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 その声を聞いた七海が笑い出す。


「『ひゃうっ』だって、かわいい」


「お、お前が変なことするからだろ」


「変なこと……?もしかして、これ?」


 耳にわざと息を吹きかけられ、またも僕は情けない声を上げた。


「そそそ、それ!」


 耳を手で何度もこすりながら、そのくすぐったさを取ろうとしていると、自分の耳が熱を帯びているのがわかった。頬以上の熱をもつそこが、赤くなっているのが容易に想像できた。


 急に恥ずかしくなり、両耳を塞ぐようにしてそれを隠すと、七海が僕の手を耳から離そうと、手を掴んできた。


「これがダメなんでしょ?もう一回する!」


「やーめーろー!」


「いーやーだ!」


 七海は必至になって手を離そうとしてきたが、あまり力は無く、手は耳から離れない。


「そんなんじゃ、離せないよーだ」


 勝ち誇ったように僕がそう言うと、七海は手を離した。


「じゃあ、こうする」


 頭をこちらに向けて一気に突っ込んでくる。


 頭突きだった。


「ぬおおおおおおおおおお、させるかあああああ」


 アニメのような台詞を吐きつつ、避けるために僕は立ち上がった。


 バカだった。


 学習能力がないと言い換えたほうがいいのかもしれない。


『立ち上がると頭をぶつける』


ということを、数日前に頭をぶつけた時に学んだはずだったのに、また同じことをした。


 律儀にも前回とまったく同じ場所をぶつけた瞬間に『ここで立ってはいけなかった』と思った。しかし全ては遅く、頭を強打した僕は椅子の上で頭を抱えたまま、うんうんとうなる羽目になった。


 じんわりと溢れてくる涙を、歯を食いしばりながらこらえる。『こんなのは大したことはない。全然効いていない』と自己暗示をかけるように、心の中で何度も同じ言葉を繰り返す。


「大丈夫?」


 七海のその言葉を聞いて、怒りが湧いた。


 お前のせいでこうなったのに、謝らないなんてどういうことだ。


「ひっさんって、私がここに来ると毎回頭ぶつけるよね」


 そう言ってきた彼女に、無性に腹が立った。


「お前のせいじゃん!」


 拳を椅子の手すりに振り下ろす。


 ゆっくりと目を開いて、七海を見ると、泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。


「お前……が」


 これ以上の言葉が出てこなかった。


 女の子を泣かすことがかっこ悪いと思っていたせいもあるだろう、けれど、それ以外にも理由はあった。


 視線が合うだけで、うまくしゃべれなくなるのだ。

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