第五話 それはもう聞きあきた
「それワタシのおごり」
キッチンで働いている帳さんが珍しく缶コーヒーをおごってくれた。
正直僕には甘すぎて普段飲まないけれど、めったなことではないのでありがとうと礼を言った。
「ワタルいつもfake smileどうして?」
片言なゆえに素直に失礼な質問をしてくる張さんに、通常何が起ころうとも腹を立てない僕も少しムッとした。
「なんでだろうね・・」
僕を立腹させたことなどお構いなく、張さんは続ける。
「ワタシ目標ある」
そこそこのお金を貯めて祖国に帰るという使命を帯びている帳さんに、僕は偉いね、大変だろうけど頑張ってねと言った。
「おかえり~」
年頃の弟がいるというのに、生まれたばかりのような姿で出迎えてくれた姉は、お姉ちゃんに何かいいことが起こったかどうかわかる人~?と聞いてきた。
僕は溜め息をつくと、先日まで落ち込んでいたのに、もう回復しやがったと思った。
「なんか生き返ったって顔してるね」
「お姉ちゃんは今新たな獲物を追っていま~す♪」
そう言うと姉は筋肉隆々とした男の写メを僕に見せてきた。
「・・・。なんか、犯罪者みたいな顔してるじゃん」
僕の率直な感想を無視して、姉は今風でしょ?とかその六本木で道を教えた欧米人についてベラベラとまくしたてた。
「薬物とか使用してんじゃないの?」
謎の外国人のことを否定する僕に、姉は彼は半分日本人だから大丈夫よと分けのわからない理由を述べた。
「あんたみたいに本の虫みたいなのも悪くないけどさぁ、お姉ちゃんみたいに時には気楽に生きてみなさい」
そう言うと姉は先日のパーティの写真だと言って、僕とは別世界の人たちの集いの写真を見せた。
その人たちを見つめながら、神様にこのジャンルに振り分けられなかったことを感謝した。
「亘はこういう人たちを敬遠してるけど、意外とこの中に未来の彼女がいたりして」
「わがままを聞くのは姉ちゃんだけで十分なんだけど」
恋愛の話を始めると、いつも長続きしない僕に、姉は僕のストライクゾーンはどういう人なのかと聞いてきた。
「うーん。今までちょっと見とれた人たちは年上の人かな」
すると姉は高校生男子の月並みな答えね~と言った。
「まあ、ああいう人たちは僕には不釣り合いだろうけど」
姉は口角を上げてニヤリとすると、亘って恋愛にハマったら意外とブレーキが効かなそうだねと言った。
僕はそうなのかなぁと思った。
ときにはちょっとした言葉に凹んだりしますね。




