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読書三昧の異世界スローライフ   作者: 小峰
魔術学院
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問答

「お嬢様、本当にこのような、その……子供が暗殺を企んでいたとお考えなのですか?」

 

 カティと呼ばれていたメイド服の女性が、俺の顔をまじまじと見つめながらそう問いかけた。


「さあな、だが現時点では絶対に違うとも言い切れまい。シルド、お前の見解を聞かせよ」


 少女がことさらに低い声を出すと、心臓をギュッとつかまれるような威圧感があった。

 シルドが息を呑むが分かった。彼はビシッと敬礼をして、言葉をつなぐ。


「この子供は、恐れ多くもお嬢様の隣の部屋であやしい本に目を通しておりました。おそらくは魔術書の類かと。荷物を持ち込んでいることから、無知な子供が迷い込んだという線も消えていますし、暗殺者、テロリストと見て間違ないでしょう」

「ふむ、では子供、お前の名は?」

「お嬢様! このような者の言い分など聞く必要はありません。たとえ暗殺者ではなかったとしても、無礼を働いていたのは事実。平民の子など、ここで斬り捨てても、どこからも文句など……」

「なぜ平民だと分かる?」

「このシルド、有力な貴族の顔と名前は一通り記憶しておりますので」


 少女は呆れたように苦笑すると、「そういう奴だったな、お前は」と呟く。


「だが、今は黙っていろ。わたしは、この子供と話しをしているのだ。さあ、名前を申してみろ」

「カディナ・モーリアと申します」

「カディナ、お前はここで何をしていた?」

「ただ、本を読んでおりました。ここは、わたくしの部屋ですので」

「お前の部屋? いったい何を言っている?」


 少女が眉根をあげて怪訝そうな表情になる。だが、不思議なのは俺も同じだ。俺と、この三人の間には何か大きな認識のずれがある。


「鞄の中にノーリッツ行きの乗車券がありますから、どうかご覧ください。また、この本を本当に魔術書だとお疑いなら、中身もあらためていただいて結構です」

「カティ」

「はっ」


 メイドがすぐに俺の荷物を確認し始める。

 本を手にとってパラパラとページを捲り、鞄の内側のポケット一つ一つまで裏返していく。


 手荷物はかなり少なかったので、メイドさんの荷物検査はすぐに終わった。鞄に入っていたのは、数日分の着替えと、本が数冊、それに食費の入った財布くらいのものだった。


「お嬢様、確かに鞄のポケットに乗車券が入っていました。見る限りでは確かにこの部屋の番号が書かれていますが」


 メイドが差し出した乗車券を、少女が受け取る。すると、シルドと呼ばれている男は、たまりかねたという様子で声を荒げた。


「そんなもの、いくらでも偽造できるではないか!」

「かもしれん。だが、お前には黙っていろと申し付けたはずだが?」

「ぐっ……失礼いたしました」


 シルドを侮蔑するような目でにらみつけた少女は、目を閉じ、心を落ち着けたようだった。次に目を開けたときには、また感情の宿らない目に戻っていた。


「カディナといったか、もしこの乗車券が本物だとするなら、面白いことが起こったようだぞ」


 一つも面白くなさそうな平坦な声音で、少女は続ける。


「実は王都から先、この車両は私たちが貸しきりにしたはずなのだ。つまり、鉄道会社の不手際か、お前が嘘をついているということになる。もし鉄道会社の過失だとすらなら、だ。人は過ちを犯すものだとはいえ、なんともお粗末な不手際ははないか?」


 確かにそうだ。ただのダブルブッキングなら、この世界ではそれほど珍しくもないのかもしれない。コンピューターで座席が管理されているわけでもないし、書類はほとんで手書きだ。

 ちょっとした書き損じや、荒い筆跡のせいでミスが発生しても不思議じゃない。

 だが、隣の部屋にあれだけしっかりとした清掃が入っていて、なぜ俺の部屋は放置されていたのだろう? 


 顎に手を当てて考えをまとめていると、視線を感じた。少女(と言っても、今はこっちが年下だけど)がこちらを見ている。まだ疑われているのだろうか? 


「お前は、平民の、しかも子供にしては口の利き方というものをわきまえているようだな」

「はい、祖父から厳しくしつけられました。祖父は、今よりもずっと身分の上下に厳しかった時代の人間ですので」

「なるほどな、ふむ……ノーリッツへ行くと言っていたが、ということはエリグールの生徒か」

「はい、今年から。一つ、お伺いしてもよろしいですか?」


 シルドが完全に人殺しの顔で、こっちを見ていたが、それでも少女の命令に逆らいはしなかった。


「いいだろう。申してみるがいい」

「ええと……お嬢様、とお呼びしていいでしょうか? 予定では、そちらのシルド様が、この部屋を使うことになっていたのですよね? 恐らくですが、お三方の乗車券を手配されたのも、シルド様ではありませんか?」

「ふふ、一つと言いながら三つも聞いたぞ? まあ、いい。私のことは好きに呼ぶがいい。残り二つの質問の答えは、そのとおり、だ。だが、なぜそのようなことを聞く?」

「稚拙ではありますが、一つ説明が思い浮かびました。ごく単純なミスではありますが、なぜそのようなことが起こったのかということに」

「面白い。では聞かせてみろ」

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