半端者の戦い
軽く休憩を取り、2本目のゲームが始まった。ゲームは案の定、頭から倉田を中心にゲームを支配している。パスを細かくつなぎ1人2人とかわされ、取り巻きがサイドからクロスを上げる。その先にはもちろん倉田がいる。ダイレクトで合わせようとシュートモーションに入ったところをマークについていたディフェンスがブロックに入る。それを見てすかさず体を上手く使い反転してシュート、キーパーは動けず開始早々失点してしまった。
「はい、本日四本目w~」
「ウェーイ!」
先ほどと同じように人目に憚らず騒ぎ、味方キーパーが入ったボールを取るとすかさず奪い取り持って行ってしまった。これによって、チームの雰囲気はさらに重くなり諦めムードになってしまった。試合再開後、俺は倉田のマークに入ることになった。すると、
「いや~、ほんとそっちにはヘタクソばっかやね。」
倉田が話しかけてきた。
「特にあのフォワードの子、ただでさえ小さいくせになんもできないじゃんw君はこのチームの中じゃまだましのようだけどね」
「何が言いたいんだよ。」
「へたっぴが中途半端に頑張ってんじゃねーよってこと。」
そういうと、俺のマークを剥がし「こっち出せ」といってどっかに行ってしまった。俺も中途半端なやつは嫌いだ。だが、さすがストレートに言いすぎているためこっちもムカついた。だって、、、あれ、何言ってんだ俺。高校の時の怪我でサッカー諦めて、この大学来たのにサッカー部の練習来て、試合にも出て、めっちゃ中途半端じゃん。そのくせ、他人のプレーに口出しして、自分は適当にプレーして勝手にイラついて。今の俺は実と同じ、いやそれ以上にダサい人間だ。きっと、だからずっとモヤモヤしてたんだ。サッカーに誘われた時もキャプテンに言われた時も、否定したのに今ここにいるのは
まだサッカーを諦めたくないから?
分からない、でも確かに言えることは、、、
(中途半端のままで終われるかよ!!!)
先ほど言われた通りボールが倉田の足元に入る、ドリブルを始めようとした瞬間その進路に俺は割って入った。倉田は少し驚き止まって小声で言った。
「な、なんだよ。こえーな」
「お前、敗北が知りたいんだろ?だったら教えてやるよ」
状況は1対1、周りのサポートも無いためガチンコ勝負の場面。俺の言葉にイラついたのか軽く舌打ちをしドリブルを始める。おそらくフィジカルで勝てると思ったのだろう、強行突破してきた。流石に真正面で当たると勝ち目がないので、近づいてきた瞬間体を横にずらしボールをチョンと触る。するとボールは倉田の股を通り、倉田はボールを追い越してしまった。そこをすかさず奪い取り攻守交代。
「おい!!!誰でもいいから奪い返せ!!!」
倉田の言葉を聞き、取り巻き二人がカバーに入る。そこでサイドラインぎりぎりまで運び、勝負を仕掛ける。俺のドリブルの特徴を緩急のある所、そこから一気にスピードを上げ相手のテリトリーに入る。相手も無理に飛び出してこず俺と並走してくる。そこで減速からのスピードアップ、これで一枚完全に抜き去った。
「調子に乗んな!」
そう言って、もう一枚が正面からスライディングをしてきた。それを冷静に内側に切り返し抜いた。ここからさらに相手は枚数をかけて止めに入ろうとしてきた。緩急を付けつつ細かいタッチをする、相手から見ればボールが足にくっつているよう見えるため、直前にならないとボールがどこに行くのか分からない。また、1人2人、3人と抜きキーパーとの1対1。キーパーは勢いよく飛び出してきて、ボールを取ろうとしてきた。ここで振りかぶりすぎず、ほぼノーモーションでのループシュート。ボールは綺麗に相手の頭上を越え、そのあとはボールのポーンポーンとはねる音だけが聞こえゴールに吸い込まれてしまった。あまりに一瞬の出来事だったため、しばらくの間シーンとした空気がグラウンドを包んだ。だがそれはすぐに歓声へと変わり、チームメイトが俺のところへ駈け込んできた。
「お前ヤバすぎだろ!!!」
「五人抜いてループとかエロすぎ!」
サッカーをやめて1年半、久しぶりだったのでここまで上手くいくとは思っていなかった。だが心の中にあったモヤが無くなったような気がして清々しい気分だった。
「調子になんなよおめえ!たまたま上手くいったところで生意気なんだよ!」
倉田のさっきまであった余裕そうな態度から一転して、こちらを睨みながら取り巻きの方へ行ってしまった。そこで、自陣に戻る途中で実と典太を呼んだ。
「どうした、ヒーロー」
「少し作戦がある。今から言うことをするば多分逆転できる」
「まじか!でもお前のドリブルだけでよくね?」
「いや、それはもう無理。多分相手は削ってでも俺を止めに来る」
納得した典太を確認し、今度は実の方を見る。
「だから、今度はお前の番だ」
2本目のゲームが始まっても、僕は友悟に言われた言葉がずっと響いていた。
「おまえもっとできるだろ」「その本気でプレーしない感じの奴は嫌いだよ」
友悟の言う通り僕はもっと出来るかもしれない、でもそれは根性とか積極性とかそんなもんだと思う。僕は本当に取り柄がないんだ。自分から誘っておいておかしいけど、高校時代もあまり活躍出来なかったんだ。同い年に僕よりもなんでもこなせるパーフェクトなやつがいたから、試合に全く出れなかったんだ。しまいには「秘密兵器」なんて囃されて、あまり良い思い出は無い。でも、大学なら楽しくサッカーが出来ると思ったから今ここにいる。今は楽しくサッカーができてる。でも、友悟君はまるで別の所を見ているようだった。さっきのプレーだってそうだ。5人抜いてループシュートなんて僕には到底できない。あぁ、こうやって僕はまた大学でも試合に出れないのかな。そう思っていると、友悟君が僕を呼んで「お前の番だ」って。
「ごめん。その作戦とてもいいと思う。でも、僕頼みすぎてできないと思うな」
「あ?大丈夫だよ。だってお前-------」
友悟がゴールを決めたため、ゲームは1対1の同点。再開後は友悟一人に対しマークが二枚付き、なかなかボールが貰えず苦しむ状況になる。だが、それは相手も同様で二枚マークに付かせに行ってしまったため、効果的なプレッシャーをかけることができず試合は平行線を辿っていた。残り時間もほんの僅か、その時右サイドで高めに張っていた典太の所にボールが渡る。典太は先ほど友悟に言われたことを心の中で反復しながら、作戦を実行する。
「いいか、合図はボールが典太の所に行ったらだ。高い位置でボールを貰ってドリブルスタートだ。」
「いやいや、俺お前ほどドリブル上手くないよ」
「俺にマークが集中してるんだ。多少の余裕はあるだろ。そんで、ある程度まで来たら流石に相手もお前の方にプレッシャーかけに来るだろ。そしたら、俺にパスだ。」
「いや、それでもまたお前一人の独壇場とはならんだろ」
「ああ、だから---」
典太はドリブルを始め、敵が食らいつくのを待つ。
(ドリブル、ドリブル、ドリブル)
相手一枚が痺れを切らして寄ってきた。
(ドリブル、ドリブル、からの~パス!)
ギリギリまで食いついてきた敵を嘲笑うかのように友悟へパス。見事に成功し、ボールは敵を背負っている友悟の元へ
(こいつは今度何をしてくる?右か左か、それとも---)
相手が様々な事を考えているとき、ついにボールは友悟の足元へ。だが、そのボールはトラップではなくラボーナ!その先には走りこんでいた典太の元へ。相手は見事に引っ掛かり、典太は再びフリーでボールを貰うことが出来た。
「じゃ、あとは頼みますよ!」
そして、ラストは実へのクロス、、、のはずが蹴った瞬間、猛スピードで飛び込んできたディフェンダーの足に当たりボールの軌道がが大きく変わってしまった。そのディフェンダーは倉田だった。
「もうこれ以上お前らの好きにはさせねえよ!」
「お前まじでダルすぎ!」
ボールは相手の最終ラインとキーパーの絶妙な位置に落ちたが、そこには誰もいない。相手センターバックは安心して減速しキーパーに任せようとした。そのとき、倉田が何か叫んでいた。上手く聞き取れず耳を澄ませると、
「ばか!後ろ!走ってる!!!」
そう言われて再びボールの方を見ると、さっきまで誰もいなかったはずなのに気が付くと実がボールに追いつこうとしていた。
「あ?大丈夫だよ。だってお前裏抜け得意だろ?」
(友悟君は本当にすごいな。僕自身ですら知らなかった武器に気付けるなんて。だから、このチャンスは絶対に決めなくちゃ!)
キーパーとの1対1。キーパーは勢いよく飛び出してきて、ボールを取ろうとしてきた。それでも、少しでもボールを触ろうと減速せずクロスに合わせた。だが、その後勢い余ってキーパー足に引っ掛かり実は思いっきり吹っ飛んだ。あまりの衝撃にしばらく立ち上がることが出来ず、友悟たちが来るまでシュートが入ったのか分からなかった。
「おい実大丈夫か?一人で立つこと、、、」
「ボールは!入ったの!!!」
典太の肩を借り、実は今出せる限りの声を出してボールの行方を捜した。ボールはゴールラインをギリギリ割っていた。
「入ったよ。お前のゴールだ。」
後ろを振り向くと友悟が満面の笑みで笑っていた。
「あはは、こんなゴールじゃ体がもたないよ」
そうして、三人で笑い喜び合った。その後、ゲームの終わりを告げる笛が甲高く鳴り響いた。