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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜聖女編〜
116/117

12、ダイトッショカン国



「よう豚共。元気してた?」


『イエェェェェェイ!』



ポークスクリーム。

会場中に野太い歓声が響いた。



「あー、はいはい。元気元気。よく理解したわ。金も元気も有り余ってんのね。そんなお前らに朗報。今日の目玉はまじで凄いから、金塊崩す準備しとけよ?」


『イエス、マイマァム!』



パチリとウインクをひとつ。星がキラリと落ちて、歓声を背にアリスが舞台端に立った。VIP席からほど近い場所だ。エマはウエイターの手を取ると、顔が見えるように手を振らせる。



「ご主人様の有志をちゃんと目に焼き付けておくのよ。()()()はもう見られないんだから」


「なんだ、やはり頭を吹き飛ばすのか」


「!?」


「お前の頭を吹き飛ばしてやろうかしら.....」



今世最後の光景を目に焼き付けるといい。

ウエイターの肩を叩いて告げる。彼は灰色の瞳を揺らしたが、やがて決心したようにアリスへとその視線を向けた。

さようなら、ばいばい。

次に会うときは初めましてだから。

立ちあがろうとしてへたり込む。酷い脂汗だ。酸素不足か、身体に力が入っていない。

訝しげな顔をするアリスにSOSを送る気力すらなく、彼の右腕はゆらゆらと揺れる。



「エントリーナンバー1番。

デブリン出身、タワワ様!」


「はい!自分、ヘソで茶が沸かせます!」


「あははははは!」



会場の歓声は華やかだ。

横目で見れば舞台袖から姿を現したのは白髪の乙女。長髪を頭の横で結い上げた活発そうな彼女は、キメ顔で会場を湧かせる。

田舎出身で野生動物の解体出来ます。他の家事も得意です。小柄だけど力あります。あと可愛いです。

ぺったんこな胸を張って堂々と聖女は自己PRを続ける。アピールが終われば、会場中から拍手が送られ高揚した顔の彼女は恭しく頭を下げた。



「タワワ様、ありがとうございました。ヘソで茶が沸かせるのは素晴らしいアピールポイントでしたね。さて、それでは皆様、札の準備はよろしいでしょうか......はい、準備万端ですね。それでは落札開始です!」


「100!」


「150!」


「俺は200だ!」



次々と札が上がり希望の額を提示していく。

聖女の瞳に絶望の色は無い。

むしろ満足そうに会場中を眺めては、腕を組んで頷く始末。その様子は、買われることを待ち望んでいるかのようで、エマは目を見開く。

長いこと生きているが、こんなに明るい闇オークションは初めてだ。客と商品。品定めするような気味の悪い視線が交差するのが常だった。

壊れているのか、それとも。



「それではタワワ様、()()()()


「そうね.......…()()()()。あなた!」



タワワが恰幅のある男を指差さす。最前列の彼が見事タワワの心を射止めたらしい。

彼は元気に立ち上がって、涙まで流して、聖女の手を取ると両手をあげた。拍手喝采。会場中がふたりを祝福している。

エマは開いた口が塞がらない。

あいつ5番目の金額提示してた奴じゃない。

金額て落札ではない。()()()()()()()()()()

それではオークションでなくてーー



「オーディションだ」



ーーー言葉に出ていたらしい。

間違えるなと言わんばかりに、ウエイターがエマを睨め付けていた。額に脂汗をかき、喉を抑え、辿々しい言葉でエマを責める。



「オークションなどと言う下品で下劣な催しではない。これは神聖な儀式だ」


「殺されかけてるのに元気だね」


「うるさい、なにを言おうが俺の勝手だろう」


「ははっ、開き直って!」


「後が無いんだ、別にいいだろ」


「..........それで、儀式って何かな」


「とぼけるのはよせ、情報屋。お前なら知っているはずだ。聖誕祭ーーミァンユーカリの全容を」


「なんのことかな」


「奴隷嫌いで有名なお前が、主人を選ぶ祭典を知らないはずがないだろう」


「......美しくないなぁ。芸がないよ、ケイ」



両手を上げて首を振る。やれやれと言わんばかりの動作で、ルーシーは心底つまらなそうにウエイター、ケイと呼ばれる男を見下ろす。



「あー、つまらない。そこはお前が説明するところなのに、まったく分かってない」



醍醐味ってあるだろう。

彼女はそう呟いて、勢いよく椅子に腰掛け腕を組む。ついには足まで投げ出した。



「ねぇ、エマァ。飽きたぁー!」


「また?」


「段取りを崩されて心底ガッカリだよ。飽きた、つまらない、序盤は説明回がなくちゃいけないのにぃ!」



止めるー!と一言。

それっきり、頬を膨らませて黙り込んでしまう。また悪癖が出たな。いつものことだと、エマは彼女の頭を一撫でしてケイに向き直る。



「それで、主人を選ぶって?」


「誰がお前などに」


生殺与奪の権利(おまえのいのち)は誰が握ってるんだっけ?」


「ーーっ」


「ああ、それとも、もう見納めで(ころして)いいのかしら」


「あ、」


「わたしの興味を惹いておくのが賢明だと、そう思わない?」


「........っ、ミァンユーカリは、」



進行役を放棄したルーシーに代わり、エマがケイの話を促す。乗り気ではない彼をその気にさせて、ミァンユーカリの説明を求める。

ケイは語る。

ミァンユーカリは再生の日だと。

国に死を決定付けられた聖女たちが、新しく生を受ける誕生日なのだと。



「聖女は貴重な存在だ。彼女たちがいるから、俺たちは普通を維持できている。浄化も結界も魔物の討伐も、聖女でなければ成し得ない」 



だが、国は彼女たちを軽んじる。いつ死んでも代わりはいるとばかりに使い捨てる。その思想を、その蛮行を、アリス様は許さなかった。



「聖女を殺す。それは世界を殺す行為だ。アリス様は早々に見抜き、土台として腐敗したこの国で革命を起こした」



それが始まり。

アリスは選択肢を奪われた聖女に選ぶ権利を与えた。当然不満は出る。だから聖女の価値を刷り込んだ。この国で4番目に地位が高い男に、聖女を与えた。ボロ雑巾のような聖女。彼女を育てて国民に見せ続けた。

見違えるように元気に美しく咲いていく彼女を見て、国民は「聖女の育成」が金持ちのステータスと思うようになっていく。なった。そうなるように、仕向けた。



「人間の価値観は変わらない。聖女が星の浄化装置だと説明しても、今しか見られない彼らは鼻で笑う。だから、だからアリス様は人間(サル)でも分かるように、金持ちのステータスと唄うことにした。元気で自由に生き生きとする聖女を持つことが、流行りなのだと」



それが今だと。聖女に選ばれることが己の価値を高めるのだと、人間を洗脳し続けた結果だとケイは話した。



「元気に自由に、」



下を見れば次の聖女がすでに芸を披露していた。

ミラーボールの下で大きな扇子片手に踊る彼女は、花盛りの乙女そのもの。真っ白な顔で身体を引き摺る老婆のような聖女たちは、ここにはいない。自然と笑みが溢れる。



「なるほどルーシーが気にいるわけだ」 



ルーシーがそっぽをむいた。

ムッとしているが、耳がぴくぴくと動いている。耳をダンボにしていたに違いない。

聖女が選ばれるのではなく、聖女が選ぶ。

アリスが唄った自由だ。

自主性を持つことで彼女たちは人間として少女として本来の輝きを取り戻す。国に身分を保障されながらも、その価値は奴隷と同義。独裁国家とし王都を拒絶することで、価値観から脱却し、守る城を作ったわけだ。なるほど我々の教えは忘れなかったようだ。育ての親としては誇らしい。

ケイも誇らしげに胸を張る。

死の間際であっても、己が主人の功績が広まることを誇らしげに思えるのだから忠義心は本物だろう。アリスを語るグレーの瞳はキラキラと瞬いていた。彼の信仰具合が伺い知れる。

尊敬、崇拝、洗脳。

どれも同じでどれも違う。彼のこれはどれだろう。

まぁ、どれだとしても反抗は許されない。

ふたりで教えた教訓てあったとしても。



「アリスちゃんが立派になってて嬉しいわ。教えたこと守ってるみたいだし、」


「不敬だ。だがアリス様の威光を理解したなら、良しとする」


「うーん、だからって部下の育成失敗は見逃してもいいものか悩んじゃう。だってーー」


「ならば、御身の威光に目を焼かれろ」



ーーーこんな物投げちゃうんだもの。

ケイが動く。

いつの間に手にしたのか。へたり込んだ姿勢からエマに向けて、何かを投げた。小さな玉、灰色のそれ。おそらく閃光弾。ケイの手を離れた閃光弾は、重力に従い落ちていく。

同時。

シオンが手を振り下ろす。手刀がケイの腕を捉え、ボキッと鈍い音をたてた。

痛みを知覚する前に、衝撃で見開いた瞳が地面に落ちる玉を見てほくそ笑むのが見えた。

が、甘い。

そこはわたしの間合いだ。

手に魔力を込める。灰色の玉を風魔法で掬おうとしたーー



「うっ!」


「え?」



ーーーした先にテオがいた。

勝ち誇った顔で灰色の玉を高々と上げて。



「......わぁ、テオちゃんナイスゥ」


「う!う!」



勝ち取った獲物を手に褒めて褒めてとくる。

唖然とするケイ。笑いを堪えるシオン。

獣人の身体能力だと取れるんだな。

よしよしと頭を撫でる。



「テオは良い子ね。アリスも。本当に良く学んだわ。ええ、本当に」



生き汚さとか、諦めない根性とか。口が酸っぱくなるまで教えたけど、それを親に向けろとは教えていない。だが部下であるケイはエマに牙を向いた。殺そうとした。つまりは。



「生き汚い子って好きよ。大好き、でもね悪い子にはお仕置きしなくちゃ」


「ぃぎっ......ふー、ふー、」


「部下のミスは上司の責任だものね」


「はぁ、はぁ.....じょう、し?なに、やめ」



痛みが追い付いてきたのか、腕を押さえ意識を朦朧とさせるケイに、エマは優しく語りかける。

大丈夫あなたのせいじゃないと。あなたを唆した上司のせいだと。だから、この咎を背負うのはお前ではないと。アリスの方を向いて詠唱を始める。



「我は星なり」


「まて、何をするつもりだ」


「我は星の力を行使する者」


「ーーっ!よせ、止めろ!向けるなら俺だろ!」


「触れるな」


「アガッ!」



ふわりと光が舞い上がる。

大気中に存在していた精霊が可視化され、光の粒となってエマの周りで舞い踊る。蛍の光のように幻想的なそれは、エマの声に呼応するように小さな手のひらに集まる。集まり凝縮され、やがて一本の矢となる。



「なぜ、なぜお前がそれを!()()()()()!」



破魔の弓。

魔族を殺すことに特化した聖女の魔法。古の大戦より伝わる処刑の弓が、己が主人へと向けられ悲鳴を上げる。

魔族である彼女が破魔の弓を受ければ死ぬ。

ケイは必死に手を伸ばす。だがエマに触れる前にシオンに阻まれ、地へと顔面を沈める。



「星の力を持って悪き力を振り払わん」


「よせ、よせよせよせ!止めろ、俺はどうなってもいいから!彼女だけは、彼女だけは」


「ーー破魔の」


「やめろぉおおおおおおおお!」


「おい、いい加減にしろよ」



ゆみ。

声は無かった。唇だけが動いて、変わりに空気を揺らしたのは真紅のドレス。意志の強そうな灰色の瞳が、エマを睨みつけていた。



「こんにちは、アリスちゃん」



光が霧散して大気に溶ける。

その向こう、絶望に濡れた瞳が見たのは、己が守ろうとした主人の姿だった。










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