我が子の本音
えらいこっちゃ
えらいこっちゃ
わたしのひとり息子が、深夜になって、こんなメモをわたしてきた。
『お父さん。
いまからここに書いてある場所にいってきて、そこにある××の写真を撮ってきてほしい。
ぜんぶで四つあるんだ。
撮り終えたら、きっとボクのお父さんに対する気持ちが分かると思う。
ほかのひとに見つかるとイヤだから、なるべくはやく行ってきてね。
じゃあ、がんばって。
PS こんな夜中にごめんなさい』
午前一時にたたき起こしてきて、「なんのこっちゃ」と思ったが、やせっぽっちな息子の、どろまみれのすがたを見て、仕事のつかれも眠気もグッと腹の底に押しこんだ。
まだ十四才の我が子。
四年まえに妻とわかれてから、ひとりぼっちにさせることが多く、学校でのひどいあつかいにも気づかずに、つらいおもいをさせ、いつのまにかずっと家に閉じこもってしまうようになった……。
朝に事務所へ出かけて、夜に帰ってくるわたしとは、一言もしゃべらない日のほうが多く、たまに子どものほうから話しかけてくることがあるとすれば、「死にたい」とか「だれかをメチャクチャにキズつけたい」とか、ひとりごとみたいにつぶやいて、わたしがあぜんとしているあいだに自分の部屋へ行ってしまう。
わたしは不甲斐ない父親だ。
きっと息子は、わたしのことを恨んでいるだろう。
夜中にメモをよこしてきた息子が、こんなわたしにどんな想いをいだいているのか……。あまり想像をしたくない。自信がないのだ。
だがわたしは、気づけばパジャマからジョギング用のスポーツウェア(一回だけ早朝のジョギングにつかったっきり、そのへんにほっぽっていた)に着替えて、メモにはしり書きされていた場所に行くことにした。
わたしには、息子の「本音」をきく義務があるのだ。それがたとえ、聞くに堪えない「呪詛」であったとしても。
ましてや、あれほど外に出ることをこわがっていた我が子が、おそらくは考え抜いた果てに、あんなどろどろになってまでして、わたしに伝えたい気持ちを、伝えられるかたちで用意してくれたのだから。
さいわいにも――というか、出不精の息子らしく――指定されたのはぜんぶ近場だった。
さいしょの指定は近所のお寺。
ふたつめの指定は近所の児童公園。
みっつめの指定は近所の廃校(去年閉鎖した小学校のグラウンドだ)。
よっつめの指定は近所の河川敷。
(※メモにはちゃんと番地まで住所が記載されていたが、わたしたち父子のプライバシー保護のため、このような表記にさせてもらった)
まっくらななか、わたしは四つのポイントをめぐり、それぞれの場所に一人ずつ地面に放置してあった死体をスマホで撮影した。
『子ども』、『若い女性』、『泥酔してたっぽいサラリーマン』、『息子と同い年くらいの少年』。
写真におさめたそれらを、現場からサッと家に帰って冷静になってながめてみると、なんだか奇抜なポーズをしているのに気づく。
もっとも、わたしだって、ダテに『探偵事務所』をやっているわけではない。
息子のつたえたいことには、すぐに気がついた。
写真のポーズは、ひとつひとつが『アルファベット』を模していた。それを『見つけた順番』にならべかえると……。
『L』
『O』
『V』
『E』
『LOVE(ラブ)』
……。
……。
……。
……。
息子よ……♡
※このものがたりはフィクションです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んでくれたかた、感想を書いてくださったかたがた、ありがとうございました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――