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堕落聖女と変態魔王  作者: 竹輪
〜聖女編〜
105/117

1、ダイトッショカン国


獣人村から東に数キロ。

海に面した巨大な湿地地帯に、アルトたちは足を運んでいる。緑豊かなそこは、王都と山を挟んだ東側にある大きな国だ。

ダイトッショカン国。

半ば追い出される形で出国した勇者一行は、落ち着かぬ足取りで彼の国へと入国した。



「この辺なんすけどね」


「国の魔力探知機も同じ場所を指しているから、間違いないのだろうが」



大雑把すぎる。

アルトとパドレイクは顔を見合わせた。

聖女狩りに攫われたサラの魔力を頼りに、ふたりは各々の方法で居場所を探した。

魔法による探知と、機械による探知。

効率と確実性を考慮して行ったが、どちらも大雑把で使い物にならないと肩を落とす。



「ポータルが使えただけマシでしたけど、ヒントくらい欲しかったですね」


「あれだけ怒らせたんだ。無理な話だろう」



獣人村でのやり取りを思い出す。

後ろから刺されそうな険悪な雰囲気に、飛び交う罵詈雑言。口を滑らせた獣人から聖女狩りがドーレイ国を根城にしていると情報は得たが、具体的な場所を聞き出すことは出来なかった。

追い立てられるようにポータルに連行されて、それっきり。



「あの時は助かりましたよ」


「隙を作ったのはアルトだろう?」


「作っただけですよ。座標の弄り方なんて、オレは知りませんでしたし」



出店で鶏の串焼きを購入したアルトが、それをパドレイクに手渡す。くんくんと鼻を近づけてから、彼はそれを口に運んだ。うんまいと笑う。



「俺も聞き齧りだったが、上手くいって良かったよ」


「あんた外見(みかけ)によらずチャレンジャーですよね」


「そうだろうか?」


「ええ、機転も聞きますし。なんで騎士なんてやってるのか不思議なくらい」



もっと稼げる仕事があったのでは。

首を傾げるアルトにパドレイクは快活に笑った。お前の目に俺は随分とお優しく見えてるのだな、と。



「純粋なアルトくんに、獣人たちが設定してたポータルの行先を教えてやるとしよう」


「このタイミングで?」


「お優しい俺からのプレゼントだ。受け取ってくれるだろう?」


「遠慮しときますわ」



座標は獣人と、変更したパドレイクしか知らない。その彼が言うのだ。きっとロクな場所では無い。アルトは即座に首を振った。

気色の悪い顔してると思いましたよ。

案内した獣人を思い出す。嫌なこと思い出した。雑念を消すために、アルトは最後に残っていた肉に雑に齧り付く。



「それで、これからどうする?」


「一先ずは宿すかね。捜索が難航するかもしれませんし」


「だそうだが、リーダーの意見は?」


「うん」


「あー」


「こりゃあ、駄目だな」



頭を掻くパドレイクに、アルトもゆっくりと後ろを振り返る。

そこにいたのはルークだ。

力なく歩く彼は間違いなくルークだが、あの快活さは嘘のように鳴りを潜めている。金糸の隙間から覗く瞳は灰色で、焦点は定まっているのに、どこか別の場所を見ているようだ。

ルーク。

リーダー。

呼びかけても返事はない。あったとして、会話が成立するわけではない。

翡翠の瞳が歪む。

こんな姿は姉が死んだ時以来だろうか。



「ルーク。るぅぅく」


「うん?」


「魔法も機械の探知もいい加減なんで、今日は宿を取って、情報収集は明日からでいいすかね」


「うん」


「・・・・はぁ」



心ここに在らず。

ぼんやりと物思いに耽るルークに、苛立ちよりも心配が勝るのは幼馴染ゆえか。

あの幼い少女、エマと話してから彼はずっとこうだ。話しかければ返事はするが、生返事ばかりで会話になりやしない。



「一発殴れば回復するんじゃないか」



道中、そんな提案に乗って拳を構えたが、ルークの顔を見てすぐに計画を中止した。ショックで放心しているとばかり思っていたが、違った。

何かを考えていた。

深く深く、こちらへの返答が疎かになるくらいに思案しているのだと、アルトはすぐに気が付いた。



「エマちゃんに何か吹き込まれたか、あるいは聖女喰いの対策で悩んでいるか・・・」


「どちらにしろ、明日には正気に戻ってもらわないと困るんだがね」


「そうっすね」



今度はあんたが殴ってくださいよ。

馬鹿、斬られるわ。

わっはっはっ。

肩を組んで、背中を叩いて、豪快に笑う。ちらりと振り返るが、らしくもない態度を取ってもルークの視線は動かない。



「.......教会行きましょうか」


「そうだな」



溜息が漏れるのも仕方ない。

このパーティのリーダーはルークだ。情報収集や作戦はこちらで立案できるが、最終決定権は彼にある。特に今は急を所要する事態だ。昔馴染みとしては好きに思案させてやりたいが、サラのことを考えると甘いことは言っていられない。



「ルークは誰が見る?」


「見張りなんていりませんよ。聖遺物の前に放置して、オレたちは情報収集と行きましょ」


「.......前から思っていたが、大事だって言いつつ扱い雑だよな」


「そうですかい?」



こんなもんですよ、幼馴染なんて。

続けた言葉にバドレイクは苦笑いで返した。









お読みくださりありがとうございます!

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