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第7話:誰が性悪?

 ヒロインと親睦を深めようとお昼休みに教室を出た私は、ヒロインのクララに会うべく1学年の校舎へと向かった。


「クララ~~」

 と、食堂へと向かうヒロインを呼び止めた。食事は屋敷の料理人に頼んで、クララの分のランチボックスも用意してある。


「アーデルハイド様!」

 と、私に呼び止められたクララは驚いた様子だ。


「ま、まさか会いに来てくださるなんて……」

「どうして?」


「だって、廊下であんなにも何度もぶつかってしまって……。アーデルハイド様も、とても怒っていらっしゃる様子でしたし……」


 まあ、怒ってたのは私じゃないけどね。


「気にしないで、人間、誰にも間違いはあるわ」


 普通はあんなにも間違わないけどね。


「でも、あんなにもお怒りになっておりましたし……」


 う~~ん。怒ってたのは私じゃなくて取り巻きの子たちだったんだけど、この子の記憶では私が怒ってることになってるんだよね。

 とはいえ、なんとか取り繕わないと。


「それはね……。なんていうの? 公爵令嬢としての立場というか……」

「公爵令嬢としてのお立場……ですか?」


「そ、そうなのよ。ぶつかって来られてそれを笑って許してしまっていては、それで私と仲良くなれると、ぶつかってくる人が多くなってしまうもの」

「なるほど~~。そうですわね」


 まあ、私にぶつかってくるなんて貴女ぐらいのものだけどね。


「だから、これからも皆の前では貴女のことを罵倒するかもしれないけど、それはみんな”公爵令嬢の立場”だから! 分かった?」

「はい。分かりました」


 クララは微笑み頷いた。


 ちょろくて助かったわ。

 と、思っていると後ろから怒鳴り声がした。


「こんなところに居たのね! 探したわよ!」


 声の方に顔を向けると、そこには銀髪の美少女、クララにコテンパンにされたバルリング伯爵令嬢が居た。かなり探し回ったのか顔が少し汗ばんでいる。


「あっ。アーレンベルク公爵令嬢様……。これは、気づかず……」

 と、コテンパン令嬢は慌てて頭を下げた。彼女からは、私の後ろ姿しか見えなくて、私と分かっていなかったようだ。


 改めてみると、線の細い身体つきに背中まで伸びた銀の巻き毛、すみれ色の大きな瞳に長いまつ毛、陶器のような白い肌の持ち主で、とても脇役とは思えぬほどの美少女だ。

 なんでこんな美少女がクララにコテンパンにされるような役回りなんだろう? と不思議に思えてくる。


「いえ。気にしないで、クララに何か用なの?」


 私に気づかず声をかけてきたってことは、クララに用事ってことよね。


「あ、はい。そうなのですけど……」

「私のことは気にしなくて結構よ」


 すると、少しの間躊躇していたが、

「はい……。それでは」

 と、コテンパンがクララに顔を向けた。


「貴女、模擬戦で私に勝ったとそこかしこで吹聴しているそうですわね。どういうつもりですの?」


 ああ、やっぱりそのことか。コテンパン……第二王子のこと好きだったみたいだし、よほど悔しかったのね。


「吹聴だなんて……。ただ、私は皆様から聞かれたのでお話ししただけで……」

「それが余計だっていうのよ!」


 さっきまでは私の前だと遠慮があったが、いったん火が付いた怒りは収まらない。クララを指差し恫喝した。


「そんなことをおっしゃられても……。話さなければ話さないで、批判されてしまいますし……」


 まあ、それはあるかもね。批判したい人はどうにでも難癖付けるし。


「とにかく。次の模擬戦では見てらっしゃい! 前回のはまぐれだったって思い知らせてあげるわ!」

「ですけど……。私の魔法は聖魔法で、固有スキルは”聖光領域”ですし、バルリング伯爵令嬢様の黒魔法と固有スキルの”暗黒波”は相性が悪いので……」


 魔法には色々な属性があり、相互に良い相性、悪い相性がある。その中でも、黒魔法にとって聖魔法との相性は最悪だ。


 そしてクララの聖光領域は領域内の魔法を無効化するもので、コテンパンの暗黒波は対象の体力を奪い戦闘力と魔力を弱らせるもの。魔法どころか戦闘力まで奪う暗黒波の方が使い勝手は良いんだけど、聖光領域と戦ったら暗黒波自体が無効化されちゃうのよね。


 魔族で聖光領域を使う奴なんていないから、暗黒波の方が実用的なんだけど……。

 コテンパンは学年主席で真面目だから、実用的な方を選んじゃったか。実際、聖魔法のクララ以外には勝てるんだろうし。


 でも黒魔法で聖魔法に勝つには、属性を考慮しない場合の実力差が倍ほどないとだめなんじゃないかな?

 年間の総合成績なら、ほかの子との戦績も点数になるんだし、コテンパンの方が上になるんでしょうけど……。


 でも、愛しの第二王子の前で恥をかかされたコテンパンは、頭に血が上ってるみたいだ。


「とにかく貴女なんて、私には遠く及ばないと思い知らせてあげるわ!」

「ですけど、相性で勝てないのでは……」


 残酷な事実の指摘。わざとではないのかも知れないけど、コテンパンにとっては煽る効果しかない。


「だったら、負けた方が相手の言うことを聞く! っていうのはどうかしら?」


 ああ、なんか良くあるあれね。ゲームのイベントでも、こういう条件で勝負するのって多いわよね。

 でも、今ってイベント外よね? もしかして、ゲームの世界の住人だから思考もゲーム脳なのかしら?


「でも……本当によろしいのですか?」

「もちろんよ!」


「分かりました!」

 と、クララが微笑んだ。


「では早速ですけど、実は宿舎に次の午後の授業に使う教科書を忘れてしまっていましたの。取ってきて下さいませんか?」


 ちょうどよかった、と言う感じで、クララが両手を合わせて微笑んでいる。


「え?」

「え?」


 コテンパンと私が同時に声を上げた。


「え。あ、な、なんで?」

「だって、負けた方が相手の言うことを聞くって……。前回、私が勝ったのですから、私の言うことを聞いてくださるのかと……」


「そんなの次の勝負からに決まってるじゃない!」

「あ、そうなんですか? バルリング伯爵令嬢様がおっしゃったことですから、バルリング伯爵令嬢様が負けたところからの話かと思っておりました……」


 クララは、私ったら、という感じで両手で自分の頬を包み込んだ。


「そうなのですね。前回の勝負はなかったことにしたかったのですね……。すみません。バルリング伯爵令嬢様のお気持ちを察することができませんでした……」


 こいつ、煽るの上手いな……。


「ぐぬぬっ。分かったわよ!」


 うぐうぐ言いながら、コテンパンが承諾した。


「そういえば、言うことを聞いてくれるのって、次の模擬戦までずっとなんですよね?」

 と、クララが微笑んだ。


「え?」

「え?」


 いや、それは……。クララは無茶を言っているように聞こえるが、煽られて頭に血が上っているコテンパンは、

「わ、分かったわよ!」

 と、承諾してしまった。


「それでは、教科書を取ってきて下さいましね」

 と、クララがにっこりと笑う。


 すげ~~。下級貴族の娘が伯爵令嬢をパシリに使ってるわ……。


「覚えてらっしゃい!」


 コテンパン令嬢はそう叫んでクララの教科書を取りに宿舎へと走っていった。


 クララ……。恐ろしい子……。

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