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読書三昧の異世界スローライフ   作者: 小峰
港町での生活
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姉妹からのお誘い

 まだまだ魔法についての謎は多く残っている。けれど、俺には少しずつ答えに近づいている、そんな手ごたえもあった。

 それが今の最先端の研究と比べてどうか、ということは不思議なほど気にならなかった。

 

 仮に魔法や魔術に関する謎が解消されても、それ以外に学びたいことだって沢山あったからだ。

 そしてその分だけ、読みたい本も積みあがっていた。


 必要な本を探しているさなかに、面白そうな本を見つけてしまい、読書の予定表ばかりがどんどんと長くなっていく。

 今読んでいる本の文章を堪能し、知識を咀嚼しながらも、胸は次の本への期待で膨らんでいる。まあ、いつもながらの本好きの病気だ。


 そんなわけで今日も今日とて図書館だ。

 受付の前を通り過ぎるとき、すっかり顔なじみになった司書のおばちゃんに目礼をすると、おばちゃんは意味ありげに館内に視線を送った。


 (何だろう?)


 おばちゃんの視線を追うと、いつも座っている四人掛けの席にすでにアリアとリリアが来ていた。二人が先に来ているのは確かに珍しいが、なんてことはない。


 近づいて、二人に挨拶をする。


「おはよう」

 

 ごく普通の挨拶のつもりだったが、なぜか二人は驚いているようだった。


「ご、ごきげんよう……ホホホ、今日は早いのね」

 

 いつも自信ありげなアリアの声が上ずっている。どうも様子がおかしい。


「いやいや、二人の方が普段より早いよね……今日はどうしたの?」

「お姉さま」


 リリアが姉の袖をつかんでいる。


「わかっています。わかっていますわ」

 

 スーハースーハーと深呼吸を繰り返して、アリアは心を落ち着けようとしているらしい。一体どうしたというんだ?


「カディナ!」

「は、はい」

 

 アリアの妙な迫力に、俺は気おされてしまう。


「わたくし、この度ピアノの先生から銀時計をいただくことができましたの」

「銀時計? それってどういうこと?」

「銀時計というのは、先生からその生徒へ、教えることがもうないという印にいただくものです」


 なるほど、免許皆伝みたいなものか。


「へえ、すごいじゃない! アリアの歳でそこまで上達するなんて」

「お姉さまの先生は、プロのピアニストを何人も教えていた方だったんですよ」

「それじゃあ、アリアの腕前はプロと比べても遜色がないってことなんだね」

「あ、ありがとうございます……それで、その記念ということで、うちの両親が張り切ってしまいまして。お恥ずかしながら演奏会を開くことになったのです……です……ので、ええと……ええい! これを!」

 

 アリアが差し出してきたのは、一通の手紙だった。勢いで受け取ったはいいが、目の前にいるのに何故手紙?

 きょとんとしている俺を尻目に、二人は真面目な顔をして俺のことを見つめてくる。


「これ、開けても?」

 

 うんうん、と頷く二人の頭の動きがシンクロしていた。


 手紙は、封筒の裏に「カディナ様」とシンプルに宛名だけが書いてあった。封はされていなかったので、開けて中を読む。

 

 アリアが書いたのだろう几帳面な文字が並んでいた。

 その内容は演奏会へのお誘いだった。それで緊張していたのか……ちょっと意外だ。アリアのことだから、自信満々に誘ってくるかと思っていたのに。

 大勢の人の前で演奏するのは初めてなのかな? それとも招待状を手渡しするのが初めてだったのか。


「僕なんかが行ってもいいものなのかな?」

「いいから招待したんですわ!」


 そりゃあそうか。とはいえ、領主が主催して娘のお披露目となれば、お偉方が集まるのだろう。俺みたいな平民が一張羅で顔を出したら、どう考えても場違いじゃないだろうか? 


 ……でもまあ本人から誘われてるんだから、いいか。


 はっきり言っておくが、本を読んでいないときの俺の思考回路は自分でもどうかと思うくらい雑だ。せっかく誘ってくれたんだし、こっちの世界の音楽にも興味がないわけじゃない。

 本当にそれだけの理由で、俺は誘いを受けてしまった。


「うん、じゃあお邪魔しようかな。アリアの演奏楽しみにしてるよ」


 アリアとリリアの表情がパッと明るくなった。


「ええ、わたくしもさらに修練を積んで最高の演奏をお聞かせしますわ」

「わたしも、当日お会いできるのを楽しみにしています」

 

 本を読み終え、二人と別れて家に帰る。

 爺ちゃんのレッスンが始まる前に一応、今日のことを説明しておいた。


「お前はなんでそう、考え無しに貴族からの招待を受けてしまうんだ……」

 

 爺ちゃんはため息をつきながら、そう言った。


「だって本人から直接誘われたら、普通断れないだろ?」

「一旦預かって、わしらに相談するという選択肢はないのか?」


 すみません。一瞬たりとも考えていませんでした。


「……ごめん、考えもしなかった」


 正直に告白すると、爺ちゃんのため息はさらに大きくなった。


「まったく……で? 開催はいつになっとる?」

「一週間後だね」

「ならギリギリ間に合うな。婆さん!」


 キッチンから顔を出した婆ちゃんは怪訝そうな顔をしていた。


「一体なんですか? 大きな声を出して」


 爺ちゃんがかくかくしかじかと説明すると、婆ちゃんまでが大袈裟なため息をついた。


「まあ、普通に生活していたら貴族と関わることはあまりないですから仕方ないでしょう。無下に断らなかっただけ、よしと思うしか……」

「そうだな、では明日は朝一で仕立て屋に行くからな」

「ええ、手土産はなにがいいでしょう?」

「貴族相手に平民が手土産など持って行っても失礼にあたるだろう。受け取ってもらえたとしても失笑をかうのが目に見えておる。それより言葉遣いはまだしも、作法を教え込まんと」


 あれ、意外と大事になってる? 俺は今更ながらに不安になってきた。


「ねえ、この演奏会さ、二人も一緒に来てもらってわけには」


『無理』


 ですよね。招待状は一枚しかないし、そこにははっきり「カディナ様」と書かれている。


「目立たないように端っこで大人しくしておいて、終わったらすぐ帰ってくるというわけには」

「バカもん! お前は一体だれから招待を受けたと思ってる?」

「アリア」

「当日はアリア様、な。で、そのアリア様は今回の主役なのだろう? だとしたら挨拶もせずに帰れるわけがなかろう」

「お説ごもっとも……」


 過去の俺のがバカすぎる件について。本当に前世で社会人やってのかすら怪しく思えてきた。ここ一年ちょっとは読書三昧で気が抜けていたのもあると思うけど。


「とにかく、これからはわしと婆さんでお前が貴族のパーティーに出席しても恥ずかしくないよう、みっちりとレクチャーしていくから、そのつもりでな」

「はい……」

会話文の改行で迷ってます。

会話が続いている間は詰めちゃったほうがいいのか、全部一行あけたほうがいいのか……

前回、今回と会話文が多いので一行あけにしました。

※詰めることにして、修正しました。以後は統一します。申し訳ありません。


次回は、演奏会の準備です。

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