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第6話:不協和音

 さて、昨日の第一王子カミルとの初遭遇イベントについで、今日はヒロインと第二王子との初遭遇イベントだ。


 昨日のイベントでヒロインの突進を避けるのが不可能だと分かったわ。今日はその代わりに、ぶつかったダメージが少なくなるようにお腹にノートを何冊も挟んできている。


 昔に見たやくざ映画で、お腹を刺されても大丈夫なようにお腹に漫画雑誌を入れているのを参考にした。


(でも、攻略対象との初遭遇イベントが、全部『ヒロインと公爵令嬢の衝突』って、シナリオライターは手を抜きすぎじゃないかしら?)

 と、思っていると、ヒロインとぶつかる廊下の角に差し掛かった。私は素直に進んでいく。すると、小走りのヒロインとぶつかった。


 昨日のように全力での突進じゃないのは、私が避けようとしなかったからかな?

 大した衝撃ではなく、せっかくお腹に挟んだノートは無駄になったみたいね。


 さて、この後どうすれば良いのかな? と思っていると、左右の取り巻きたちの視線を感じた。


 まるで、さあ貴女の出番よ! とでもいうような感じだ。私がおとなしくぶつかったから、イベントに参加していると思っているのかな?


 とは言っても、なんて言えば良いんだろう? ゲームの世界を知らなくて、現実世界の記憶もない公爵令嬢として育ったままの私だったら、自然と台詞が出るところなんだろうけど、今の私には、その”アーレンベルク公爵令嬢らしい台詞”が全然思いつかない。


 そうだ! いっそのことヒロインを許せば良いんじゃないの?


「気にすること、うぐっ!」

 突然、後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれた。


「貴女は、何度私にぶつかれば気が済むの! と、お姉さまがおっしゃっていますわ!」

 と、私の口を塞ぎながら、赤毛の取り巻きが私の台詞を代弁しだす。


(でも、このやり方はともかく、台詞については同感だ……)


「バルリング伯爵令嬢をコテンパンしたからって、いい気になっているんじゃなくて! と、お姉さまがおっしゃっているのよ!」

 と、もう一人の取り巻き。


「おお。あの子がバルリング伯爵令嬢をコテンパンにしたという……」

「バルリング伯爵令嬢をコテンパンにした子が、アーレンベルク公爵令嬢様にぶつかったらしいぞ」


 騒ぎを聞きつけ、集まってきた学生たちの話し声も聞こえる。


 その中に、歯を食いしばってぐぬぬっとなっている銀髪の美少女がいる。噂のバルリング伯爵令嬢だ。入学時に学年主席だと有名だったから、私も顔は知っているのよね。


「これは何の騒ぎです?」

 と、そこに白馬の第二王子、デニスが登場した。


 周囲の女生徒からも

「まあ、デニス殿下ですわ!」

 と黄色い声が上がった。


 血統を重んじる貴族社会らしく、長男でも側室の子である第一王子のカミルより、正妻の子の第二王子のデニスの方が女生徒からは人気があるのよね。実際、王位継承争いでもデニスの方が有利なのだ。


 でも、それも条件が同じならの話。第一王子のカミルが、王国最大の有力貴族であるアーレンベルク公爵の令嬢である私と結婚すればそれも覆る。だからこそ、デニスも私と結婚しようとしているってことだったわよね。


「バルリング伯爵令嬢をコテンパンにした生徒が、私にぶつかってきたのです! と、お姉さまがおっしゃっていますわ!」


(あ~~。はいはい。やっぱり、それやるのね)


「なるほど。この子がバルリング伯爵令嬢をコテンパンにした……」

 と、第二王子が興味深そうにうなずいた。


 やっぱりこいつも、改めて見てもイケメンだけど、今はその意識はクララに向いているので、イケメン圧は感じないね。


「バルリング伯爵令嬢をコテンパンにしたからと増長しているのですわ! と、お姉さまがおっしゃっていますの!」

「そんな……。確かにバルリング伯爵令嬢様をコテンパンにしましたけど……、その程度のことで調子に乗ってなんて……」


 クララは謙遜しているつもりのようだけど、”その程度”といわれたバルリング伯爵令嬢が、打ちひしがれている。


「いや、学年主席のバルリング伯爵令嬢をコテンパンにするなんて、立派なことだよ」

 第二王子が微笑み、ヒロインを褒めたたえた。


 あ。バルリング伯爵令嬢がシクシクと泣き崩れた。第二王子のことを好きだったのね……。


「まあ、彼女も反省しているようだし、下々の者の多少の不調法を許してあげるのも公爵令嬢としての素養というものではないかな?」

「そ、そうですわね、と、お姉さまもおっしゃっていますわね」


「さすがはアーレンベルク公爵令嬢。私の言葉を入れてくれて礼を言う」

(私は何も言ってないけどね……)


 第二王子はそう言って軽く頭を下げた。まあ、向こうは王子なんだし。でも、こっちの方が立場は強いし。で、これくらいでちょうど良いのかな?


「さあ、君も立ち上がって」


 そういえば、相変わらず、ヒロインはずっと倒れたままでいたのよね。ゲームのイベントとしては違和感ないのかもしれないけど、実際に倒れたまま会話を続けてるのってシュールだわ。


 その後、ヒロインと第二王子は立ち去り、次の授業の後の休み時間。

 次の衝突で出現するのは、宮廷音楽家のライマーだったわね。

(また衝突かよ……)

 ライマーも第一王子や第二王子のように女生徒からはモテモテだけど、王子たちと比べて、比較的爵位が低い貴族の令嬢にモテているみたい。どうも、彼女たちからすれば王子たちは身分が違い過ぎて手が届かないけど、彼ならば現実的に手が出る範囲、と思っているようだ。

(ライマーは学園の外だったらマダムキラーなんだけどね)


 そんな計算なんてしていないのか、そもそもダメ元なのか、身分が低くても王子たちにラブコールを送っている身分の低い貴族の令嬢もいるにはいる。だからまあ、比較的にって話ね。


 下手によけようとしなければ、そんなに強くぶつかってこないと分かっているので、廊下の角でおとなしくクララの突撃を受け止めた。


 すると、今回も私の出番を促す取り巻きたちの視線。とはいえ、やはり”普段の公爵令嬢だったら自然と出るはずの台詞”が出てこない。


 無理無理、と首を振った。


「ちぃ」

 と赤毛の取り巻き。


 こいつ、舌打ちしやがった。


「「貴女、何度も私にぶつかって。恨みでもありますの!? と、お姉さまがおっしゃていますわ」」

 と、赤毛と黒髪の取り巻きが同時に言った。なんだか、2人してにらみ合っている。


「ま、まさか。公爵令嬢様を恨んだりなんて……。決して、そんなことありません!」


「……」

「……」


 取り巻きのどちらも黙ったままで、お前の番だろうと、にらみ合いが始まった。


 今回、段取り悪いな……。もしかして、何度もやっているうちにバグりだしたか?


「では、4回もぶつかっておいて、全部偶然だとでも言いますの? ふざけるのもいい加減にして欲しいですわ! と、お姉さまがおっしゃっています!」

 根負けした黒髪の取り巻きのヴェラが、ふてくされて投げやりな感じで言った。


「違うんです! 私にも何が何だか……」


(私もそう思う)


 そうこうしているうちに、美少年宮廷音楽家ライマーがやってきた。


「おや。美しい声が聞こえたと思ったら、アーレンベルク公爵令嬢でしたか」


(いや、私は一言も喋ってないけどね。お前、音楽家のくせにどういう耳してるんだよ)


 そして、いつものヒロインをかばうやり取りだ。


「貴女の美しい声は、人を叱責するために使うべきではありませんよ」

 と、ライマーは私をたしなめてくる。

(繰り返すが私は一言も喋ってない)


 この後も会話が続いていくが、どうせ私が何も喋らなくてもイベントは進んでいく。いつもと同じようにイベントが終わり、ヒロインと宮廷音楽家のライマーが立ち去った。


 でも、さすがに今回は取り巻きたちの段取りが悪すぎた。何度もやってて疲れてきたのかな?


 それもこれも私が全然喋らないからなんだし、私のせいでもあるのかしら?

 そう思うと悪い気もしてきた。


「あ、あの……。奇数授業の後はヴェラが最初にしゃべって、偶数授業の後はカロリーネが最初にしゃべって、その後は順番順番にすると決めておけば良いのではないかしら……」

 と、アドバイスをしてみたが、

「え? 何のことですの?」

 と、やはりイベント中のことは覚えていないようだ。


 だけど、次の宰相の息子、知的メガネキャラのマルセルとのイベントの時は、奇数授業である3時限目の後だったからか、ヴェラが最初にしゃべり、偶数授業である4時限目の後の和風イケオジ、シンシチとのイベントの時にはカロリーネが最初にしゃべった。


 しかし、授業の合間の休み時間ごとにぶつかってくるって、現実世界だったら絶対に病院に連れていかれてるわ。


 でも、とりあえずこれで、ヒロインと”攻略対象”との初遭遇イベントはすべて終わったわ。この後はしばらく選択イベントばっかりらしいから、そのすべてを攻略対象たちと会うより、私に会うように仕向ければ良いのよね。


 何とかなりそうかな?

励みになりますので、

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