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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜聖女編〜
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1、むかし話


昔、昔のそのまた昔のお話。

世界には人間と魔物が仲良く暮らしていました。

ご飯もお家も半分こ。大変なことも半分こ。でも楽しいことは2倍にして。平和に暮らしていました。

ですがある時、魔物の国に王様が産まれると、その関係は一変してしまいます。

王様はとても力が強い子どもでした。王様はとても傲慢でした。王様は半分こでは満足しません。王様は世界が欲しくなりました。

世界は喧嘩が絶えなくなりました。

お家がお花が燃えました。

たくさんの人が眠りました。

毎日が涙でいっぱいになりました。

神様も悲しくなって泣きました。

その涙からふたりの子どもが産まれました。

男の子は光の剣を持っていました。

女の子は不思議な力を持っていました。

キラキラと輝く光でキズを治し、枯れた木々を実らせ、みんなに力を与えました。


「この力で世界を平和に」


女の子の力で人々は元気になりました。

男の子はそれを見届けると、女の子と一緒に旅に出ました。

悪さをする魔者をえい、やー、とやっつけます。

山を越え谷を越え、そうして欲張りな王様の元に辿り着いた2人は力を合わせて王様を封印しました。

こうして世界は平和になりました。

めでたしめでたし。




「はっ、改変も良いところね」


まだ幼い少女特有の舌ったらずで高い声が、大人びた言葉遣いで毒を吐いた。

バタンッと勢いよく絵本を閉じると、椅子から飛び降りて伸びをする。

柔らかな金糸が日の光を浴びてキラキラと小さな背中を泳ぐ。長いまつ毛に縁取られた晴天の瞳が、呆れたように細まった。溜息。


「歴史は勝者がつくるってあいつは言ってたけど実際に体験すると胸糞悪いわね」

「ウフ」


キッチンの奥から鳴き声。

ぽてぽてと軽い足取りで姿を現したのは、短足が愛らしい茶色の毛並みの犬だ。犬種はコーギーに見えるが正確には分からない。


「マドラ」

「ウッフ」


名前を呼ぶと目が合う。伺うような様子に、エマは笑った。どうやら己の憤りを賢い愛犬は感じ取ったらしい。両手を広げてもう一度名前を呼ぶと、脹脛に顔を擦り付けてきた。


「お前に怒ったんじゃないわ」

「ンァァア?」

「ただ気持ち悪かっただけ」


金で雇われただけの女を聖女に祭り上げて、絵本にまでしちゃう連中がさ。

小さな友に目線を合わせて膝を折ると、待っていましたとばかりに膝に前足を置いた。黒い双瞳が真っ直ぐに己を見ていた。なにも分かって居なさそうな能天気な顔が可愛らしくて、耳の下をやわやわと掻いた。


「お前は顔で得をしそうね」

「ンンンァア」

「気分を害したお詫びにお金くれないかしら。当然の権利として肖像権、著作権.....なんでもいいけど、印税は取り立ててやりたいわ」


柔らかい手付きとは裏腹な言葉が部屋に溶けていく。いつの時代も必要なのは1に自由、2に自由、3と4はお金だ。自由は手に入れた。だから次に求めるべきは当然ーーー


「埋蔵金でも探そっか」


ーー金だ。

少女はけらりと笑った。

彼女は聖女だ。今世も間違いなく聖女だが、名乗り出るつもりは無い。国は金払いが悪く、無償奉仕させられるのは目に見えている。だからエマは硬く口をつぐむことにした。世界平和は傾いているが、知れたこと。

金の切れ目が縁の切れ目。

聖女ーーエマは、お役目など知ったこっちゃないと愛犬と共に我が家を後にした。


「大丈夫、大丈夫、簡単に滅ばないって」


1人ぐらいサボったところで変わらんって。





続きは明日になります!

読んでくださりありがとうございました!

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