魔王になりたい魔法少女は世界征服の夢を見るか?
薄れゆく意識の中で見えたのは、美しい景色なんかではなかった。
すべてが曖昧で混沌とした空間に黒い霧としか例えようのないものが漂っていて、
それは次第に何か人のような形を成していった。
私にはそれが何であるのか直感的にわかってはいた。
それでも私はそれを自らの意思で受け入れていた。
この時、唐突に思い出したのだ。
私のこれまでのすべての過去世のこと。
いつの世も十五に満たずして私は死んだ。
貧困や疫病、巻き込まれた戦争によって死ぬか、あるいは殺された。
いずれの生でも私は蔑まれ虐げられて、
人として扱われてはいなかった。
あの始まりの時空で、仕えた女神を裏切った私のこれは報い或いは呪いなのだ。
今生でもまた私は蔑まれ虐げられただけで、
何者にもなれないままに病気で死んでゆく。
だから、どのような手段でもかまわなかった。
この輪廻から逃れられるならばと。
そして私は黒い霧と契りを交わした。
それは救済などではない。
新たな呪いだった。
かりそめの命を得た私は十四歳で時を止めた。
こうして私は魔法少女になったの。
病気で死ぬ運命にあった私は悪魔と契約して生き延びて、
いくつかの魔法も使えるようになったけど、
今だって本当に生きてるのかと問われたらよくわからない。
生きながら死んでいるのかもしれない。
自分が死んだことに気づいてないだけの幽霊のような存在なのかもしれない。
だけど、
重要なのはそんなことではなくて。
悪魔と契約した代償に死後私の魂はその悪魔の物となってしまう、ということ。
過去世から繰り返される輪廻はこれで断ち切れる。転生する魂じたいが無くなってしまうのだから。
だけどこれは本当に私が望んだことだろうか。
私は考える。
悪魔と契約した以上、死後は地獄に落ちる。
私はそこで契約の悪魔に魂を奪われてしまう。
でも、
もしかすると、
戦って勝てば逆に私がその魔力を取り込み、私自身が悪魔になれるのではないか。
うまく悪魔になれたら地獄の悪魔を次々に倒して魔力を奪い、或いは倒した悪魔を配下に加えて、この私こそが強大な悪魔になってやろう。
地獄にはきっと世襲なんか無い。
下克上だ。
目指すべくは魔王の座。
どうして魔王に拘るのかを語ろう。
十四才のあの日、私が契りを交わしたあの悪魔こそ、
魔王だったから。
それは古の神話や伝承の中にいろいろな名前で語られているけれど、人間が決めた呼び名になんて意味は無い。
わかるのはそれが地獄または冥府や魔界と呼ばれる世界の主…つまり魔王であるということ。
だけど、何の力もない私が並居る地獄の悪魔と戦って勝てるわけがない。
ましてや魔王に辿りついてそれを倒さなければならないのだ。
だから私は、
探しているの。
前世の仲間であり、そして
共に戦う転生戦士を。
きっと過去世で、今生で、
私と同じように生きづらさを抱えて必死で生きているはずの、
私の仲間達へ、
覚醒の日は近い。
前世から一緒にいた私のこと、
きっと思い出してくれると信じてる。
その日が来るまでは、苦しくても普通の人間に擬態して、強くなるための修行と思い耐えてみせよう。
本当の強さが何か、仲間と一緒に探し求めてみたいな。
でもね、
辛かったら休んでいいよ。
休んでもダメなら逃げようよ。
逃げる場所さえ見つからないなら、
私と一緒に異世界いっちゃお。
世界ってね、ここだけじゃないから。
どこかの世界でまた巡り会えたら、
悪魔に生まれ変わった私に力を貸してね。
私が魔王になったら、人間界と天界へ侵略をしかけにいこう。
世界征服は魔王のお約束だから。
そして、
世界征服を果たしたら、祝杯を交わそう。
摩天楼から下界を見下ろし、
「愚かな人間どもよ」
と、言ってみたいでしょ。