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第2話:ゲーム世界の制約

 魔王と出会った夜が明け、学園に向ってその一時限目。

 今まで積み上げてきた、無遅刻、無欠席を失うのは勿体ないが、現実世界の記憶がよみがえった私にとってはそれどころではない。


 授業が始まる前に教室から出ようとすると、公爵令嬢としての私の取り巻きである、黒髪の伯爵令嬢ヴェラが、

「お姉さま。どこに行かれますの? 授業が始まりますわよ」

 と、私の腕に自分の腕を絡ませてきて、教室に引きずり込まれてしまった。


 まあ、こういうこともあるか。

 じゃあ次の授業をさぼろう、と思って、一時限目が終わって、教室を飛び出して中庭に退避しようと廊下を歩いていると、なぜか、まだ授業開始までかなり時間があるにもかかわらず、次の授業の先生が前から歩いてきた。


「これは、アーデルハイド嬢。どこに行くのです? もうすぐ授業が始まりますよ」


 いや、まだまだ始まらないだろう、とは思ったが、先生にそういわれると反論できない。


「そうですわね」

 と返答し、先生と教室へと向かった。


 つ、次こそは……と、授業終了後、急いでお手洗いの個室に飛び込んだ。


(ふぅ……。これで大丈夫……)


 安心した私だったが、次の瞬間、個室の扉が強く叩かれた。


「お姉さま! どうなさったんですか! 開けてください!!」


 ドンドンと扉を強く叩きながら、私の取り巻きの赤毛の男爵令嬢カロリーネが叫んでいる。


「ちょ、ちょっと。お腹の調子が……」

「そんなことより、授業に遅れますわ!」

 と扉を叩いてくる。


(え? 普通、納得するよね? じゃ、じゃあ)


「あ、あの、なぜか扉が開かなくて……、困りましたわね……」

「あら。そうなんですの? それじゃ、仕方がないですわね……」


 と、思いのほかあっさりとカロリーネの声が聞こえなくなった。


(さすがに諦めたか。扉が開かないなら仕方ないよね。でも、これで授業がさぼれ……)


 ドンッ!!


 突然の大きな音に私は飛び上がった。


「ちょ。ちょっと。何なの!?」


 しかし、私の声をかき消すように

 ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!

 と、鳴り続ける。


 もはや声も出せず、驚いて扉に目をやっていると、その扉を突き破って斧の刃が飛び込んできた。


「おわぁっ!!」


 思わず声を上げると、さらに、ドンッ!! ドンッ!! と、斧が扉を突き破り続けて破壊され開け放たれた。


「さあ、お姉さま。早くしないと授業に遅れますわよ」


 カロリーネが、斧を手にして微笑む。

(むっちゃ怖いんだけど!!)


「は、はい!」


 思わず返事をし、斧を片手にしたカロリーネとともに教室に入ったが、誰も、彼女が斧を持っていることを不思議がっている様子がない。いや、斧を持っていると認識していないのだ。その証拠に、すれ違った男子学生の服が斧に触れて破れても、気にも留めていない。


(怖い、怖い、怖い……)


 ガタガタと震えながら授業を受け、次の授業は、どんなことが起こるか恐ろしく、さぼろうとすることすらできなかった。


 おとなしく授業を受けていると、机の上のノートに文字が浮かんできた。


”どうだ? さぼれなかっただろ? 昼休みに校舎裏で待つ”


 魔王だから魔法が使えるってこと? そんなことを思いつつ、昼休みに校舎裏へと向かった。


「あれって、どういうことなの?」

「授業をさぼれなかっただろ? そりゃ、お前のキャラ設定が”無遅刻、無欠席”だからだ。忘れるな。この世界はゲームだ。決められた設定、イベントは”絶対”だ」


「絶対……」

「そもそも自由に動けるなら、死にたくなければ自分を殺そうとする奴に近づかなければ良い話だからな。そうは問屋が卸さないってことだ」


「だったら私も何も出来ないんじゃないの?」

「いや、俺はゲーム会社の”公式攻略本”で、ヒロインとの1回目の遭遇、2回目の遭遇とイベントが紹介されているから1回目の遭遇の後に勝手にヒロインに会えば、”2回目の遭遇”じゃ、なくなっちまう。だが、お前は違う。”どこで遭遇した”としか書かれていないから、それ以外のところで会うのは自由なんだ」


「へぇ~~。そんな抜け道があるのね」

「お前はゲームイベントがないときにヒロインと会って、ヒロインと攻略対象たちの”親密度”が上がる”選択イベント”を起こさせないようにしてくれたらいい。そして、俺とヒロインとの親密度が、そいつらより高くなったら”魔王ルート”だ」


「でも、どうやったら選択イベントを起こさせないように出来るの?」

「さっき言った”親密度”ってのは、あくまでゲームでのパラメータと思えばいい。それとは別に、実際の人間関係の好感度ってものがあるだろ? 誰かと仲良くしたいとか、一緒に居たいとか」


「ええ。あるわね」

「お前は、ヒロインと仲良くなって好感度を上げて、ヒロインに攻略対象たちよりお前と一緒に居たいと思わせれば良いんだ。そうすれば、ヒロインは攻略対象と会うような”選択”はしないし”親密度”は上がらないってわけだ」


「わかったわ! そしたら私も生き残れて、”わりと幸せ”に暮らせるのね!」


 ということだったが、問題は”強制イベント”である。


 その、私こと悪役令嬢がヒロインをいじめるという強制イベントが、今まさに起こっているのが冒頭の話ということだ。


 魔王との話の後、左右に黒髪と赤毛の取り巻きを従えた私が廊下を歩いていると、いきなり正面からヒロインこと、茶髪の美少女クララが突っ込んできたのだ。


(え? なに!?)

 と、避けようとする私を、

「「お姉さまあぶない!」」

 と、ハモって叫ぶとともに、両側から私の腕を掴む取り巻きの少女たち。


「ちょ、ちょっと!」

 これじゃ避けられないじゃない!!


 と思っている間に

「えいっ!」

 という掛け声とともに私に衝突するヒロイン。


「ぐ、げぇ……」

 猛烈な体当たりに私は思わず声を上げた。


「まあ、私ったら!」

 とヒロイン。


 こいつ……絶対にわざとだろ!!


 そして、私を放って勝手にイベントを進めるこの世界の住人たち。


 魔王が言うには、イベント中や設定を守ろうとする時には狂気を感じるが、それ以外のところでは普通の人っぽいらしいけど。


 これ、結構しんどいかも!?

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