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第4話:攻略対象たちのアプローチ

 魔王の言う通りクララと仲良くしようかと思うものの、肝心のクララとの接点がない。


 一応会いには行こうと思うのだけど、ゲーム開始直後でイベントばかりのようなのだ。


 イベントの邪魔は出来ないので、クララの学年の校舎へと歩こうとすると他の生徒がぶつかってきたり、先生に呼び止められたり、はては頭上から植木鉢が落ちてきたりで、どうしても行く手を阻まれるのだ。


 たとえ魔王ルートにならなくても、ゲームイベント的に現時点で私が死ぬはずがないんだけど、さすがに身の危険を感じるわ。


 そうなるとしばらく手が出せない。今日は帰るか、と歩いていると、思いがけない人物から呼び止められた。


「アーレンベルク公爵令嬢、久しぶりだな。最近、少し付き合いが悪いのではないか?」


 そう声をかけてきたのは、第一王子のカミル・バルツァーだ。


 ゲームの王子キャラらしく金髪碧眼、ロン毛の長身だ。長男だけど正妻の子ではないので、王位継承順では劣るという複雑な環境からなのか、屈折した性格で目つきも鋭い。

 とはいえ、顔立ちは彫刻のように美しい。ギリシャ神話でいうところの戦神アレス……ってところかしら? なかなか私の好みではある、かも?


「あら。そうでしたかしら?」

 と、とぼけて時間を稼ぎながら、アーレンベルク公爵令嬢としての記憶を手繰る。


 あ~~。そういえば、カミルを含めた攻略対象の人たちって、私に何かとアプローチしてきてたわね。その時の私はそんな下心があると思ってなかったし、単純にモテモテなんだと思ってそこそこ付き合ってたんだったわ。


 それが王位継承順だったり、アーレンベルク公爵家の権力が欲しかったりと、すべて下心があったなんて。


 その下心で私に近づいてきていたカミルが口を開いた。


「そうだ。以前は、遠乗りにも付き合ってくれていただろう?」


 そう言って私に近づく。っていうか、近すぎない?


 以前はそこまでかと思ってたけど、改めて見ると、さすがに乙女ゲームの攻略対象だけあって超イケメン!

 やっぱり、現実世界の記憶が戻ってるから現実世界の男子と比べちゃうのよね。ごめんよ現実男子。


 まあここは、アーレンベルク公爵令嬢らしい返答をしておくか。以前の記憶がなくなっているわけじゃないから、それっぽいことも言えるのよね。


「そうでしたわね。それでは、また都合の良い時にご一緒いたしましょう」


 まあ、予定は未定というやつで適当に良い顔をしておいて、すっとぼければ良いわよね。


 そう思っていたけど、カミルがさらに顔を近づけてきた。

「では、いつにする?」

 と、イケメンを盾にぐいぐい来る。


 イ、イケメン圧が……。くそ……。こいつ、自分がイケメンと自覚してやがるな。


「じゃ、じゃあ……。今度の……」


 だめだ。頭では断ろうと思っていても、イケメン圧に屈して約束をしてしまいそうだ。


「はははっ。兄上、アーレンベルク公爵令嬢が困っておいでではないですか。あまり、無理を言うものではありませんよ」


 そう言って登場したのは、第二王子のデニス。


 こいつも王子なので、金髪碧眼は標準装備だけど、兄との差別化をはかるためなのか短髪だ。背はカミルよりは低いが、それでも長身の部類。正妻の子なので王位系順位で優位だからなのか物腰に余裕がある。目元も吊り目気味のカミルと違い、穏やかで優しげに見える。

 まさに正統派、白馬に乗った王子様登場、という感じだ。

 白馬の王子は高貴な笑顔をたたえながら、私たちの間に割り込んできた。


「無理など言っていない。言いがかりだ」

「そうでしょうか?」


「そうだ。何より、お前が口を挟まなければ、アーレンベルク公爵令嬢は俺の誘いを受けていた様子ではないか」


 なにやら言い争いが始まった。鋭く睨むカミルと余裕の笑みを浮かべるデニスが対峙している。


 そしてデニスが

「そうなのですか?」

 と、私に言葉を向けてきた。


 確かにカミルのイケメン圧で約束してしまいそうだったが、デニスが登場してきたのでさっきまでとは状況が違う。


 現実男子と比べるとイケメンのカミルも、同じくイケメンのデニスの登場で、イケメン圧が相殺される。


 個人的には、すかしたデニスよりカミルの方が好みだけど、それでもカミル基準80%のイケメン。それが相殺された結果、カミルのイケメン圧は80%減、残り20%にパワーダウン。十分対抗できる!


「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

「ぷっ」


 あっさりと断った私に、デニスが噴き出した。こいつ、こういうキャラだったか?


「貴様!」

「い、いや、つい……」


 激高したカミルがデニスの襟首を掴み、さすがにデニスもマジ切れしたカミルにビビってるみたいで普段の余裕がない。


 なんだか、殺されそうな勢いでカミルに絡まれているデニスだけど、今後のことを考えればイベントに支障が出るような大怪我はしないはずだ。きっと大丈夫だろう。


「喧嘩をするほど仲が良い、と申しますものね。邪魔者は席を外しますわね」

 と、礼儀正しく別れの挨拶をした私は、改めてとっとと屋敷に帰ろうとその場を離れたのだった。


 まったく、無駄な時間を過ごしちゃったよ。


 カミルとデニスと別れて歩いていると、前からやって来た人物に呼び止められた。攻略対象の1人、宮廷音楽家のライマー・クラインベックだ。


 代々、宮廷音楽家の家系で、本来なら成人してからも技量を高めて家督を継ぐのと一緒に宮廷音楽家の職責も継ぐのが慣例なのを、成人する前に宮廷音楽家の職責だけを先んじて継いだという天才音楽家。


 背はデニスより低く、小柄で華奢な体格をしている。デニスと同じく短髪だけど、瞳と髪の色は明るい茶色だ。攻略対象たちの中で一番の細身で、小柄な割には足が長く、すらっとした印象がある。

 繊細な顔立ちの美少年で、イケメンぞろいの攻略対象の中では、唯一の”美少年枠”だ。

 甘いマスクで得意のピアノを奏でる姿は、”熟女キラー”と呼ばれる所以だわ。


「これは、アーレンベルク公爵令嬢。お久しぶりですね」

「あら、そうでしたかしら?」


「はい。以前は頻繁にお呼びがかかりましたのに、最近はお招き頂くことも少なくなり、もしや、ご不興を頂いたのかと心配しておりました」

 と、ライマーは切なげに微笑んで見せた。


 そういえば、宮廷音楽家って、パーティーとかするたびに、そのパーティー用の曲を依頼されて作曲したりするんだっけ。


「いえ、ただ最近、パーティーを開いていなかっただけですわ」

 とは言ってみたものの、ライマーは宮廷音楽家なんだから、本来の雇い主は王家。アーレンベルク公爵家からの依頼はいわば小遣い稼ぎのはずだよね。


「それだけではありません。以前は、ピアノの指導のご依頼も頻繁にありましたのに、最近ではめっきりと無くなってしまいました」


 あ~~。そういえば呼んでないわ。っていうかピアノ弾いてないわ。というよりピアノ弾けるの忘れてたわ。


 アーレンベルク公爵令嬢としての教育で、貴族令嬢っぽい習い事は一通り出来るんだったわ。


「すみません。最近、進級したところで学業が忙しく……。練習がおろそかになってしまっておりましたわ」

「そうですか。それは仕方がありませんね」


「ええ。そうなんです。それではごきげんよう」

「でも、もう生活も落ち着いたのではないですか? 練習を再開しましょう」


 以前は確かに習ってたけど、下心があると分かると接点を持ちたくない。とっとと帰ろうかと思ったが、やっぱり、こいつも粘って来たか。


「実は、最近、気分が乗らず。しばらくピアノは控えようかと思いますの。また気が乗れば、その時にお願いいたしますわね」

「それはいけません。ピアノは、休めば取り返すのにそれ以上の時間がかかります」


 そういうと、ライマーは私の手を取った。


「指が、ピアノを忘れてしまうのです」


 さり気なく私の手を握ったライマーは、そう言って私に顔を近づけて微笑む。

 こいつ、吹けば飛ぶような優男のくせに、意外と圧がすごい!


 あ、圧が~~。イケメン圧が~~。


 好みではないが、超美少年のライマーのイケメン圧は、カミル基準で70%。

 カミルよりは劣るが、抵抗するのは難しいレベル。


「そ、そうですわね」

「そうでしょう。指がピアノを忘れてしまう前に練習を再開しなくてはなりません」


 そう言って、私の指に自分の指を絡める。


 誰か助けて~~! と思っていると、前からやって来たのは宰相の息子のマルセル・ヴォーヴェライト!


 黒目黒髪。綺麗に整えられた短髪で眼鏡。背はデニスよりも少し高い。きりっとした知的な顔立ちだ。乙女ゲームでいえば、いわゆる”知的メガネ枠”。クールなイケメンなんだけど、私のタイプじゃないのよね。(私はワイルド系が好みなのよね)


 この王国は宰相は世襲制ではないが、次の宰相は退任する宰相が推薦するのが慣例。なので、自分の息子を推薦するのも可能なんだけど、それをすると公私混同だと非難されるのは当然。


 しかし、このマルセルは、客観的に見てもとても優秀。もしマルセルの父である現宰相が、次の宰相にマルセルを推薦しなければ、それこそ、公私混同との非難をされないための公私混同だろう、とまで言われている優等生だ。


 その優等生が、

「どうしたのです?」

 と、声をかけてきた。


「最近、アーレンベルク公爵令嬢のピアノの練習が疎かになっていたので、練習を再開するように説得していたのですよ。ピアノは練習をしないと取り返すのが大変ですので」


 よし! さっきのデニスみたいに、イケメン圧を相殺してくれ!


 お前は私の好みではないが、それでもカミル基準でイケメン圧は60%! 相殺すれば、ライマーのイケメン圧は残り10%だから、抵抗するのは余裕だ!


「それは確かにそうですね。アーレンベルク公爵令嬢。練習を再開してはどうです?」


 馬鹿野郎! 賛成するのかよ!

 常識的なことを言うとは、こいつ優等生かよ。あ、優等生だった……。


 これで、残り10%どころか、合わせてイケメン圧130%! 圧が~~。圧が~~。


「そ、そうですわね。あまり練習しないのも……」


 圧に屈しそうになっていると、そこに登場したのは外国から来た傭兵で、魔族を対象とした学園の戦闘技術の教員でもあるシマヅ・シンシチだ。


 黒い髪と瞳の持ち主で、腰まである長髪を後ろで束ねている。カミルを超える長身で、鍛え上げられた身体を見せつけるように、常時上半身が裸だ。一応、上着は着ているが、常に上半身がはだけているのだ。野性味のあるイケメンで、眼光が鋭く粗野な感じがするが、大人の男の色気も漂わせている。

 はっきり言って、外見だけでいえば、攻略対象の中では一番好みのタイプだ。……おっさんでなければ。


 東方の国からやって来たということだけど、現実世界の知識で考えれば、苗字からも完全に日本を想定してるよね。常に上半身裸なのは、「俺の国ではこれが常識だ」と言ってたけど、絶対に嘘だよね。


 それにシマヅって九州の鹿児島だっけ? に居た大名の名前かなんかだよね。


「どうした。男子2人で女子1人を囲むのは感心せんな」

 と、一見、注意をしているようだけど、その後

「はははっ」

 と、笑ったところを見ると冗談のようだ。


 とはいえ、シンシチの登場に130%圧の優等生コンビがたじろいている。


 宮廷音楽家や宰相の息子が、教員のシンシチをそれほど恐れるのかと思うかもしれないけど、シンシチはプロの軍人だから普通に人を殺してるからね。いくら優等生コンビでも、しょせんは学生。そりゃ怖いわ。


 ちなみに、シンシチのイケメン圧はカミル基準で130%と言いたいところだけど、おっさんなのでその分を差し引いて110%だ。


「囲むなんてとんでもない。アーレンベルク公爵令嬢のピアノの練習が最近疎かなので、練習を再開した方が良いのではと話していたのですよ」

「なるほどな」


 ライマーの説明をシンシチはふむふむと聞いている。


 まずいぞ。これでシンシチまで賛成すると合わせて240%圧!

 お前ら! 私をどうするつもりだ!


「しかし、本人が望まぬのに強要するのは感心せんな」


 よし! でかしたシンシチ! これで、イケメン圧は130%から110%を引いて20%に激減!


「い、いえ。強要するなんてとんでもない。アーレンベルク公爵令嬢。そうですよね?」

 シンシチにたじろくマルセルが、私に同意を求める。


「私は先ほどから断っているのですけど、この2人が無理やり」

「ほう。それはいかんな」


 シンシチの鋭い眼光が、ライマーとマルセルを射抜く。

 マルセルに比べればまだ余裕を見せていたライマーも青ざめている。


「それでは、向こうの部屋で少し話そうか。ん?」

 と、シンシチが左右の腕をライマーとマルセルの首に回した。そのまま首を締めあげると2人を引きずっていく。


「え? いや、違う……」

 と、ライマーとマルセルが私に助けを求める視線を向けてくる。


 さて帰ろう。

 まったく、とんでもなく道草くっちゃったよ。

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