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アディショナル  作者: 新潟コープ
赤城大学サッカー部
4/11

体験練習

 次の日の朝、いつもより少し早く起き体験練習に行く準備を始める。あの後、他のサークルを見て回ろうと思っていたのにあの志村とかいう男の言葉が目が、ずっと心の中でつっかかえてしまい行く気になんてならなかった。そして昨日の夜考えに考えた結果、実際に練習をしている風景を見てあの言葉がどこまで本気なのかを確かめてみることにした。そうすればきっと、今度こそ諦めきれると思ったから。

 昨日貰った紙によると、練習場は大学から一番近い運動競技場にある。とはいえ、大学から歩いて20分程度かかるため実の車で向かうこととなった。現地に着くと、すでに多くの人がグラウンドにいてその中にはキャプテンの志村やマネージャーの横川などもいた。俺たちは体験入学者用の荷物置き場と書かれた所に荷物を置き、なんとなく固まっている新入生の集団の方に行った。よく見ると、3,40人もいておそらく昨日の勧誘は成功しているのでと思う。すると、1人の男が近づいてきて、


「君たちも1年生かい?僕は倉田春輝だ。よろしく」


と、話しかけてきた。どうやらこの男が集団の中心人物のようで、入学式は昨日だったというのにすでに取り巻きが4,5人もいる。髪は金髪で雰囲気はネットでよく見るイキり大学生のそれだ。それからは、サッカーをやっていたかどこでやっていたかを聞き答えると、満面の笑みを示して饒舌にしゃべり始めた。


「僕は群馬の中では4本の指に入る磐田高校でやっててね。冬の選手権予選ではメンバー入りをしていたのさ。だから、プレーのレベルが違うかもしれないけど落ち込まないでね」


そう言うと満足したのか、取り巻きと一緒にまた別の新入生の所に行ってしまった。


「磐田高校ってそんなに強いの?」


「まあ、確かに強い方だよ。実際選手権ではベスト4だし。ただ、4本の指に入る程の実力校とはっきり言えるかだとどうかな」


嵐が去ったかのように二人ともポカンとしてしていたが、ここで実が咳払いをして


「っていうか、友悟君もサッカーやってたんだね。早く言ってくれれば良かったのに」


と話を振ってきた。実にはサッカーをやっていたことを言い忘れていたので、というか言う予定なかったので内心ドキッとしてしまった。高校時代もクラブチームでしていたが、目を付けられるのが嫌だったので実家の近くにあった適当な高校名を言ってしまった。


「あはは、言い忘れてたわ。それから、友悟でいいよ」


そう言ってその場を凌いでいると集合の合図が出たので全員キャプテンの所に集まった。


「えー、まずは新入生のみんな今日は来てくれてありがとう。体もなまっているかと思うのでくれぐれも気を付けて体を動かしてください。じゃ監督お願いします。」


そういうと、キャプテンの隣にいた男が一歩前に出てきて話し始めてきた。


「はい、監督の小森純といいます。もともと中学クラブのコーチをしていたんですが志村君に頼まれてサークルの時から指導とかしています。えー、まあこれはセレクションとかそういうのじゃないので気楽にやってもらって、そして気に入ってくれたらぜひ入部してくれれば嬉しいです」


そうして、諸注意等を聞いた後各々アップを完了させ30分後に試合をすると言われた。いきなり試合はきつすぎるのではとも思ったが、未経験者もちらほらいるようなので楽しませるのが目的だろう。

 チームは4つに分け、足りない所は大学生が混じる。15分ゲーム4回の総当たり戦らしい。発表されボードを見ると同じチームに実もいた。


「同じチームで良かったよ。希望のポジションどこ?僕はフォワードだけど」


「うーん。サイドとかウィングかな」


「おっと、てことは僕とコンビかい?」


二人の会話に割って入るように一人こっちに来た。


「俺天笠典太っす。よろしくね」


初対面とは思えないほどフランクで服装や髪形が先ほどのイキり奴のようだが、どこか話しやすいオーラを纏っていた。


「俺は友悟でこいつは実、右サイドなら確かにコンビだな」


「俺も高校の時は右サイドバックだったわ、お願いしやす」


そうして、1本目のゲームが始まった。正直ゲームに関しては足を引っ張らない程度に適当にやり過ごそうと思っていたが、ブランクがありすがるせいか足が鉛のようだった。これでは、本気でやっても全盛期の半分程度しか動けないなと思いつつ頑張ってチームのために動いた。結果は0対2の負けで味方のパスミスや連携不足が顕著だった。やはりみんな久しぶり体を動かしているようで全体的に鈍く、特に未経験者の動きは一目瞭然だった。しかし、隣のコートからはどよめきが起こっていた。それは、先ほどのイキり大学生倉田がハットトリックを達成したからだ。どうやら、取り巻きたちが倉田のサポートに徹していたらしくその結果が実った。


「さすがだ倉田、この調子で頼むよ」


「いや~。敗北を知りたいw」


幸せの絶頂にいるかの如く、倉田は満面の笑みで休憩しに行った。先輩方も「あいつは使えそうだな」とか「将来のエース候補」だと注目し始めた。


「やばいよ。次倉田君達の試合だよ」


「取り巻きのおかげとはいえ、あの決定力とフィジカルじゃなかなかきびーな」


実や典太が嫌がっていたが、別に俺は関係ないのでそれについては何も言わなかった。それよりも俺は実にむかって、


「んなことより、なんでフォワードの選手がそんな遠慮したプレーしてるんだよ。おまえもっとできるだろ。」


「え、でも僕は倉田君のよう体が大きくないし上手くいかないよ」


「だとしても、もっと上手くできるだろ。俺お前のこと良い奴だと思ってるけど、その本気でプレーしない感じの奴は嫌いだよ」


そう言うと実は面を食らってしまったが、すぐに典太が「まあまあ」と仲裁に入ったので事なきを得た。実には申し訳ないと思っているが、昔から物事を0か100にしか判断しない俺にとってさっきの実のプレーは癪に触ってしまった。その反面、こんなことで熱くなってしまった自分が恥ずかしくなってしまった。サッカーをやめるきっかけを作りたくてここまで来たのに、他人プレーにケチをつけ自分が何をやっているのか分からなくなってしまった。

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