始まり
それは、幼い頃の出来事。
僕が、まだ子供の時。
君にいつも守られていたとき。
あのときの僕はとても幸せで、たのしかった。
でも、ある時、それは変わったんだ。
君に、守られたあの日、、、、、
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その日はいつもの様に僕とナナミとで村の外れで遊んでいた。
それはいつもと変わらない風景。
でも、そんな時、僕は突然野犬に襲われたんだ。
僕はびっくりして、それでただただ怖くて、何も出来なかった。
がたがたと、震えていることしか出来なかったんだ。
もう、ダメだ。死んじゃう、殺されちゃう、僕がそう思ったときに、君が颯爽と現れて、僕を助けてくれた。
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厳密に言えば本当に助けてくれたのは、その後すぐに来た大人達ではあった。
けれど、あのとき、あのタイミングでナナミが来てくれなかったら、
木の枝を持って、僕と野犬の間に立って、犬に威嚇していなかったら
僕はきっと野犬に噛まれて大怪我をしていたか、下手すれば死んでいただろう。
僕は、そう思っている。
だから、あのとき僕を助けてくれたのはナナミなんだって。
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僕にとってとてつもなく衝撃的な事件だった。
何が衝撃的だったかって、僕と、歳がそう変わらないナナミが、あの怖い野犬に立ち向かっていったのだから。
しかも、それは僕を守る為。
その為に自分の身を危険に晒してただから。
僕は、本当に衝撃を受けた。
そして、
ナナミの勇気と行動力にも驚いたけれど、その時、同時に感じたのは、自分の余りの力の無さに、だった。
僕は、、、、なんて弱いんだ、、、、と。
だから、僕は、変わらなくちゃいけないって、そう、思ったんだ。
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その日が終わって直ぐ、僕は老師の元へ駆け込んで行った。
老師というのはナナミの家に仕える傭兵で、年齢は55歳くらい。元騎士団という触れ込みで働いているのを知っていた。
僕は何度かナナミの家に遊びに行くたびに、その老師は本当に強い人なのだと感じていた。
だから、強くなりたい、と思った時に、迷わず老師の元へ行ったんだ。
この人に教われば、僕は強くなれるって、思ったんだ。
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老師は最初、剣を教えてくれなかった。
でも、何度も何度も何度も何度も何度も、
何度も頼んで、頼んで、頼んだことで、
老師の心が動いたのだろう。
「お主、それほどまでに強くなりたいのか」って。
そして
「ならば、仕方ないの」
と、言って、その日から僕に剣を教えてくれるようになった。
そして、僕はその日からずっと、毎日毎日毎日剣を振るっている。
それは、なりたい自分になるため。
それは、ナナミを守れる自分になるため。
それは、ナナミに、頼られるくらい、強くなるため、、、、、、、、、、
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ガラガラガラガラガラガラ
馬車は街に向かって街道を走っている
ガラガラガラガラガラガラ
馬車には2人の男と1人の女が乗っている
ガラガラガラガラガラガラ
老師「はて、なんで今日は街に行くんじゃったっけ?」
そとの風景に飽きた老師がナナミに話しかける。
ナナミ「もう!老師!何度も何度も言わせないで下さい!私のドレスを買いに行くんです!」
ガラガラガラガラガラガラ
僕は馬の手綱を持ち先を見据えながら、背後の会話を聞いている
ガラガラガラガラガラガラ
老師「ドレスはもう何着も持っているだろう?」
ナナミ「持ってはいるけれど、次のパーティーは特別だから、もっと大人っぽいのが必要なんです!」
老師の素朴な疑問にピシャリ!と言い返す。
老師「それが良く分からんのう。別に大人ぶる必要はあるまい。」
ナナミ「老師には分からないんです。そういう配慮が!」
老師「そういうものかの」
ナナミ「そういうものなんです!」
老師の疑問にピシャリと答えるナナミ。分かりやすく解説する気は更々無いようだった。
そんな会話が続いている。
僕はそれを片耳で聞きながら、今回の買い物の目的を考えていた。
僕「確かに、目的はドレス、なんだろうけど、さ」
と、1人呟く。
目的はドレスでも、問題は、何故それが必要なのか?何故大人っぽく見せる必要があるのか、という事だった。
それは、分かっている。
それは、ナナミがパーティーに参加している他の貴族達に自分を良く見せるため、だ。
そして、何故良く見せる必要があるのか?
それは、ナナミが田舎の貴族の娘だから、
ナナミは、家のために、他の貴族との繋がりを持たなくてはいけない役割を持っているから、
つまりは
他の貴族と血族となるため。つまりは結婚するため。より、良い貴族に、選ばれるため、、、。
僕はこの買い物が複雑な気分だった。
いつもならばナナミとの買い物に出かける、というだけで心弾む、というのに、、、、、