サークルと部活
入学式終了後、実と一緒に体育館を出るとそこには多くのサークル・団体が勧誘やビラ配りに勤しんでいた。よく見ると、二つのエリアがあり一つは[部活動]のエリアそしてもう一方が[サークル・その他]と書いてある。二人はまずサッカー同好会のある[サークル・その他]の方へ足を運んだ。あちこちから聞こえる勧誘の声やそれに足を止める新入生になかなか前に進まない。さっきも奇抜な恰好をした先輩らしき人にアウトドアサークルに誘われた。正直おもしろそうなサークルはいくつかあり、実のくだりが終わったらいくつかふらっと行ってみようかなとも思った。そして、肝心のサッカー同好会はというとなかなか見つからず、気が付くと勧誘エリアの最後まで来ていた。
「おかしいな。大学のホームページを見た感じそれなりの規模でやっているから見落とすことなんて無いと思うんだけどな。」
「今日は勧誘してないんじゃね。他のサークル見てみようぜ。」
不思議に思っている実とは裏腹に、そんなことどうとも思っていないので早く実の気を別のものに変えたかった。そこで、
「とりあえず、部活動のエリアでも見に行かね。あっちならまだすいてるし。」
少し渋る顔をしているが、無理やり手を引き今度は[部活動]の方へ強引に向かっていった。
部活動のエリアではサークルほどの人数はいなかったが、それでも多くの人が行きかっていた。だが、特にこれといったものも無く軽く見て終わろうとしたとき、実が足を止めて指をさした。それを見て、二人は対極的な反応をした。そこには(男子サッカー部 選手・マネージャー大募集)の文字が大々的に書かれていた。
「あれ?サッカー部あんじゃん。いつの間に出来てたんだ」
「いや、大学の部活なんてガチすぎるから辞めよーよ。しかも、よりにもよってなんでサッカー部があんの?」
話を聞きに行こうとする実とそれを阻止する俺、お互い水掛け論をしていると、
「なに、サッカー部にきょーみあんの?」
と後ろからポンと二人の肩を触ってきた。振り返ると、そこにはスラっとした体型に金色マッシュでいい塩梅に肌が焼けていていかにもチャラそうな男がいた。
「違います、僕たちは、、、」
「もしかして、サッカー部の人ですか。僕たち興味あります。」
(なんで「たち」をつけるんだよ。)と心でつぶやいているのもつかの間、その男に流されるようにサッカー部のブースに連れていかれた。
「志村さーん、マホっちゃん、本日15、16人目連れてきましたー。」
「ダン、よくやった。ほんと勧誘役はお前とケーゴが適任だよ。」
「これでケーゴにならんだね。よしラストスパート行ってこよう!」
チャラ男は「あざっす」と言って、すぐどっかに言ってしまった。そして、目の前には笑顔でこちらを見つめるいかにも陽キャ女子とメガネをかけどこか貫禄がありつつも「とりあえず座って座って」と優しく対応してくれる男がいた。
「話を聞きに来てくれありがとう。僕はこのサッカー部でキャプテンをしている志村恵といいます。こっちはマネージャーの横川麻帆。そんな固くしなくて良いから気楽に聞いて、、、」
「ぶっちゃけこの部入りたい?まーしょーじき大変な部分はあるけど、結構楽しくて去年とか」
キャプテンの話を遮って、部活動のことについて明るく話し始めたマネージャーに諦めて苦笑いをしつつ、申し訳なさそうにこちらをみるキャプテン。きっと、このチームの雰囲気は良いものだろうと思うが、
「あの僕たちサッカー部に入ろうとしているじゃなくて、サッカーサークルの方にしようとしてるんで」
と無理やり話を中断させた。この際サッカー同好会でも良いから早く退散しようとした。(本気のサッカー?冗談じゃない、もう二度とするものか。)と思いながら自分だけでも帰ろうとしたとき、
「あ、サッカー同好会に行こうと思ってたの?やっぱ向こうにもブース残せるようしとけば良かったな」
とキャプテンがなだめるながら言ってきた。
「え、それってどういうことですか?」
「ホームページとかパンフにサッカー部なんて書いてなかったでしょ。実はこのサッカー部できてまだ1か月ぐらいなのよ。でも、直前すぎて修正効かなくて。だからうちの勧誘役も手こずっちゃててさ。あ、どうも旧[サッカー同好会]で~す」
そんな訳あるかと言いたくなってしまうが、どうやらこのサッカー部が実の探していたサッカー同好会で俺自身もいよいよ逃げられない状況となってしまった。
「まあとりあえず体験練習でも来てみなよ。受験勉強で体なまっているだろうし、動かすいい機会になるよ」
そう言われてA4の紙を渡された。そこには、明日大学近くの運動場で練習をするとのことが書いてあった。渋々受け取り今度こそ帰ろうとしたとき、
「まあ、確かに部活動である以上というかサークルの時からうちはこうみても真剣にサッカーしてるから、ある程度覚悟はしといてよ」
とキャプテンは言った。その目は真剣な眼差しで今の自分ではとても直視できないほどギラついていた。