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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その48 忘却の報い

作者: 天城冴

火力発電所が地震による被害をうけ停止。電力不足で節電がいわれるなか、暖房の効いた部屋で政治家のタマキギは原発再稼働を進めようと画策するが…

3月も末だというのに、雪もちらつく中、暖房の効いた部屋で一人の男性が意気込んで話していた。。

「“地震のため、火力発電所が稼働停止。復旧まで一か月程度。真冬の寒さに逆戻り電力ひっ迫”、これで原発再稼働への道筋ができるぞ。さっそく各所に働きかけをしてほしい」

『その、タマキギさん、いくらなんでもそれは…。11年前の事故もありますし』

受話器の向こう側の声はタマキギの要請に難色を示していたが、タマキギは。

「何をいう、今がチャンスだ!与党ジコウ党に対する建設的提案だし、正論だという声もあるし、次の選挙で…」

まくし立てるタマキギの声を

“もう忘れたのかのお?”

老人の声がいきなり遮った。

「え?何か言ったか」

『ザザ…いえ、…よく…』

「電波障害か、停電の影響で…やはり原発の再稼働…」

“やはり愚かなんじゃな”

“地震で一番もろいのって原発だろ”

“地盤がゆるゆるのところに立ってるところもあるしさあ”

“活断層があるところもあるよねえ”

老若男女の嘲るような声が一斉に聞こえてくる。

「な、なんなんだ!このスマホ、壊れてるのか!」

いらだつタマキギの後ろから

“声がする方もわからないなんて、やっぱりおバカななんだね”

からかうような青年の声。

“あんなひどいことがあったのにもう忘れてるんだ”

馬鹿にしたような子供の声。

“私たちの苦しみなんてわかってないのよ”

恨めしそうな若い女性の声。

“儂がどんな思いで首をつらにゃならんかったか、わからんのか”

嗚咽のまじった老人の声。

「い、いったい、なんなんだよ」

周りには誰もいないはず…

いつの間にか部屋の照明が落ちていた。

「て、停電か、こ、ここは議員会館だぞ!国の中枢が、ど、どうして」

“国民は停電して寒さの中、凍えてももいいけど、政治家は安全なところでぬくぬくとしてていいんだあ、ずるいよね”

“この人、お偉い政治家で、国民なんたらの党首のくせに、ちっとも国民のためのことは考えてないんだねえ”

“議員として食っていけりゃ、いいんじゃろ。ふん、お偉い政治家様は儂らの生きがい、土地も仕事も守っちゃくんねんのか。国を守るって、国民を守るってことで金をもらってるんじゃねえのか”

“ただ、議員になれればいいんでしょう?原発ムラだっけ、ああいう人たちからお金と支持をもらって、大臣とかになれればいいだけ。国民のためとかいいながら、自分の利益、議員の椅子が一番大事。私たちなんてどうなってもいいから、再稼働、なんて無責任なことがいえるのよねえ。事故が起きても自分たちは安全だから”

“本当は電気不足なんて、嘘。余計なことに使わなきゃいいだけでしょ、へんな照明全部消しちゃえ、テレビもいーらない、嘘ばっかりだから”

“そんな当たり前のこと言ってもダメだよ。この人たちは原発を動かす口実が欲しいだけ”

“原発が大好きなのか、そんなら、さあ、再稼働して事故が起こったら、どうなるか身をもって体験してもらったほうがいいかもね”

“事故の処理作業の現場体験とか?”

“そんなもんじゃ、ぬるい、ぬるい。儂らの苦しみを思い出させるために、もっと強烈なことがよかろう”

“そうだねえ、11年前じゃなく、前にもヒドイ事故起きたよねえ。手当もできずに、数か月、ただ、苦しんで死んだ人が”

“そうだねえ、それぐらいかな”

楽しそうにいう子供の声

「お、お前たちは何なんだ、ま、まさか…あの原発事故関連の死者…、そ、そんな」

恐怖と驚きに顔をゆがめるタマキギ。

“やーっと思い出してくれたあ”

“でも、ダメだよ、再稼働なんて口にしちゃったから”

「な、何をする気…」

強い何かを浴びてタマキギの意識は途切れた。

「た、タマキギさん、大丈夫ですか!いきなり、電話が切れたから!心配しましたよ!万一のことを考えて、お医者さんにもきてもらって…」

慌てて部屋のドアを開けた男は驚愕した。

 部屋のタマキギが座っていた近くに、何かが倒れていた。その黒い塊に駆け寄ろうとした男は、一緒にきていた医者に制止された。

「き、危険です!こ、これは、ひょ、ひょっとしたら、大量の、ほ、放射線が、いや、そんな馬鹿な!し、しかし、理論上ではこんな風に」

「せ、先生、何を言ってるんですか!タマキギさんの部屋に放射線って、そんなはず」

「その、私も実際に見たことはないのですが、この症状はおそらく人体の許容量を大幅に超えた危険なレベルの放射線を浴びたものかと。ほ、放射線量を確かめて、」

「た、タマキギさんは?…ま、まさか、この塊がタマキギさん!」

「そ、そうではないかと。あの11年前の原発事故の燃料デブリを取り出すために人が近づいた場合、そんなふうに死んでしまうのではないかといわれています…、かなり苦しかったのか、それとも一瞬で」

「ひいいい」

と倒れそうになる男性。

「し、しっかりしてください。い、急いで専門家を、いや、この部屋からでたほうが」

男を抱えて部屋から出る医者の耳に、背後から微かな笑い声が聞こえた。


喉元過ぎれはなんとやらといいますが、いまだ解決の道筋もついていないような大事故の反省もせず、それによる多大なる影響も忘れてしまう方々が政治家とかやってる国ってのはかなり危ないんじゃないですかねえ。ついでにいうとその国は地震大国のうえ、原発はかなり地震に弱いらしく、本体どころか外部電源がダメになっても、終わっちゃうらしいんで火力発電とかより安定しない電力のようですが。

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