異世界の駅弁
まず目についたのは串焼きの屋台だ。鳥、羊、牛と三種類の串焼きがあって、それぞれに塩かタレかが選べる。本当に焼き鳥屋みたいな感じだ。
店主のおっちゃんが手早く肉に串を通し、いろり(?)の上に並べていく。
塩コショウをかなり強めに振って焼けば、肉から油が絞られる。その様子を見ていたら、もう我慢できずに羊のタレを一本買ってしまった。
タレは受け取った瞬間から匂いで分かるくらい、にんにくがきいていた。アリアとリリアには申し訳ないが、買ってしまったものを無駄にはできない。
せめて客室には持ち込むまいと、その場でかぶりつく。
肉は安物なのだろう、臭みが抜けきっていなかったが、しっかりと歯ごたえがあり、噛めば内側から肉汁があふれてきた。ピリッとするほど胡椒が振られていたのは、この臭みを誤魔化すためだろう。
しかし、むしろこのジャンクな感じが、にんにくのきいたタレと非常によくマッチしていた。
濃い目の味付けは、食べているうちに断然、ビールが呑みたくなってくる。
この世界では飲酒に年齢制限はないようだが、もちろん我慢した。
いくつか屋台を見て回った後、香辛料で炒めたライスの上に、鳥の焼肉がのった弁当を買った。
お米は、本格的なカレー屋にあるような粒の長いやつ。香辛料は、カレーのマサラに似ているが、少しちがう。匂いもそれほどきつくない。ただ、色は真っ赤でいかにも辛そうだ。
婆ちゃんの作ってくれた料理はどれも美味しかったが、貧乏中年の味覚を持った俺にとっては、少しばかり上品すぎた。屋台めぐりをして自覚したのは、思っていた以上にこういうジャンクな味に飢えていたらしいということだ。
部屋に戻ると、姉妹は外の喧騒とは対照的に、静かに食事をとっていた。
「ただいま」
「おかえりなさい、意外と早かったですわね」
そうだろうか? 買い食いもしたし、いくつか屋台を冷やかしたりもした。
けれど、姉妹はどちらも、やっと一つ目のサンドイッチを平らげたところらしいので、自分で思っていたより長い時間ではなかったのだろう。
「カディナさんは、何を買ってきたんですか?」
「これだよ」
首をかしげるリリアに、俺は紙の箱を開いて中を見せる。
「うわ、辛そうですね」
「僕も、何の料理だかは知らないんだ。ただ、屋台で調理してて美味しそうだったから、つい。ところで、二人のサンドイッチはどうだった?」
「それが、これ凄くおいしかったんです。お姉さまとも、食堂車で食べるより良かったかもって話していたところだったんですよ」
「ええ、駅でお弁当を買ったのは初めてでしたが、正直見直しました。ただ、あの人ごみだけがちょっと……」
「気持ちは分かるよ」
お祭りみたいなものだと思えば、そう気にもならないし、貴族のパーティに比べれば気は楽だが、これは育ちの違いというやつだろう。




