合わないんでね」
交代
2木村健out→20天笠典太in
9大塚英二out→19宮城友悟in