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25.あくまでも彼女抜きで話が進む

 シャルロッテがホーエンス城へやってきたその日の深夜のこと。一騎の騎竜が密かにホーエンス城を訪れた。

 訪れたのはエッケハルトだった。彼はルートヴィヒからの密書を携えてきたと言って、城主ブレンダンブルク辺境伯アードルフに密談を申し込んだのだ。


 その密書には、シャルロッテが密かにアードルフを慕っていること、それに気付いた妹のローゼマリーがシャルロッテとアードルフをくっつけて、彼女の婚約者ルートヴィヒ皇子を奪う計画を立てたこと、それが彼女の書いたメモから露見したこと、そうと分かったからには公爵家も皇帝家もシャルロッテの望みを叶えてやりたいが、政府や議会の承認が得られないであろうことからあらかじめ各所に根回しをした上でひと芝居(・・・・)打った(・・・)のだと、簡潔ながらもひと通りまとめてあった。

 ちゃんとルートヴィヒの署名入りの、皇室専用の透かし印入りの便箋で、蝋封も第二皇子の御印(みしるし)であり、本物であることに疑いはなかった。


 そう、エッケハルトの文面案は結局却下されたのだ。ルートヴィヒは信用度を上げるためにわざわざ皇室専用の便箋を取り出し、自ら文面も考えて直筆でしたためた。

 そのために時間がかかって、結局深夜になってしまったわけである。



「その、これに書かれているのは全て事実なのですか………?」

「お疑いになるお気持ちも分かりますが、事実です」

「両陛下も、アスカーニア公夫妻も、主だった貴族家の皆様も、全てご存知だと?」

「その通りです」


 到底にわかには信じられない話ではあったが、確かに彼女(シャルロッテ)は婚約破棄されて辺境伯へ嫁げと追放されたのだと言っていた。話に矛盾はないし、これほど広範囲に根回しをしていたのなら彼女に瑕疵が付く心配はほぼしなくていいだろう。

 だが、それならそれで………


「ですがこの件で、殿下をはじめ我らはひとつミスを犯したんですよね」

「ミス?とは?」

「辺境伯閣下への根回しを忘れていたことです」


 アードルフが純朴で性根の素直な性格なのは付き合いのある貴族なら誰でも知っていることで、彼にあらかじめ伝えることで彼の表情や言動から勘の鋭いシャルロッテに露見しかねなかったこと、そのために根回しのタイミングを図りつつ、そのまま失念してしまったことなど、エッケハルトは口頭で詳細に語った。

 だが彼は、というかルートヴィヒも含めてだが、誰もアードルフの(・・・・・・)恋心を(・・・)確認(・・)していない(・・・・・)ことにまだ気付いていなかったりする。実は両片思いだった、などというのはあくまでも奇跡的な偶然でしかなかった。


「………分かりました。この件とアスカーニア公女の身柄はこちらで引き受けましょう」

「そうですか、良かった。貴方に受け入れて貰えなければ計画が根本から破綻する所でした」

「ただし、条件がある」


「いいでしょう、承ります」

「必ず近いうちに皇宮に呼んでいただくこと、そしてその際に全てを詳細に話して頂きたい。もちろんアスカーニア公女も同席の上でです」

「ああ、それなら当然のご要望ですから、もちろんその機会を設けさせていただきますとも」

「あと婚約破棄はルートヴィヒ殿下の有責ということにして、彼女に賠償をお支払い頂きたく」

「げっ、…………まあ、そうですね。了解しました」

「さらに彼女になんら瑕疵がないこと、徹底した周知をお願いしたい」

「それはほぼ済んではいますが、もちろん対応致します」

「あと彼女の主な私物は皇帝家の責でこちらにお運び頂きたい。特に衣服類は、明日の朝一で最低でも衣装鞄(コファー)ひとつ分は届けて頂かねば」

「………要求多いですねえ。でもまあ、了解しました」


 そうしていくつも約束(・・)させられて、エッケハルトは帰って行った。衣服のことがあるため、深夜ではあったが泊まるわけにもいかず、帰らざるを得なかった。

 まあ泊まったら泊まったでシャルロッテに見つかる危険性も高かったから、どのみち帰るしかなかったとも言える。



 こうしてアードルフは、この恋(・・・)が自分の片思いなだけでなく、シャルロッテの側からも慕われていた両片思いだと知ったのだった。だったらもう、遠慮も何も要らないではないか。

 ということで、それ以後ずっと彼は彼女を甘やかしっぱなしである。ただそれでも彼の羞恥がまだ勝っていて、半端な対応になり彼女に疑念を持たれてはいたが。


「だって!しょ、……初夜とか無理だろ………!」

(相変わらず肝心なところでヘタレじゃのう、このバカ(ボン)は)

「………何か言ったか、ヘルマン?」

「いいえ、何も?」







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