先輩
劇的な2本目のゲームが終わり、皆休憩に入る。だが、すでに計30分も激しい運動をしているため多くの新入生たちが険しい顔をしている。俺自身も1本目とは違い体力を一気に削られ、実も最後のプレーの影響で足を痛めたらしく氷を足に当てている。ふと、キャプテンである志村の方を見ると、マネージャーの横川と大柄な男性と話していた。
「恵く~ん。やっぱ、体験練習でずっとゲームはきついのではでは?」
「くぅ~。ぐうの音の出ません。私の完全ミスです」
「どうする?もうここらで止めても良いんじゃない?しょうちゃんもそう思うでしょ?」
「それもアリだけど、2、3年はまだ動いていない人多いしこうするのはどうだい?」
大柄な男はキャプテンに何かを話し、キャプテンもそれに納得したようですぐにこちら側にやってきた。
「みんな、聞いてくれ。最後の1本だけど、流石に疲れたと思うからチームを解体して上級生+新入生で2チームに分けてやろうと思う。そこで、まだゲームに参加して良いよって人手を挙げてくれる?」
そう言われ、まず真っ先に典太が「はい」と元気よく手を挙げそれにつられて6、7人も賛同した。倉田たちの方を見ると、先ほどのゲームのせいかそっぽを向いている。俺は正直手を挙げるか迷っている。さっきのゲームは本気でやった。だがそれは中途半端なことをしたくなかったからで、サッカー部に入りたくてアピールしていた訳では無い。どうすればいいか悩んでいると、
「おい!そこのドリブラー手を挙げなさい、そして俺と戦いなさい!」
と、さっきの大柄な男に名指しで言われた。いきなりだったため、つい反射で手を挙げてしまった。キャプテンは「無理しなくて良いよ」と声をかけてくれたが、挙げてしまった以上恰好がつかないため参加すこととなってしまった。
3本目のゲーム用のチーム編成が行われ、俺の入ったチームにはサイドバックにキャプテンの横川と典太、そして
「いや~ほんと君のこと勧誘しといて良かった。俺って人を見る目ある~」
昨日勧誘していたダンことボランチの下村檀次郎がチームメイトとなった。そして、宣言どうりあの大柄な男は相手チームとなった。ゲームが始まる直前、俺の元に来て話しかけに来た。
「俺副キャプテンの大山翔真ね。よろしく」
「あ、宮城友悟です。よろしくお願いします。」
自己紹介をすると、一瞬驚いた顔をして嬉しそうにポジションへ戻っていった。近くで見るとやはり大きく、身長も180cmをゆうに超えていた。そんな大山はセンターバックで奇しくも左サイドだった。そんな感じでゲームも始まり、序盤は味方チームが支配する。典太から足元にボールを貰い前を向く、相手は先ほどのドリブルを警戒して距離を取って対応をする。まずは引き付けるために少しづつ前に進むが、ここで相手フォワードがプレスバックしてきて挟まれてしまった。その時、相手の間に下村が顔を出しパスを要求してきた。要求どうりパスを出し、サイドに広がり裏を狙う。すると、俺のしたいことを瞬時に理解しディフェンスの裏に鋭いパスを出し、それに反応し見事に2枚抜くことができた。この一瞬の出来事で見た目で少し見くびっていたが、パス精度とサッカーIQの高さを垣間見ることが出来た。前を見ると中央とサイドとのスペースを確認出来たため切り込みに入る。サイドバックが対応が遅れたため後は大山だけを抜けば一気にチャンスとなる。減速し、外に行くと見せかけて内に切り返し一気に追い抜く、、、はずがすぐに反応され体を入れられてしまった。こちらは見た目どうり、いくら体を押してもビクともせずまるで岩のようだった。もたついている隙にキーパーへバックパスをされ攻撃は失敗に終わった。
「いいドリブルだね。でも、それじゃあ僕には通用しないかな」
大山はヘラヘラしながらこちらを見て言ってきた。簡単に取られてしまい、悔しかったがあの体幹に俺のドリブルに所見で対応していた感じ、ただものじゃないことが分かる。相手はその後カウンターで逆サイドから展開していく。だが、これを志村が丁寧にカットし攻撃を断ち切った。その後も右サイドから果敢に攻めに行くが、ことごとく大山に止められてしまう。
「へいへいどうした、さっさと抜かしちゃってよ」
「無理いうな、あの人相当上手いぞ」
「そりゃ、あの人前橋第一でレギュラーだったからね」
典太と話し合っているところに下村が入ってきた。前橋第一とは毎年のようにプロ選手を輩出し、全国大会でも輝かしい功績を持つ全国屈指の強豪校だ。
「えぇ、前一のレギュラーすか!どえらい人がいるものだ」
「あの人いるといないのとじゃ安定感がまるで違うからね。新入生にはちときつすぎるな」
やはり、あの人に今の自分は勝てない。どうしたら良いものか、、、
「じゃあ、諦めるか」
「えぇ!何言ってんの」
「違う、試合に勝てないことじゃない。お前まだガンダッシュできるか?」
「まあ、一度くらいは」
「下村さん、志村さんに伝えてください。絶対に点決めます」
スコアレスドローのまま終盤、相手のパスを志村がインターセプトし、こちらのカウンターが始まる。下村は通常よりも高い位置に移動しパスを貰う。時間を使って、こちらが上がりきるタイミングを見計らう。そして、逆サイドへロングフィードのパスを出す。その先には準備していた俺とそれに反応した大山がいる。
「逆サイドからの奇襲ってか?バレバレなんだよ」
「そのパスは俺の奴じゃないぜ、前一さんよ」
そこへ最終ラインから一気にダッシュしてきた典太がやってくる。
「チクショウ、要求がキツすぎんだよクソが!」
ギリギリでトラップして状況は2対1となる。急いで対応しようとした大山の隙を見逃さず俺は斜めに走り出して、見事裏を取ることが出来た。後はシュートするだけ、、、そして足を踏み込んだときビキビキと体に電流が走った感覚に襲われた。この久しい感覚に耐えることが出来ず、その場で倒れたしまった。
「おい!大丈夫か!!!」
敵味方が試合を中断し、集まってくる。
「すみません。足攣りました。」
すると、その場で笑いが起きとても恥ずかしかった。やはり、限界などとうに超えていたためそのツケが今になってきたのである。内心では[アレ]でなくて良かったと思っていると、典太が肩を貸してくれた。
「俺のランを無駄にしやがって、貸し一な」
そのままゲームは終わり0対0のドローとなった。その後実も合流し体を休めていると、大山がにやにやしながらこちらにやってきた。
「最後惜しかったね~。攣ってなきゃ多分ゴールよ」
「もう、言わなくて良いですよ」
「それより、この後新歓あるけど来るでしょ。特に君とはじっくり話がしたいのよ、レッドパンサー君」
典太と実は何を言っているのか理解していなかったが、俺は一瞬で理解した。
「それって、どういうことですか?」
「だってこいつ、元U-17日本代表候補の超有名選手でしょ。こんなん部の一大イベント間違いなしじゃん」
やはり、サッカーに関わることになるとどうしても[過去]に触れることなってしまう。
専門用語が多くなってしまい申し訳ありません
急いで書いたため誤字あると思います。見つけ次第修正します。