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読書三昧の異世界スローライフ   作者: 小峰
魔術学院
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口答試験

長いセリフが多く、読みずらかったので、今回に限り会話文の間に空行を設けています。

「ええと……」「それは……」


 バールとジャンは、学院長から出された問題に、明らかに戸惑っていた。それはそうだろう。

 魔力の本質、その正体を解き明かした者は今まで誰もいない。となれば、当然、学院長自身もその回答を知らないのだ。あるいは、何かしら彼が強く信奉する説はあるのかもしれないが……


 戸惑いながらも、バールとジャンは俺よりも先に答えなければと思ったのだろう。

 さっきまでの自信には陰りが生じていたが、それでも一生懸命に話し始めた。


「魔力は、魔術を起動させ、魔法を使うための不思議な力です」


 ジャンの言葉に、バールが続く。


「そう、そしてコルネリオ=アノによれば、それは空気中を漂っているものです」


「それだけでなく、魔力は私たちの中にも存在しています。ジェムを使うときには、魔力を流しますし、自分の魔力で魔法を発動することもあります。ですが、魔力の本質というものは、まだ解明されていません」


 二人の言葉がそこで途切れると、学院長は満足そうに頷いた。


「二人とも、よく勉強しているようだ。今判明していることの全てではないにしろ、必要な知識は揃っているようだし、よくまとまっている」


 褒められれば、二人は歳相応の無邪気な笑顔を見せた。そして、自分達の家庭教師が元宮廷魔術師だとか何とか一しきり自慢をすると、「どうだ」という顔で俺を見た。


「さて、では次はカディナ君の番になる。君は魔力の本質に関してはどう考えているのかね?」


「僕は……入学の際の論文にも書きましたが、もしかしたら、これから話す中で論文とは食い違う部分が出てきてしまうかもしれません……」


「もちろん、構わないとも。人の考えというのは、変わるものだからね」


「太古の昔、哲学者は世界を四つの要素からなる積み木細工のようなものだと考えました。この世の全ては、目に見えない小さな粒の組み合わせによって出来ているのだと。これが原子論です」


 いきなり大昔の話を始めた俺に、バールとジャンは遠慮なく冷笑を浴びせた。とはいえ、本題はここからだ。


「原子論は歴史の中で、何度か形を変えながら変奏されていますし、今でも熱心な研究者はでしょう。僕は、この原子論を採用することで、ある種の自然現象が無理なく説明できるようになるんじゃないかと思っています」


 曖昧模糊とした説明になってしまったが、この世界でブラウン運動や、それに類する現象が発見され、その原因までが特定されているかは分からない。詳しく説明して、なぜそんなことを知っているんだと突っ込まれたくはないので、そこは濁すことにした。


「おい、お前は魔力の話じゃなくて、科学の話しをしているじゃないか」


 ジャンの言葉に、俺は首を縦に振る。そう、まさに俺は今科学の話をしている。


「でも、この説明が重要なんです。なぜなら、魔力はそんな風に科学的に規定された現実に、影響を与えています。原子論にのっとって言えば、術式によって発動した魔法は、原子の配列を組み替えるわけです。だとすれば、魔力と原子には密接な関係があるはずではないですか?」


「ということは、魔力もまた、そういった粒子から出来ているということになるのかね?」


「それについては、僕もどう考えていいのか迷っています。化学物質に関しては、かなり厳密に数学的な原理に従っています。ですが、魔力に関してはそれよりもずっと自由に振舞っているような気がして……例えば、魔力は原子とはまた別種の粒子という可能性はあるかもしれません」


「いや、仮に原子論を採用するにしても、原子と魔力でその成り立ちが違うのなら、魔力が粒子である必然性はないのではないかね?」


「ええ、ですが目に見えない極小の原子に干渉するなら、魔力の方もそれに見合ったスケール感だと考えた方が自然に思えます。ビーズの詰まった小箱から、一粒だけ取り出すよう言われたら、誰だって自分の指よりはピンセットを使った方が楽でしょう」


「なるほど……話は戻ることになるが、どうして魔力は自由に振舞っていると思ったのだろう? ジェムによって魔術にも再現性が生まれたのではないかな?」


「ジェムは、一つにつき一種類の魔法しか発動できない、本格的な魔術師にとってはあくまで補助的な道具です。僕は、サルティの図書館で呪文の事典を読んだのですが、とても分厚い本で、膨大な数の呪文が存在することに驚かされました。それ以上に驚いたのは、そこに何ら一貫性や法則性が見出せなかったことです。それまで僕は、魔法の効果を決めるのは術式の完成度だと思っていたので、これには驚きました。もしかしたら魔法にとっては術式よりも、魔力の性質の方がより重要なのかもしれません」


「……少し待って欲しい。だとしたら……いまだに魔術に統一的な理論が打ち立てられていないのは、そもそもそんなものはないから、ということになるのかね?」


「いえ、そこまでは……というか、そこがこの説の弱いところなのです。実際に魔術を行使するとなった場合、強力な魔法には複雑な術式が必要なのは明らかです。呪文に関しても、僕の分析が甘かっただけかも知れません。現状で僕が言えるのは、魔力というものは機械的に働くこともできるし、もっと柔軟かつ複雑に機能することもできる、粒子状の何かではないか、というくらいです」


「実に面白い推論だ……だが実証されているものは何もないし、君の今の結論はほとんど何も説明していないに等しい、そうじゃないかね?」


「そう、認めざるを得ませんね」


「よろしい。では、採点に移るとしよう。バール君、ジャン君、それにカディナ君、三人ともが魔力の本質を解明するには至らなかった。だが、バール君とジャン君が、家庭教師や教科書から得た知識をただそのまま説明しただけなのに対し、カディナ君は自ら知識を取捨選択し、それを統合して斬新な考えを示した。しかし当然、カディナ君は間違っているかもしれない。いや間違っている可能性の方が高いとすら言えるだろう」


 学院長の言葉に、バールとジャンが熱心に頷いている。まあ、そりゃそうだ、と俺ですら頷きそうになったくらいだ。


「だが、それが何だというのだろう? 君たちはまだ若い、いや幼い。間違いを犯したのならば、それすらステップにして前へ進むことが出来る。エリグール魔術学院の生徒であるならば、それが出来なくてどうする? 入学式で言ったはずだね、過ちを恐れるなと、そして君たちがこの部屋に入ってきたときにも言ったはずだ、与えられたものをただ受け入れるだけではダメなのだと。バール君、そしてジャン君、君たちは確かに勤勉で才能もある。だが、やはり初年度は二組で過ごしてもらおう。心配する必要はない、エリグールは君たちが可能性を広げられるよう努力を惜しまない。そして、カディナ=モーリア、話してみて確信したよ。君をこの学院に迎え入れたのは正解だったと。君は一組にふさわしい生徒だ、胸を張りたまえ」

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