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19.仕掛けた側へのネタバラシ

 涙を流してその場に座り込み、その状態のまま顔を上げてポカンとしつつ頬をうっすら染めていたシャルロッテが、皇城警護の騎士たちに促されて退出していく。フラフラと歩く彼女の後ろ姿が、心なしかフワフワと(・・・・・)しているように見えるのは気のせいだろうか。

 彼女の姿が大ホールを出た途端に会場の全員がザワザワと今見たものについて話し始め、とても卒業を祝うパーティーの雰囲気ではなくなってしまう。それで皇帝フリードリヒ4世が場を収めるために一旦解散を宣言し、結局パーティーはお流れになった。

 皇帝は後日改めてパーティーをとり行うと約束していたが、果たしてやる意味はあるのだろうか。


 ザワザワと囁きあう参加者たちは、だがルートヴィヒにも両陛下にも問いただすような不躾な真似はしない。もしもこの時、彼らに直接確認するような猛者がこの場にいたなら、おそらくその時点でローゼマリーに全部(・・)バレていた(・・・・・)と気付かれることになっただろうが、そんな事にはならなかった。


 パーティーがお開きとなったため、卒業生やその保護者たちは慌ただしく退出していく。聡い者たちはこれからまだ(・・)何かある(・・・・)と気付いており、さほど聡くない者たちも今後どうなるか読めないため家中で協議するために、帝都の公邸あるいは領地へ向けて帰って行く。


「さ、僕たちも部屋を変えよう」


「へ………?」


 全部終わった、やり切ったと思って半ば放心しているローゼマリーにルートヴィヒが声をかける。


「ローゼマリー嬢、ついて来てくれないか。別室で改めて話がしたい」


 そう言われて、半ば夢見心地ながらもローゼマリーはしっかりついて行った。



「さて、では聞かせてもらおうかな」


 ローゼマリーを伴って中央教棟四階の応接室にやってきたルートヴィヒは、彼女にまずはソファに着席するよう求めて自分もその向かいに座った上で、ニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべて彼女に告げる。

 いよいよここからは、仕掛人(ローゼマリー)へのネタバラシである。


「君の立てた計画(・・)を、改めて全部私に聞かせてもらえるかな?姉思い(・・・)の可愛いローゼマリー嬢?」


「殿下、計画とはなんのことでしょう?わたくしはとんと身に覚えが━━」

「ないんだ?」


 まず最初にポカンとして、それから驚きの表情を浮かべ、すぐさま取り繕ってとぼけようとするローゼマリー。それをバッサリ一言で切って捨てるルートヴィヒ。

 ローゼマリーが驚愕に震え始めたのがよく分かる。本当にこの娘は感情を隠すのが下手だなあと、少しだけ呆れながらも好ましく感じているルートヴィヒである。


「ロッテの想い人って、ブレンダンブルク辺境伯のアードルフ卿なんだってね?」


「ロッテは子供の頃からずっとアードルフ卿のことが好きだったのに、周りの大人たちが気付かなかったばっかりに僕の婚約者に選んでしまった。だから彼女はその想いを胸に閉じ込めたまま、今まで誰にも打ち明けなかった。

でも先月、彼女が寝込んでいた時、うわ言で呟いているのを君が聞いてしまったんだよね?」


 ルートヴィヒが言葉を重ねるほどに、全部バレてる!?なんでバレてるの!?と全身で驚愕するローゼマリー。

 その様子が内心おかしくてたまらないルートヴィヒ。


 エッケハルトが応接室に入室してきて、紙片を一枚ルートヴィヒに握らせて、そのまま壁際で待機している侍女や護衛の列に並ぶ。

 ルートヴィヒは応接テーブルに隠すようにして紙面をチラリと確認した。


 そんな彼の様子にも気付かずに、全部バレてたとようやく悟ったローゼマリーがとうとう声を上げた。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「で、ではその、わたくしが書いたメモから全部お知りになったと………?」

「うん、そうだね。全部見せてもらったよ」

「そ、そのメモを殿下は父から(・・・)見せられた(・・・・・)のですか………?」

「いやあ、アスカーニア公の慌てっぷりが面白くてね」

「そして父はゾフィーからそのメモを見せられたと………?」

「君、メモをいつも書物机に残したままなんだってね?ゾフィーさんはいつもそれを見て君の意に沿うように参考にしてたらしいよ」


「い、今までのことも全部(・・)知られてた(・・・・・)のですかぁ━━━!?」

(まさかゾフィーが全部全部知ってただなんてーーーーっっっ!!)


 あまりの恥ずかしさに、とうとうローゼマリーは両手で顔を覆って突っ伏してしまう。


「まあ僕らが知ってるのは今回の計画の事だけだから安心して?」


(ひとっつも安心できませんわ殿下ぁ!だってお父様やゾフィーたちには少なくとも全部知られてるってことだもの!)


「だけどまあ、今回の件に関して言えば知ってるのは僕だけじゃないから。というか、君たち姉妹以外の全員が(・・・)知ってる(・・・・)からね?」

「ウッソぉ!?」


 今さら知った驚愕の事実に、ローゼマリーが真っ青になってカタカタ震え出す。


「ぜ、全員が知ってる………?」

「うん。僕や両陛下はもちろん、姉上や兄上やヴィルへルミナ様も、皇妃(側妃)のおふたりも」

「皇室の皆様も!?」

「帝国政府も議会も」

「政府の方々も!?」

「選帝会議の会員も」

「諸侯のお歴々も!?」

「あと余計な批判や忠言が出るのも煩わしいと思って、学舎の教職員や今回の卒業生、在校生、その保護者たちにも知らせてある」

「学校関係者全員が━━!?」

「あとそれに付随して、主だった貴族家には全部周知してあるよ」

「それって国内全部にバレてるじゃないですかぁ━━━!!!!」


 穴があったら入りたい、いやもういっそ存在ごと消えてしまいたい。こうしてこの件は、ある意味でローゼマリー一生の心の黒歴史(キズ)になった。


「だから結局、今回このことを知らなかったのは君とロッテと、あと他には………」


 ふとルートヴィヒの言葉が止まり、突っ伏していたローゼマリーが訝しげに顔を上げた。

 何故かルートヴィヒが青い顔になっている。






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