第十五話 目に狂いがない?
亘を見ていると、自分も2,3年前までは彼のように余裕がなかったなと思う。
早くに命を落としてしまったあの人に対しては全力を尽くしたつもりだったが、今となっては空回りだったのかなとも思う。
時間をかけて彼女のことを考えないようにする習慣はできたが、胸に秘めておくには重すぎる。
先日は亘の勝負服選びに付き合わされたのだが、かつての自分も何を着ればあの人は俺の評価を上げてくれるのだろうと考えていたなと懐かしく思った。
ある日突然彼女が避けられない事故にあってしまったとき、仲間と酒盛りをしていた兄を俺は責め、それ以来口をきいていない。
あの人の恋人であった兄を責め続けることで、彼らの蚊帳の外にいた自分を慰めたいのかもしれない。
負けるとわかっている試合でも、参加する努力をすればよかったと後悔している。
「やっぱり愛川は見る目があるんだな」
亘がバイト中に不服そうな顔をしながらそう言った。
「・・・?なんのことだ?」
この間アドバイスをした服を着て彼女と会ったところ、直ぐに友達に選んでもらっただろうと言い当てられたという。
「褒めてくれてるなら光栄だなぁ」
「その気になれば僕だってセンス良くなれるし」
苦々しい顔をしてそう言う亘を見ていると、なんだか可愛らしく思え、亘の彼女は彼の人柄に惹かれたのだろうなと感じた。
断り文句がなくなってきた。
愛していたのかと問われれば言葉に詰まってしまうが、一時は一緒にいたいと思っていた相手だというのに、最近ではあの男のことを目障りな存在に思えてきた。
仕方がないので学校帰りに会えるかもとLIMEに返信したら、仕事がおすかもしれないけれど絶対行くよとと返ってきた。
そろそろヤツも私に飽きてくれないかなと身勝手なことを切望する。
考えてみればあの男には妻子がいるのだから裏切ったって平気なはずだ。
面倒なことをすっ飛ばして相田錦とやり直せたら、朱のように幸せな顔ができるような気がする。
彼のことはまだよくわからないが、退屈を覚えるということはない。
話していて笑い転げるということもないが顔を合わせていると少しときめいている自分がいる。
なんとか怒らせないようにしてあの男の前から退散したい。
「今日はゆうかを連れて帰りたいなぁ」
こちらは別れ話をしようとしているのに、男がそう言うので私はうろたえた。
考えに考えた末、私は深々と頭を下げた。
「こういうのは長続きしないと思う」
「えっ、どういう意味?」
少し前までデレデレしていた男の顔は真顔になり、私は息が詰まりそうになった。
「どうしたの?急に」
私は男との関係に不満を抱いているような顔をして普通の恋愛がしたくなったと言った。
「でも、俺たちうまくいってたじゃん」
「最初はね。でも、最近は・・・」
言葉を濁す私に、男は訝るような表情をして私を覗き込んだ。
「もしかして・・、例の家庭教師の男といい感じになってる?」
「えっ・・」
いきなり無関係な人の話が出てきたので面食らった。
「ち、違うよ。先生はいい人だけど、そういうんじゃない」
「ふーん」
男は不機嫌そうな顔をすると、でもそもそもその気にさせたのはそっちだよなと声を落とした。
「人の家庭壊しといてそれはない」
思った以上に面倒な男だなとため息をつくと、彼は私の耳元で囁いた。
「お前だけ幸せになるなんて許されないからな」
自分は男の目利きができないなとつくづく痛感した。
苦難の始まりです~(>_<)