入学
4月、朝9時。宮城友悟は慣れないスーツに袖を通し入学式に出席する準備をしている。群馬県前橋市にある私立赤城大学は特にこれといった特徴は無く、強いて上げるとすれば出来たばかりでキャンパスが綺麗ぐらいだ。そして、この大学は「サッカー部」が無い。大学自体スポーツに力を入れていない訳ではなさそうで、他の部活の実績も出来たばかりにしては頑張っている方だと思う。一応サッカー同好会というサークルはあるらしいが、どうせただの飲みサーでヤリチンしかいないだろう。俺は支度をすまし余裕を持って大学へと出発した。
式典開始の20分前に大学に着き、周りの人たちは仲間同士でしゃべっていたり退屈そうにスマホを見ているなどしている。この大学には俺の知る限り友達はおろか、知り合いも一人もないな。リセット癖があるわけでは無いが、大学ではあまり自分のことを知っている人がいない所でかつ一人暮らしが出来るところが良かったため、ここは俺にとって都合が良かった。受付を済ませ指定された席に座り、始まるのを待つ。席はそこそこ埋まっており、俺の隣の席にも受付で貰ったパンフレットをじっと見ている奴が座っていた。どこかのサイトで入学式で隣になった奴に話しかけた方が良いみたいなのを見たことがあったので、話しかけた方が良いのか迷っていると、
「は、はじめまして~」
と少し小声で隣の奴が話しかけてきた。よくみると、顔立ちは良く少し日焼けおり外競技をしていたこと
が容易に想像できる。
「はじめまして」
「高坂実っていいます」
「あ、宮城友悟です」
「学籍番号何番でしたか?」
「87番でした」
「自分86です。やっぱ学籍番号順ですよね」
その後もお互い探りながら会話をしていき、徐々に緊張がほぐれていった。良いやつそうで良かったと内心ほっとしていると、
「そーえば、サークルどこに入るか決めてる?」
「いや、まだ何も決めて無いな~」
「俺高校の時サッカーやってたから、サッカー同好会入ろうかなと思ってるんだけど一緒に見学行かない?」
この時、わざとではないが少し間を空けてしまった。ようやくサッカーから離れることが出来たと思ったのに思わぬところからパンチを食らった感じだった。実も地雷を踏んでしまったかと、おろおろしてしまっている。
「もしかして、サッカー苦手?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。他のサークルもおもろそうじゃん。例えばーあ、この魚保護サークルとかさ」
機転を利かせようと実の持っていたパンフレットのサッカー同好会の隣に書いてあったよく分からないサークルを指してしまった。実に言っておいてあれだが、とてもつまらなそうだ。
「うーん。ちょっと僕には合わないかな。別に嫌なら全然いいんだけど」
どうしたものか、このままだとせっかく仲良くなった実といい関係を築けないかもしれない。しかも、学籍番号が近いともなると今後授業などで同じ席になる可能性が極めて高い。まあでもとりあえずここは一度話に乗って、タイミングをみて他のサークルに誘えば良いかと考え
「いや、とりあえず俺も見学ぐらいは行こうかな」
すると、実は目を輝かせて
「まじ!ホントにありがとう!一人で行くの気が引けちゃってさ。きっと楽しいはずだよ」
俺は愛想笑いで返し、その場をやり過ごした。それから、式典が始まり実は真面目そうに前を向いた。俺もそれに倣ってそれっぽく話を聞いた。しかし、高校の頃の苦い思い出が頭を走り内容が一向に入ってこなかった。