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カグーが飛んだから  作者: 晴羽照尊
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エピローグ 『関係を織る』


 翌日。なにごともなかったかのような快晴の中、僕はいつも通りの時間に登校した。怯えていたのはたしかだ。きっと依木野さんが、あのいじめをなくしてくれたのだと思ったから。その彼女を振ったんだ。もしかしたらまた、いじめられるかもしれない。


「おー、奏多くんおはよー。数学の宿題見して」


 背後から猫なで声が聞こえた。そう言われると緊張する。去年のことをまた、思い出すから。


「今日は宿題、やってないんだよ」


 振り返らず言う。彼の顔が怒りに歪むのかもしれないと、思ってしまうから。だが「ちぇー、奏多使えねー」と暴言が降りかかる。それでもまだ、いつも通りの声色だ。


「奏多くん、おはようございます」


「……おはよう、依木野さん」


 また振り返らず答える。どうなるだろうと心配はしていたが、いつも通りだった。だから怖い。だから振り返れなかった。


 どころか俯く。僕は意外と芯の強い人間だと自負していたけれど、登校するまで気を強く持っていたけれど、どうもやっぱり、いじめられるべきカーストの人間だったらしい。


 誰かが歩いている。教室の前方だ。教壇にあがる。担任が来るには早すぎる。


「みんな。おはよう!」


 誰かが言った。知っている声だけれど、……そうだ、知っている。僕は顔をあげた。


「あ、終わった?」。「おかえり、輝夜」。「どうだったどうだった?」。女子を中心に声があがる。教壇に立つ、金髪の、目つきの鋭い女子に向けて。


「うん。……だめだった。……ごめんね、みんな、協力してもらったのに」


「そうなんだー」。「残念だったね、輝夜」。「ていうか輝夜振るとか、見る目ないよね」。声が徐々に進行方向を変え、僕に向かってくる。多少の遠慮はあるようだが、それでも如実に。「輝夜、超がんばったのにね」。「気引くために地味な振りまでしてさー」。「つーか奏多何様なわけ?」。また、逃げた方がいいかもしれない。今度こそちゃんと、死ねるように。この学校よりも高くへ。


 ばん! と爆ぜるような音がした。遅れて傷みが、後頭部を走る。


「あ、悪ぃ。奏多」


 悪びれもせず、だけどすこし声高に、彼が言った。頭に当てられたままのなにかを掴む。引き取ってみるにそれは、現代文のノートだった。


「宿題やってねえんだろ? それ、今日の宿題。……あとさー、数学手分けしてやんね? 俺前半やるから」


 僕は振り向いた。そこにいたのはいつかのような強面で、僕以外を睨みつける、かつての加害者だった。


「ふざけるな」


 僕は言う。


「後半の方が難しいだろ」


 それでも手は動く。僕はいつかの僕じゃないし、クラスもいつかのクラスじゃない。まずは現代文を写してしまおう。「おー、席つけー」。担任の声がする。ホームルームが始まる。


 依木野さんの方を見た。そこにいたのは金髪で目つきの鋭い女子生徒だった。彼女と目が合う。にっこりと微笑まれる。その意味ははたして、どちらだったのだろう?




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