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アディショナル  作者: 新潟コープ
赤城大学サッカー部
7/11

新歓

 練習終了後、片付けや着替えを済ませて俺たちは新入生歓迎会の会場であるお好み焼き屋へ向かった。今日は貸し切っているため、周りを気にすることなく楽しんでいた。


「それにしても、まさか友悟がアンダーカテゴリーの代表選手だったなんて全然わからなかったよ」


「この野郎、だったら最初から本気出せってんだ」


そう言うと、典太は俺の頭をグリグリしてきた。


「にしても、倉田君たちほんとに来なくて良かったのかな?」


「もうええでしょ、あんな奴ら。来てもダルいってんだ」


時は少し戻り、片付けが終わり皆が店に向かおうとすると、倉田が立ち上がって


「俺は行かねえぞ。サッカー部にも入らん。」


そう言うと、キャプテンの志村が慌てて倉田の方へ向かっていった。俺たちもその後を追いかけた。


「どうしたんだよ、一緒にサッカーやろうよ。」


「うるさい!!!俺はこのチームでレギュラーで活躍して、ナンバーワンになれると思ったから今日来たんだ!それがあんな奴のせいで台無しだ!」


倉田が俺を指して、ほぼ叫ぶように訴えた。その顔は今にも泣きそうだが、怒りを大々的に表していた。正直、まだ俺は入るとは決めていなかったため何て言葉をかけようか迷ったが、その指を向け続けたまま今度は俺の方を見てこう言った


「いいかお前、名前は忘れた!だが、これだけは忘れるなよ。俺はいつか、いや近い将来お前に復讐してやる、もちろんサッカーでな!その時は還付なきまでに叩き潰すから覚悟しとけよ!!!」


そう吐き捨てると取り巻きと一緒に帰ってしまった。


「まあプライドへし折られたようなもんだからね。仕方ないのかもね」


「なんか悪いことした感じでめっちゃ申し訳ないわ」


あの時は確かに気分がハイになっていたので倉田の気持ちなんて全く考えていなかった。それにしても、今になって思い返せば「お前に敗北を教えてやる」と、なかなかにイキった発言をしていて恥ずかしくなってしまった。

 新歓も終盤を迎え、部屋の中は大勢の人がいたため熱を帯び不思議な感覚が場の空気を包んでいた。先輩方の中には酒を飲んだため、大声で歌い始めたり新入生にダルがらみしてくる人もいた。それを察知した俺は逃げるように店の外に出ていった。外はすっかり暗闇に包まれていて、風が少し寒かった。店の前には自販機とベンチがありが、何かジュースを買おうとお金を入れようとしたとき


「なに外で休んじゃってんの、店ん中で頼みなさいよ」


と大山も外に出てきていた。そして、自販機の前まで来て「オレンジジュースで良い?」と言われ、首を縦に振るとそれを2つ買い一つ渡してきた。そのまま二人はベンチに座りジュースを飲む。唇に冷えた缶が当たり一気に現実に戻されたような感覚がした。


「大山さんはお酒飲んだんですか?」


「俺下戸なんよ。まだ舌がおこちゃまなのかな。」


最初は冗談交じりに当たり障りのない話をしていたが、次第に真剣な顔になっていき俺の顔を見て質問してきた。


「で、なんでこの大学に来たの?君ほどの実力ならもっと有名な所行けたんじゃないの?」


「すみません。僕、高2でクラブチーム辞めたんです。大会で怪我をしてしまって、一時は復帰したんですけどそこから怪我に対する恐怖が出来ちゃって。そしたらなんかサッカーに対する熱も無くなっちゃって」


大山さんは無言で話を聞き続ける。この人になら話してもいいと思い、一度息を整えて再び喋る。


「それでサッカーを辞めることを伝えたら周りから『そんなことで辞めるなんてもったいない』、『人生を棒に振るな』とか散々言われて、だんだん息苦しくなっちゃて、元々期待されていたからそれがさらに乗っかってきて、もう全部どうでも良いやと思っちゃって、その結果今に至るって感じですかね。」


一通り話し終えたため、残っていたジュースを飲み干し大きく息を吐いた。大山は少し考えて口を開ける。


「まぁ、聞いた感じ俺も周りの意見に賛同派だな。俺は前一でレギュラーだったけど、その地位を獲得するのに2年半かかった。だから、元々才能を持っている奴がそんな感じでいると、、、あ~何て言うんだろう。今風に言うなら『冷めるわ~』って感じかな」


大山さんの言いたいことは何となくわかる。確かに俺は、サッカーを始めてすぐにその才能が開花し、大した挫折もしてこなかった。でも、大山さんは違う。レギュラーを取る過程で多くの挫折を経験し這い上がってきたからこそ、俺の気持ちに共感できないのだろう。


「逆に大山さんは何でこの大学に来たんですか?」


「あぁ、元々サッカーは高校で止めようと思ってたのよ。大学サッカーはさ基本[プロになる]ことの方が重要じゃん。プロは目指していなかったし、適当な大学から推薦来てたけど『もういっかな』って思っちゃって。だからここに来たんだ」


「じゃあなんでサッカー部、いやサッカー同好会に?」


「サッカー同好会はね、志村が作ったんだよ。それであいつとは大学で一番仲良くて俺の過去も知ってるからさ。なりゆきって感じだね。ほんとは話すと長くなるんよ」


何があったかよく分からないが、きっと志村さんの熱烈な勧誘を受けて入ったのだと感じ取った。大山さんもジュースを飲み干して再び質問する。


「で、友悟君はサッカー部入るの?」


「正直迷っています。元々入る予定なかったんですけどなんか分からなくなっちゃて、、、」


言葉が詰まる。諦める理由を見つけるために来たはずが、気付いたらまたサッカーの魅力・楽しさを思い出したような気がしたから。自分の気持ちがかき回されていて何が本当か分からなくなってしまった。それを見た大山さんは再び笑顔になり、


「じゃあ、とりあえず入っちゃおうか!」


「えぇ、でも、、、」


「否定する理由なんてないでしょ?それに見てわかると思うけど今戦力不足なの、だから友悟君の力が必要なの」


「そういえばこの部の目標って何ですか?」


「全国大会出場」


思わず固まってしまった。元々この大山さんはどこかマイペースな人だからどこまで本気で言っているのか分からない。返答に困る。


「あ、冗談だと思ってるでしょ。でもこれはガチなんだ」


「いや、無理ですよ。大学サッカーの全国って確か県単位じゃなくて地方単位ですよね?てことは全国でも強豪校の数が桁違いに多い関東で全国目指すってことですか?」


「ザッツライト!!!だからさ、力貸して」


いくら何でも無謀すぎる、、、仮に僕が入って全盛期並の力でも、大山さんが100%の力を出しても可能性はほぼ0だ。そのはずなのに、この人を見ていると本当にできそうな気がしてそれも恐ろしい。


「それにさっき熱が無くなったって言ってたけど、今日のプレーを見た感じだとまだ君の心には熱が籠っていると思うんだ。だからさ、その熱を僕たちのために使って欲しいな」


そうこうしているうちに、店が終わる時間になり横川さんの声が外まで響き渡る。


「おっと、もう時間か。明日、今日使ったグランドでまた練習する。もし入部したいならこれ持ってきてね」


そう言うと、どこから取り出したのか分からないが入部届を俺に渡し、店の中へ戻って行ってしまった。外の寒さで体冷えてしまったが、心の中はなぜか暖かいような気がした。

???「だから、何回も言ってるだろ。もう本気のサッカーはしないって決めてんだ。誘うなら他の奴を誘え!」

???「駄目だ。それじゃあ全国大会に出れないんだ。君の力が必要なんだ」

???「なんでなんだよ。なんで全国目指すんだよ。だったら東京とかにある大学に行けばよかっただろ」

???「それじゃあ僕は試合に出れない。僕は君のように上手くないから、、、でも約束しちまったんだ『全国で会おう』って。だから、、、」

???「・・・」

???「それに君さっき講義こっそり抜け出したボール蹴ってたでしょ」

???「はぁ?お前ついて来てたのかよ」

???「頼むよ。まだ君にはサッカーに対する熱が残っているはずなんだ。だから、その熱を僕のために使って欲しいんだ」

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