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28.どうしてこうなった?

「いや責任は取る。取らなくてはならないのは分かっているし最初からそのつもりでこちらも動いている。だがいくら何でも急すぎるだろう!?」

「そうよ!こっちだって色々と都合があるんだし、ヨーゼフ(・・・・)にも(・・)アレマニア(・・・・・)にも(・・)伝えなくちゃ(・・・・・・)ならない(・・・・)し!」

「なんと申されましても、もう選帝会議で(・・・・・)決まった(・・・・)こと(・・)。速やかにご決断と、ご退去を願いますぞ」


 言い争う声を普通に無視して、ノックもせずにエッケハルトがそっと開いた扉の中には、リン宮中伯に詰め寄るルートヴィヒとエーリカの姿がある。どう見ても異常事態だし、何やら聞こえてはいけない単語がポンポン聞こえてきて、思わずシャルロッテは執務室に駆け込んだ。


「どうなさったの皆様!?一体何が起きているのですか!?」


「あっロッテちゃん!」


 親しい顔を見つけて一瞬パッと笑顔になり、次の瞬間にはマズい所を見られたと気まずそうに顔をそらすエーリカ皇女。


「ああ、久しいなアスカーニア公女。お見苦しくて申し訳ない」


 ルートヴィヒ皇子は済ました顔で、かつての婚約者を公式名(・・・)で呼ぶ。そもそもこの修羅場に居合わせるよう彼女を呼んだのは彼自身なので、当たり前のように平気な顔をしている。


「これはこれは、息災のようで何よりでございますな、辺境伯(・・・)夫人(・・)


 そしてリン宮中伯はシャルロッテのことを肩書(・・)で呼んだ。確かに辺境伯に嫁ぐよう言われて追放されたから間違ってはいないのだが、実際にはまだ婚姻式どころか届け出も済んでおらず、あの断罪劇の()()居なかった(・・・・・)リン宮中伯がその事を知っている(・・・・・)はず(・・)がない(・・・)のに。

 確かにシャルロッテが婚約破棄されたことはこの10日あまりで知れ渡っているだろうが、まだ実態もないのにリン宮中伯が当たり前のように受け入れている事実には違和感しかない。


 そして、その違和感をシャルロッテが見逃すはずはない。


「リン宮中伯」

「何ですかな、辺境伯夫人」

「わたくしがルートヴィヒ皇子ではなく辺境伯閣下に嫁ぐと、なぜ(・・)知っている(・・・・・)のですか?」

「え、それは━━」

「確かにあの記念パーティーでわたくしはこちらの」


 そう言ってシャルロッテは右掌を上にして自分の隣を示す。

 それを受けて扉の影からアードルフが姿を現した。


「ブレンダンブルク辺境伯アードルフさまの元へ嫁ぐよう、ルートヴィヒ殿下から仰せつかりました。ですが実態としてはこの先どのように事態が転ぶか分からず、アードルフさまともご相談して状況の推移を見守っていたところです。

なのになぜ(・・・・・)、宮中伯はわたくしが彼に嫁ぐと知っているのですか?」


 ぐっ、と言葉に詰まるリン宮中伯。彼だってシャルロッテに内密に事を進めて、それをまだ明かして(・・・・)いない(・・・)という負い目があるので、あまり強くは出られなかった。


「ちょっと皆様、そちらへお座りなさい」


 その宮中伯の逡巡を見て、さてはコイツも(・・・・)グルか(・・・)と気付いてしまったシャルロッテである。そうなるとこの場にいるエーリカだって無関係ではないだろう。

 ということで、彼女は執務室の傍らに据え付けてあるテーブルセットを指し示す。東方世界からわざわざ特注して取り寄せた最高級紫檀(ローゼンホルツ)のテーブルに、総天鵞絨(ビロード)張りのソファが並べられている。


「えっわたくしも?」

「もちろんエーリカ殿下もです。それにアードルフさま」

「あ、はい」

「エッケハルト卿も」

「ですよねー」


そうして全員が大人しく着席してから、シャルロッテは冷たい声で宣言した。


「皆様、知っていることを洗いざらい(・・・・・)お話頂けます、わ、よ、ね?」

「「「「「はい…」」」」」


 今までに見たこともないようなシャルロッテの圧に、誰も逆らえなかった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「はぁ………。(あっき)れた」


 額にほっそりした形の良い手指を当てて、もはや感情を隠そうともせずに、シャルロッテは盛大にため息をついた。


「話を整理しましょう」


 彼女はおもむろに顔を上げ、そこにいる(・・・・・)全員(・・)を蔑むように睨めつける。


「そもそもの発端は、ローゼマリー(あなた)がわたくしのうわ言を聞いてしまった事にある、と」

「は………はひぃ………」


 ビクリと肩を震わせて、ローゼマリーが縮こまる。


「それをゾフィー経由でお父様がお知りになって、ルートヴィヒ殿下に全部(・・)報告した(・・・・)と」

「う、うむ……」

「まあそういう事だね」


 汗を拭きつつ答えるグントラム。

 ルートヴィヒは澄ましているが、初めて見る彼女の憤怒に内心ビビりまくりである。


「で、殿下はそれを面白がって(・・・・・)、ローゼの計画通りに婚約破棄することにして、」


 シャルロッテが睨んだ先には皇帝夫妻。


「両陛下もノリノリでお認めになった、と」

「だ、だってロッテちゃんが幸せになるならとわしは」

「そうよ、ロッテちゃん(あなた)のためだもの」

「そんなこと、わたくし一言も頼んでおりませんけれど?」

「「ヒィ!?」」


「さらにそれにエッケハルト卿、」

「あはは…」

「リッペ宰相」

「ま、まあなんですな、その」

「リン宮中伯」

「う……うむ、まあ」

「あなた方まで加担してどうするのです!」

「「「め、面目ない………」」」


「そしてハインリヒ殿下、エーリカ殿下、あなた方も呆れはしたものの止めなかった、と」

「いやまあルーがああなる(・・・・)と止められんしな」

「でもルーったら最後の詰めが甘いとこあるから、何かあればわたくしがフォローしよっかな、って」


「その結果が両陛下の(・・・・)廃位と(・・・)ヴァイスヴァルト侯(・・・・・・・・・)()入り婿(・・・)即位(・・)ってどういうことですの!?」







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