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 見られる、という行為がこんなに恥ずかしいと思ったのは初めてだった。どうしてそうなってるか、わからなかった。


「……もういいや」


 膨らんでいた怒りは急速にしぼんでしまい、たたきつけた拳をさすりながら、座りなおす。


「ごめんね」


 七海はぽつりとそう言うと、顔を両手で覆う。


「別に、いいって」


 めんどくさそうにそう答えた後に沈黙が降りてきた。


 七海は肩を震わせながら必至になって溢れてくる涙を拭くが、とめどなく溢れてくる水滴を止めることはできない。何かを言いたそうにしていたが、言葉を紡ごうとすると、それは空の咳となってしか出てこなかった。


「こっちこそ、ごめん」


 ふいにその言葉が口から出た。


 ポケットからハンカチを取り出し、七海に渡す。


「あ……りが…と」


 その時に、僕は彼女の瞳を覗いた。


 水晶のような澄んだ瞳に、自分の姿が映っている。困惑し、何も言えないでいるかっこ悪い男。女を泣かした最低な男。


 彼女の瞳を通して、自分のかっこ悪さを感じ、怒りが湧く。


「ねえ、ひっさん」


 瞳の中の自分と対話が、七海の一言で途切れた。


 ハンカチを広げて両の目尻を拭きながら、彼女は僕の名前を呼んでいる。


「なに?」


「ごめんね」


「もういいって」


「だって、さっきのひっさん、すごく怖かった」


「……頭ぶつけたから、痛くって」


「頭、大丈夫?たんこぶになってない?」


「わかんないけど、多分大丈夫。こんなの痛くない」


「本当に、ごめんね」


「もういいって」


「ハンカチ、洗って返すね」


 涙を拭きながら七海はそう言ってポケットに僕のハンカチを入れた。


「いいって、返せよ」


「そのぐらいはするよ。ねえ、そういえばさ」


「なんだよ」


「ひっさんさ、火曜日と水曜日はここに来てるでしょ?」


「なんで知ってるんだ?」


「ふーん、やっぱり」


「やっぱりって……なんで?」


「だってさ、火曜日と水曜日は仲のいい八木君とか瑞浪君とかと、ダラダラせずに適当に言い訳してさっさと帰っちゃうからさ、もしかして、って思って」


 どうやら、彼女はここの存在を知ってから、僕の行動を観察していたようだった。


「そんなにわかりやすい?」


「うーん、わかりやすいといえばわかりやすいけど、誰も疑問をもってないと思う」


「そういえば、お前、ここのこと誰かに話した?」


「話してないよ」


「そっか、絶対に話しちゃダメだからな」

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