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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜聖女編〜
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6、ダイトッショカン国6



情報屋から聖女喰いについての情報を得たアルトは、足早に宿へと戻った。道中ルークが食べやすいようにと、りんごを購入。眠っていることも鑑みて気配を消して宿に戻ると、部屋からボソボソと話し声が聞こえる。

ルークとパドレイク....ではない。片方はパドレイクのものだが、もう一方は中年の男性の声だ。

来客か。

扉の隙間から覗くが、パドレイク以外に人影はない。

彼は僧侶ではないので、ゴーストの類も考えづらい。

となれば、通信か。



耳が良くなる呪文(グィー・グロー)


目が良くなる魔法(ソーラス・クーム)



アルトは耳をそばだてると息を殺す。



「はい、行方は掴めていますが、安否は未だ.....ええ、そちらは抜かりなく」



ボソボソとした声がはっきりと耳に届く。薄暗い室内は明かりを灯したように鮮明になり、パドレイクの姿をしっかりと認識できるようになる。



「問題ございません。はい、はい。」



畏まった様子で頭を下げている先、手元が視界に映し出される。あれは水晶だ。通信用の水晶にパドレイクは話しかけているようだ。

通信相手は誰だろう。

城の連中だろうか。定期報告をしているとは聞いていたが、それにしては様子が異なる。あいつは上司相手にも多少の軽薄さを滲ませるはずだが、それが一切見えない。ということは。

アルトはゆっくりと目を細める。



「必ず連れ戻します。リストの作成はこちらで.....はい、はい。それでは」


「どちらさんで?」


「ーーっ!?」



通信の切れたタイミングを狙って扉を開ける。勢いよく振り返ったパドレイクに、アルトは確信した。

通信相手は王族だ。


 

「......アルトか、どこから聞いて?」


「聞かれたらまずい話でも?」


「質問に質問で答えるなよ。たくっ、国だよ。民間には漏らせない機密情報もあるんだ」


「さいですか」


「お前の口が軽いとは思っていないが、それでも一応はな」



ノックするなり、声をかけるなりしてくれと注意するパドレイク。弟を叱るような口振だが、手早く水晶を懐にしまうのをアルトは見逃さなかった。

見られると都合が悪いのだ。王族の使う水晶は、巷で出回っている粗悪品とは違うのだから。



「報告していたのは、サラ様のことだ。定期的に報告する義務があってな」


「いま報告して大丈夫なんすか?」


「大丈夫じゃあない.....俺のキャリア的には1ミリも大丈夫じゃあないが、定期連絡は向こうから来るんでね」


「なるほど、」


「出世は厳しいかもな」


「ちなみに出世すると次はなにに?」


「田舎の地方勤務だな」


「最悪っすね」



軽薄さの滲む物言い。どちらかと言えばアルトの思想に近いそれ。サラならそれで騙せただろうが、アルト相手にそうはいかない。

お生憎様、そんな柔らかい世界で生きちゃあいないんでね。

緊張で微かに震える唇。警戒して常より開いた瞳孔。半歩下がった右足。

その全てが、パドレイクにとって先ほどの会話が知られたくないものだったことを物語っている。

 


「まぁ、ご本人が売られちゃあ出世云々の前に俺の首が飛ぶんでね。万が一のために数人手配して貰った」


「いつ頃になります?」


「4日後だな」


「そりゃあ、また」



使えない。

いや、あえてだろうか。

聖女の管理権限は国が持っている。おそらくこの奴隷市場も、王都が関与している事は間違いないだろう。オークションの日程も把握しているはずだ。

商売敵ならサラを理由に騎士団を派遣し、潰すのが王都のやり口だ。

それをしないということはーー



「万が一のための保険って考えときますよ」


「そうしてくれ。俺としては合流前に片付けておきたいんだがな」 


「それなら、いい情報がありますよ」


「本当か!?」



ーー 一枚噛んでいる。



ただの駒使いかは分からないが、パドレイクが王都に情報を売っているのは確かだ。

アルトが目を細める。



「情報屋と接触できました」


「そうか!それでなにが分かった?」


「姫さんがいる場所は特定できました。せりが始まる前に侵入すれば、救出も可能だと思います」



利用されるのは御免だ。

アルトは買った情報の開示を制限した。与えるのはサラを救出するのに必要な情報のみ。会場の警備や人員は伏せた。もちろん、聖女喰いの情報も。

対処はこちらですればいい。



「なら、すぐにでも」


「どこ行くつもりすか。オークションは3日後の0時からっすよ!」


「そ、そうか」



駆け出そうとするパドレイクの肩を掴む。よほど急かされているのか、彼にしては無鉄砲な反応にアルトは驚く。



「会場の中は、人員は、配置だってあんた把握してるんすか?してないっすよね。無鉄砲に突撃されると困るのは、こっちなんですよ」


「.......すまん」



アルトは溜息をつく。

もちろん、わざとだ。

パドレイクの焦燥は普通じゃない。場慣れしていない新兵ならまだしも、近衛まで上り詰めた兵士だ。お姫様ひとり攫われた程度で、ここまで慌てるとは考えにくい。

出世や王族からの依頼だけではない。

アルトはそう睨んでいた。ここまで焦っているなら、口を滑らせるはずとも。



「無鉄砲すね。珍しい。やっぱりお役人さんってのは、上下関係厳しいんすか」


「まあな、特に第三王子は.....あ、いやなんでもない」


「いいんすよ。オレ口は堅い方なんで、愚痴っても構いませんよ」


「ははっ、いや、大丈夫だ。アルトは口が堅いが、誰が聞いてるか分からんからな」


「そうですかい」



障子に耳あり、壁にメアリーってな。

戯けるパドレイクに、アルトは食い下がらなかった。下手に探りを入れて、怪しまれても困る。それに、欲しい名前は手に入れた。内心でほくそ笑む。

お役人様ってのは口が軽くていけねぇや。



「それよりオークションの話をしよう。3日しかない」 


「はいよ」


「地図は無いか?会場全体の物があると助かるんだが」


「粘ったんですがね。地図は無いっす。でも(ここ)にはあるんでね」



嘘ではない。

アルトの手元にある地図はすでに灰となって、空へと消えたからだ。

アルトはペンを持つと、紙にサラサラと地図を書き出した。会場の地図だ。サラがいるステージから前方の客席側は細かく、後方の関係者側は大まかに記していく。



「客席側の警備は手薄。でも客入りはいいので、正直正面からの突破はお勧めしない」


「客に紛れて中に入れないのか?」


「会場に入るのは可能っすね。でもステージには女王と執事が配置されます。ドーレイ国No.1とNo.2が揃う場所を逃走はさすがにキツいっすね」


「聖女喰いは」


「巡回警備ですが、オークション開始時刻には正面入り口付近に配備されるそうです」


「....サラ様なら戦闘に参加できるだろう。なんとか、正面からの抜けられないか?」 


「姫さんだけなら可能でしょうね」



パドレイクが押し黙る。

アルトたちだけなら、サラだけを助けて会場から消える。だがサラは、ルークはそれを許さない。全ての聖女を救おうとする。

パドレイクは騎士だ。

姫の命令は絶対。その身に危険が及ぶなら彼女を優先させるが、聖女喰いの目的が売買なら商品に傷を付けるような真似はしない。

サラは安全なのだ。



「あ、あー、そうだな。分かった、裏口から行こう。事前の潜入も.....難しいか」


「どこで女王と鉢合わせるか分からないんでね」


「3日後の0時、オークション開始と共に裏口から潜入な。了解した」



プランを練っているのだろう。

トントンと頭を叩いてパドレイクは唸る。



「ルークはどうする」


「連れて行きますよ」


「3日で回復するか?」


「しなくても、連れて行きますよ。いつまでもあれじゃあ、勇者失格なんでね」


「いいのか?ただのオークションじゃない。競に出てくるのは裏の」


「理解してます」


「.......分かった。お前がいいなら何も言わない」


「あんたの懸念は最もだ。でも甘やかしてばかりはいられないんでね」



ルークが明日の正午までに回復しない場合は、自分が説明する前に、己の目で直接間のあたりにすることになるだろう。今の彼の精神にその刺激がどこまで悪影響を及ぼすか、おおよその予測はついていたが、それでも彼を連れて行かないと言う選択肢はなかった。



「それに置いて行った方が心配事が増えますよ。急にやる気になって乗り込んでくるかも、とかね」


「......確かに」


「でしょ?連れていくしかないんすよ」



裏口から行く計画を知らないルークは、正面から会場に乗り込むだろう。

奴隷国のオークションには各国の重鎮が多数来店しているはずだ。表向き奴隷反対を掲げている重鎮も多い。そこに王都の派遣した勇者が来ているとなれば、不利益になると考えた重鎮たちがルークの排除に向かうと考えられる。

そうなれば、運良く魔王倒せたとして、その後の彼の人生は死ぬまで牢獄に縛られることになる。

それだけは許容できない。

だから連れて行くしかないのだ。

たとえそれが彼の正義を壊すことになったとしても、世界の真実を覗くことになったとしても。

彼が死ぬよりはずっと良い。

最悪の場合、魔王に汲みしてでも、ルークの命を守らなければならない。お人好しのあの人はそれを、絶対に許さないとしても。

安心してくださいよ、とアルトは笑う。

 


「守って見せますよ」


 

固く固く、ペンダントを握り締める。

冷たいはずのそれがほのかに暖かい。

今だけは、幼い少女の存在が自分に勇気をくれているような気がした。



「そうだな。アルトがいるなら、ルークも大丈夫だろう。サラ様も聖女も安心だ」 


「ははっ、過大評価っすよ」



パドレイクの勘違いを訂正はしなかった。



ーーいざとなれば囮に使おう。



腹の中を見せれば手の内も知られる。

王国の間者に馬鹿な真似が出来るほど、強くないことをアルトは誰より心得ていた。



「今日はもう遅い。作戦会議は明日にしよう」


「はい、お疲れさんです」


「あー、アルト。なんだ、その......ルークのことあんまり思い詰めるなよ。あれは時間が解決してくれる」


「はい」


「理解してるならいい。おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」



パドレイクの背中を見送り、己も自室に下がる。ベッドに腰掛けたところでどっと倦怠感が襲ってきた。

腹の探り合いは疲れる。

今日はもう休もう。

決戦は3日後、オークション会場だ。

アルトは倒れるようにベッドに横たわると、そのまま目を閉じた。






お久しぶりです。年末は忙しいですね。

皆様も(あらゆるイベントで)お忙しいと思いますが、お風邪を召されませんよう栄養ドリンクをキメて下さいね。

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